表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイトメア・ミステリア  作者: 堂樹@書き専
【Case2】少女たちの記憶を繋ぐ
45/48

【19】



 その後の会話で、今週土曜に那奈さんの自宅を訪れることが決まった。当日、ご両親は不在らしい。感謝を伝えて通話を終えた。


「那奈さんの家には私一人で行ってくるから。春斗くんはお留守番ね」

『何で仲間外れにするんですか。俺も一緒に行きますよ』


 ……と言われても。

 那奈さんに事情を説明すれば、春斗くんに伏せていた内容が露呈してしまう。しかし彼は同行すると言い張って引き下がらなかった。

 那奈さんが春斗くんの存在をどの程度認識できるか分からないが、彼女の前で喧嘩になっても厄介だ。仕方なく、真司くんに指摘されたことや手首の痛み、悪夢について打ち明けることにした。無言で話を聞く春斗くんの面持ちは固い。


「――そんなわけで最近ちょっと焦ってたんだよね。八つ当たりしちゃったこともあったけど、そこは大目に見てもらえないかな」


 あはは、と笑って誤魔化そうとしたのだが。

 正面に座る春斗くんは不機嫌そうに眉を吊り上げ、バシンとテーブルに両手をついた。


『笑い事じゃないでしょう! 何でそんな大事なことを黙ってたんですか!』

「だ、だって……悪夢や痛みのことを話したら『俺のせいだ』って思うでしょ?」

『当たり前でしょう! 俺……自分が傍にいるせいで凛花さんが倒れたりしたらどうしようって……本当に怖かったんですよ? 凛花さんが「気持ちが塞ぐ」と言うから、不安を表に出さないよう気を付けて振る舞ってきたけど……』

「……ごめん。そこまで気に病んでたなんて思わなかった」

『凛花さんに異変が起きてるなら、やっぱり会うのは最小限にします』

「その必要はないよ。詩織ちゃんが語ってくれた内容からして、悪夢は彼女の感情とリンクしたものだと思う。詩織ちゃんは無事に成仏したから、悪夢を見ることも右手が痛むこともなくなるんじゃないかな」

『それは単なる憶測で、俺に原因がない証明にはなりません。今後の会話は書き置きにでもしましょう。俺にはノートがあるので、それぞれ言いたいことを書いて玄関に置いておく感じで。那奈さんのところには一人で行ってきてください』

「……本当にごめん。それで気が済むなら私も会話用のノートを作るよ」

『隣の部屋で過ごすのもやめます。また適当にマンションのモデルルームでも捜しますよ』


 春斗くんはこちらを見ることなく立ち上がり、窓に向かって歩き出した。

 良かれと思って黙っていたが酷く傷付けてしまったようだ。

 嫌われたくない――そんな思いで彼の背中を追う。


「本当に春斗くんのせいだなんて思ってないから。会えなくても隣の部屋から出て行ってもいいけど、それだけは信じてほしい」

『重要なのは凛花さんがどう思うかじゃなく、俺の存在が害悪という可能性が消えてないってことでしょう』

「絶対違う! 私は春斗くんの存在に何度も助けられたよ。歌詞が完成するのも楽しみにしてるから」


 窓の手前で振り返った春斗くんと目が合う。

 彼の瞳は僅かに潤んでいた。


『……すみません。実はもう完成してるんです』

「そうなの?」

『でも見せたくない』

「どうして?」

『俺の歌詞で凛花さんの心を動かしたら、一緒に歌の練習をして、凛花さんが歌い手デビューして、俺の歌が世界に広まって……未練が解消しちゃうかもしれない。成仏してこの世から消えてしまうんです。凛花さんはそれでいいんですか?』

「…………いいわけないじゃん。でも春斗くんにとっては、それが一番の望みだもんね。引き止める権利なんて……」


 私の目の前まで戻ってきた春斗くんが、悲しげな面持ちで見下ろしている。見つめ合うことに耐え切れず、視線を床に落とした。


『凛花さん。どうしてそんなに苦しそうな顔をするんですか?』

「……苦しいに決まってるでしょ。友達と永遠のお別れなんて」

『友達、ですか。本当にそれだけ?』


 目線を上げると、春斗くんの頬が僅かに緩んでいた。

 さっきまでの緊迫感が嘘のようだ。


「何笑ってるの? こんな大事な話の途中で――」

『すみません。俺、すごく卑怯なことしてますね。凛花さんの気持ちを探るような訊き方して反応見て、先に大事な言葉をもらおうとしてる』

「……え? もしかして春斗くんも――」


 遮るように、彼の人差し指が私の唇に触れる。

 と言っても何の感触もない。

 ただ〝触れているように見える〟だけ。


『俺は凛花さんのことが好きです。返事、期待しちゃってもいい?』

「……うん。私も春斗くんのことが好きだよ」

『俺の彼女になってくれます?』

「もちろんなりたい、けど……」

『何ですか?』

「私は幽霊の春斗くんと違って、これから徐々に老いていくよ? そんな相手で本当にいいの?」

『逆に訊きますけど。凛花さんは俺の見た目だけが好きなんですか?』

「そんなことない」

『だったら問題ないですよね。でも……大切な存在だからこそ、少し距離を置かないと』

「ちょっと待って。何でそうなるの?」

『さっきまでの会話、忘れちゃったんですか? 好きな人が危険に晒されるかもしれないのに、毎日くっ付いていることなんてできません』

「私は……会うのを控えるなんて嫌。身の安全を考えて一人でいるより、春斗くんと一緒に過ごす方が元気でいられると思う。だから距離を置くなんて言わないで」

『……まったくもう。ワガママな人ですね』

「ワガママ王子に言われたくないよ」

『……それじゃあ、那奈さんに話を聞くまでは今までどおり過ごします。俺も那奈さんに訊いてみたいことがあるので』

「何?」

『それは……今は内緒です』


 春斗くんはニカッと無邪気に歯を覗かせた。

 気になって再度訊ねたが返事をもらうことはできず……。

 どのみち那奈さんに会えば分かることだから、楽しみとして取っておこう。




 迎えた土曜日。

 午後一時、江南市内へ入った。《さくら団地》からもっとも近いコインパーキングに車を停め、そこから徒歩で団地に到着。

 那奈さんとはB棟入口で待ち合わせている。

 私たちが到着したときには既に、赤ちゃんを抱いたボブヘアの女性が立っていた。

 彼女が那奈さんで間違いない。

 確認しなくても分かる。

 何故なら、その女性の顔を知っていたから。

 最後に見た悪夢の中――川で溺れ、助けを求めていた女性だ。


 一連の悪夢の中で、春斗くんと詩織ちゃん以外の登場人物は彼女だけ。詩織ちゃんが目に焼き付けたのであろう、大人になった那奈さんの姿。私にも大きな印象を残している。声を掛けると、彼女は何故か戸惑った様子で挨拶してくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ