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ナイトメア・ミステリア  作者: 堂樹@書き専
【Case2】少女たちの記憶を繋ぐ
29/48

【3】



「ちなみに詩織ちゃんは特集記事とか覚えてる?」

『なんにも覚えてないです。わたしは那奈に付き合ってただけで、はっきり言って興味なかったから。那奈の霊感が本物なのかも分かんない』

「じゃあ『幽霊と仲良くした人は死ぬ』みたいな話を聞いたことはない?」

『……たぶんない、と思います。呪いとか祟りの話なら聞いたことあるけど、そういうのは幽霊を怒らせた人に襲い掛かるやつだって言ってました。だから心霊スポットでふざけたり、お清めの塩とかで幽霊を攻撃したりしなければ、呪い殺されることはないって』

「その話が事実なら、春斗くんを本気で怒らせなければ私は無事でいられるのかな」

『でも間違ってるかもしれない……。那奈に聞かないと分かんないです』


 わざわざ会いに行ったところで怪しまれるのがオチだ。

 それでも……先日の悪夢+右手が消え掛かったかもしれないことを踏まえると、些細なヒントでも行動した方がいいだろう。万が一、私の命にタイムリミットが迫っているとしたら取り返しがつかない。それに、この話をするために来てくれた詩織ちゃんの親切心を無下にするのも申し訳なかった。


「そういえば、まだ詩織ちゃんがどこから来たのか聞いてなかったね」

『中谷さんとここに来る前は稚内(わっかない)ってところにいました』

「そっか、稚内……って、え!? 北海道!?」


 まさかの地名に、つい大きな声が出てしまった。出発前の春斗くんは『少し足を伸ばして聞き込みする』と言っていたが、稚内と言えば日本の最北端。〝少し〟どころではない。


「どうしてそんな遠くに行ってきたの?」

『どうせならとことん遠ざかってみようと思った結果です。飛行機なんて久々に乗ったなー』

「幽霊はタダで乗れるからいいけど、私にしてみればもはや旅行だよ。那奈さんに接触するための口実を考えて、詩織ちゃんに案内してもらえばいいかなと思ってたけど……北海道なんてさすがに億劫だな」

『詩織ちゃんの地元が稚内、なんて言ってませんよ? ここでひとつ、希望になるかもしれないお知らせがあります』

「何? そのもったいぶった言い方は」

『その前に説明しておかなきゃいけないことがあるんですけど。幽霊にはそれぞれ制限みたいなものが存在するでしょう? 俺が階段を下ることができないように、詩織ちゃんにも制限っぽいものがあるんです』


 詩織ちゃんに視線を戻す。

 彼女は泣きそうな声で『ごめんなさい』とこぼした。


『実はわたし、記憶がないんです』

「記憶がないって……自己紹介してくれたし、那奈さんのことも教えてくれたよね?」

『そういうのじゃなくて、自分の家の場所とか……』


 詩織ちゃんから抜け落ちている記憶は、個人情報として重要な部分ばかりだった。自宅住所や両親の名前、通っていた学校の名前。祖父母の名前や居住地も分からない、もちろん那奈さんの住んでいた場所も覚えていない。亡くなってから現在まで、家族や那奈さんに会えてもいない。


 那奈さんと過ごした時間のことは鮮明に覚えているが、その他の記憶は曖昧、もしくは失われている状態らしい。


『俺たちが出会ったのは稚内ですけど、詩織ちゃんは長年いろんな場所を転々としてきたみたいで。幽霊として意識を持ったときは名古屋の海岸にいたらしいです。つまり、死亡した場所が稚内という可能性は低い』

「なるほど。北海道に比べたら名古屋なんて近所みたいなものと思えるね。でもどうして海岸にいたの?」

『詩織ちゃんの死因は転落事故なんです。川の急流に呑まれた結果、海に出てしまったと』


〝事故〟と聞き、勝手に交通事故だと思い込んでいた。亡くなったときのことを詳しく訊くのも心苦しいが、詩織ちゃんに説明の追加を求める。


『あのとき、わたしは那奈と一緒に出掛けてました。那奈が「都市伝説の舞台になってる場所に行きたい」って言って……。場所は覚えてないけど、現場で写真を撮ってたとき、足を滑らせて川に落ちたんです』


 中学生の女の子二人で危険なことに手を出していたようだ。那奈さんはオカルト活動にのめり込んでいたのだろう。詩織ちゃんが登山に行ってきたようなスタイルなのにも納得した。


『わたし、川の中をどんどん流されて。最初はすごく苦しかったけど、いつの間にか眠気みたいなのがきて。それで、気付いたら海の中にいました。でも身体は濡れてなくて、呼吸も苦しくなくて、なんかおかしいなと思って。必死で泳いで海岸に辿り着いたとき、自分の身体が透き通ってることに気付いたんです。最初は名古屋の街を歩き回って、そこからだんだん遠くに離れてみたけど……』


「家族や那奈さんを発見できなかったんだね?」


『はい。もしかしたら都市伝説調査は愛知県内じゃなくて、もっと遠いところだったのかもしれない……そう思って、海沿いや川沿いをメインに歩いてました。だけどなんか、幽霊になってから身体がしんどくなることが増えて。長く歩いてると息苦しくて疲れちゃうから、一日中休んでばかりで全然進めなくて。メモや写真を撮ることもできないから、どこを歩いたのかも分かんなくなっちゃって……』


「春斗くんは『身体が軽く感じられる』と言ってたけど、逆のパターンもあるんだね。今はどこも苦しくない?」

『大丈夫です。中谷さんが友達になろうと誘ってくれて、幽霊になってからそういうの初めてだから、ちょっとだけ元気になった気もしてます』

「それなら良かった」

『中谷さん、いろんなお話をしてくれて。わたしが天国に行けなかったのは未練があるせいだってことも教えてくれました』

「ちなみに、詩織ちゃんの未練はどんなことなの?」

『……たぶん、ですけど……。あの頃、那奈と約束してたことがあるんですよね。それができなかったから……かな?』


 生前の詩織ちゃんには果たされないままの約束が存在していた。もしかしたら私たちの件と並行して、成仏するための手伝いができるかもしれない。



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