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ナイトメア・ミステリア  作者: 堂樹@書き専
【Case2】少女たちの記憶を繋ぐ
41/48

【15】



「那奈さんのおっしゃるとおり、声を掛けさせてもらったのには事情があります。でもそれをお話しする前にひとつ聞かせてください。那奈さんが私に電話をくれたのは、急な体調不良と関係しているのではありませんか?」


 電話越しでも分かるほど緊張感が漂っている。

 やがてそれを破るように、ふっと笑むような声が聞こえた。


『オカルトネタを集めているくらいだから、私の話も笑わずに聞いてくれますよね』

「それはつまり、昨日倒れた原因がオカルト現象にあるんですか?」

『はい。禍々しい気配と僅かに聞こえた罵声……「殺してやる」って』


 随分と物騒な話だ。

〝声が聞こえた〟という表現からして、やはり幽霊の姿を見ることはできないのだろう。


『霊感は小さい頃からありましたけど、あんな鮮明に声が聞こえたのは初めてでした。そのあとすぐに息苦しくなったんです』

「それ以降また声が聞こえたとかは?」

『いえ、何も』

「あの……ものすごく失礼な質問になってしまうのですが、誰かに恨まれていた心当たりなどはありませんか?」


 意を決し投げ掛けると、那奈さんは沈黙した。

 やはりやましい過去があるのだろうか。

 とはいえ何の証拠もないのに、友人を殺したかのような訊き方をするのはまずい。本人からきっかけになる情報を引き出すことができれば――。


『川上さんは私の身に起きることを予知していたんですか?』

「そんなことはないです。私はインタビューをお願いしたかっただけで」


 過去を知るきっかけどころか話を逸らされてしまった。このまま互いに探り探りの状態で会話していても、肝心なところに手が届かないまま終わってしまうかもしれない。やはり私の方から詩織ちゃんの話題へ寄せていくしかないか……。


「那奈さん自身に心当たりがなくても、相手の一方的な憎悪や逆恨みなども考えられます。これまでに身近な人の死を経験していませんか?」

『……亡くなった人物が私を恨んでいると?』

「あくまで可能性の話ですから気を悪くしないでください。たとえば仲の良かった友達と喧嘩別れになってしまったとか、何かありませんか? 最近だけでなく昔のことでも」

『……やっぱり……詩織が私のことを……』


 希望どおりの展開になった。

 ここから話を膨らませることができる。

 むしろここで収穫なく話題が終了したら、せっかく得たチャンスを失ってしまうだろう。必ず真相解明に繋がる会話へと誘導しなければ。難易度の高いミッションを前に、激しく心臓が暴れ出した。


「詩織という子が亡くなったんですね? いつ頃、どのように?」

『中学生の頃、都市伝説の調査中に事故が起きて……。私は見殺しにしてしまったのかもしれません』

かもしれない(・・・・・・)って? 彼女が落下したことに気付かなかったんですか?」

『……え? 川上さん、詩織の事故について知ってるんですか?』


 真相を引き出したい感情が前のめりになり、自分の犯したミスに気付くのが遅れた。那奈さんは「事故が起きた」としか言っていない。詩織ちゃんから初めて事情を聞いたときにも勘違いが生じたように、事故から真っ先に〝転落〟を連想する人は多くないだろう。「落下した」という発言は不用意だった。


『川上さん……何か知っていることがあるんですか? お願いです、何かあるなら教えてください。些細なことでもいいんです』


 緊張を押し殺すように、ぎゅっとスマホを握り締めた。真実を話すべきだろうか――いや、躊躇している場合じゃない。ここでその場凌ぎの嘘をつけば、後々ボロが出てしまう気がする。霊感を持つ彼女なら私の境遇を理解してくれると信じるしかない。


「嘘みたいな話に聞こえるかもしれませんが……私には幽霊が見えるんです。那奈さんのお友達、牧田詩織ちゃんの姿も」


 驚嘆の声が聞こえたのち、妙な沈黙となった。

 しかし那奈さんは私の体質を疑うことなく受け入れたようだ。


『幽霊になった詩織は……私のこと、何か言ってませんでした?』


 那奈さんの声は震えていた。

 恐れ、葛藤、不安――様々な感情がこもっているように感じられる。何から伝えるべきか逡巡し、那奈さんに辿り着いたいきさつから話すことにした。


「那奈さんを訪ねようとしたのは、詩織ちゃんに話を伺ったからなんです。那奈さんはオカルトに詳しかったから、私の欲しい情報を持っているかもしれないと」

『詩織は幽霊になってから何度も私のところに来ていたんでしょうか』

「いろいろ事情があって、幽霊になった詩織ちゃんがそちらに行ったのは昨日が初めてなんです。那奈さんが聞いた〝声〟もおそらく詩織ちゃんのものではないかと」

『じゃあ詩織は私のことを殺そうと――』


 堰を切ったように泣き出す那奈さん。

 泣きながらも何か言っているようだが、全く聞き取ることができない。多少なりとも落ち着いてもらわなければ。


「今、那奈さんから詩織ちゃんを引き離そうとしているんです。あれから声が聞こえていないなら、計画は成功しているはずですから。少なくとも今すぐ異変が起きることはないと思います」

『でもっ……詩織が……私を殺したいほど恨んでいる事実は変わらない……』

「詩織ちゃんが亡くなったのは偶然の事故(・・・・・)でしょう? 仕方ないじゃないですか」


 もし、那奈さんが詩織ちゃんを突き落としていたのならば。長年隠し続けていたとしても、良心の呵責に耐えきれず本当のことを話してくれるかもしれないと思い訊ねたが。彼女は殺人など犯していない……そんな気がする。


 やがて那奈さんの嗚咽は小さくなり、深呼吸のような息遣いが聞こえた。


『実は私……詩織が亡くなったときの記憶がほとんどないんです』

「記憶喪失に陥ったと?」

『ショックで頭が真っ白になってしまったんだと思います。あの日……私は危険な場所だと理解した上で、調査に出掛けることを提案しました。詩織は優しい子だったから、私はそれに甘えてワガママを通してしまったんです』


 詩織ちゃんは湿った地面で足を滑らせ、川に転落した。那奈さんは突然の出来事に動転し、事故直後のことを覚えていない。しかし唯一、泣きながら交番を目指すシーンだけは記憶していた。その後警察による捜索が行われたという。



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