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ナイトメア・ミステリア  作者: 堂樹@書き専
【Case2】少女たちの記憶を繋ぐ
28/48

【2】



+ + +



 身体が重い。

 激しい頭痛がする。

 熱を測ってみたら四〇度もあった。

 大人しく布団に入っていると、枕元に春斗くんが現れた。

 手には水の入ったグラスと風邪薬を持っている。

 いつの間に、現世のものに触れられるようになったのだろう。

 渡された錠剤を口に放り込み、水を飲む。


 ――直後、グラスが布団の上に転がった。

 右手に力が入らない――いや違う。

 私の手がない。

 まるで切断されたかのように、完全に消失している。

 そう認識した瞬間、手首から鮮血が噴き出した――。



+ + +



 ぞっとする悪夢だった。

 久々の感覚に動悸がする。

 春斗くんが『聞き込み範囲を広げる』と言い、姿を消してから六日。リアリティのある悪夢で目覚めた私の頭には、天海ルイの顔が浮かんでいた。


 彼と関わっていた頃は悪夢に悩まされたが、あの件は終わったのだ。今日は偶然悪夢を見てしまっただけだろう。熱っぽさなどなく、もちろん両手とも存在している。痛みもない。


 何となく陰鬱な気分のままバイト先に顔を出すと、同じ時間から入っている真司くんと鉢合わせた。一緒にタイムカードを押してキッチンへ入る。


 正午を過ぎて客足が少なくなってくると、おやつ時のラッシュに向けて仕込みを始めた。真司くんはひたすらきゅうりをスライスし、私はひたすら茹で卵を潰していく。大きなボウルに網を乗せ、ところてん方式で茹で卵を潰していると、突然「うわっ!」という声が聞こえた。


 何事かと思い、手を止めて右隣を見る。

 真司くんがぽかんと口を開け、私の手元を凝視していた。


「どうかしたの?」

「あ、いや……気のせいだったみたいっす」

「何が?」


 真司くんは茹で卵を掴んでいる私の右手に顔を近付けると、「そりゃ気のせいだよな」と呟き、ほっとしたように息を吐いた。


「一瞬、手首から下が消えてるように見えたんすよ」


 自分の右手を見つめた。

 茹で卵を潰す際は透明のビニール手袋を着用しており、手が透けて見えるのだが……真司くんの目には、私の手が消失しているように見えたらしい。


「昨日徹夜して寝不足だからそう見えたのかも。急に大声出してすんません」

「徹夜? 大丈夫なの?」

「ゲームしてただけなんで大丈夫っす。ゾンビパニックホラーなんすけど、高得点狙いで手とか頭とかガンガン撃ち抜いてたから。その影響で川上さんの手が消えて見えたのかもしれないっすね」


 誤魔化すように笑った真司くんは作業を再開した。


 失くなったように見えたという私の右手。

 本当に、ただの見間違いだったのだろうか。

 妙な胸騒ぎを覚えた。

 今日の悪夢の中で消失した私の手は……右だった気がする。

 天海ルイのときと同じように、今回も何かの予知だろうか。

 まさか、天海ルイの意識が今もどこかで生きているのだろうか。

 それとも……私の身体に異変が起きているのだろうか。




 また悪夢を見るかもしれない。

 右手に異常が現れるかもしれない。

 そんな懸念を抱きつつ過ごしていたが、何も起きる気配なく迎えた翌日。春斗くんが顔を出した――見知らぬ女の子の幽霊を引き連れて。


 いかにもおとなしそうな中学生くらいの少女。

 ショートの黒髪、右頬の真ん中にあるホクロが印象的だ。

 ルックスのイメージと対照的に、登山にでも行くかのような服を身に着けている。春斗くんの隣に正座した彼女は、恐縮そうに肩を丸めていた。


『この子は牧田詩織(まきたしおり)ちゃん、十四歳、中学三年生。事故で亡くなったらしいです』

「どうしてその子と一緒に戻ってきたの? まさかまた、成仏絡みのお願いを勝手に引き受けちゃった?」

『その心配は要りませんよ。詩織ちゃんの生前の友達にオカルトマニアがいるんです。しかもその子、幽霊の気配を察知できるんだとか』


 春斗くんいわく、私たちの関係や調査している件については説明済みとのこと。詩織ちゃんは蚊の鳴くような声で話を進めてくれた。


『わたしのクラスメイト……佐伯那奈(さえきなな)っていう子なんですけど。霊感があるって言ってて、怪奇現象とか心霊スポットとか詳しいんです。わたしは保育園の頃から那奈の親友で、よく一緒に心霊スポット巡りをしてました』

「霊感……か。那奈ちゃんは幽霊を見たことがあるの?」

『それはないと思います。怪しい声とか冷たい気配を感じるって』

「私とは違うみたいだね。霊感っていうのが曖昧でピンとこないんだけど……どんな感じなのか聞いたことはある?」

『なんか、急に鳥肌が立ったり、呻き声とか泣き声みたいなやつが聞こえたりするらしいです。那奈は「絶対に幽霊の姿を見る」っていつも張り切ってました。《霊魂の世界》は特に好きな雑誌らしくて、毎号買ってわたしにも見せてくれて。最終号の発売日は、那奈に「一緒に来て」って頼まれて本屋さんに行きました』


《霊魂界》を毎号買っていた女の子。

 確かに貴重な存在だ。

 ただ……《霊魂界》の最終号が出たのは約二十年前。

 つまり詩織ちゃんが亡くなったのは――。


『わたしが死んだのは二十年くらい前です』

「那奈ちゃんはもう立派な大人になってるね。三十四、五歳かな」


《霊魂界》を愛読していたオカルトマニアのブログによると、《幽霊との共存》の記事が掲載されたのは廃刊の約四年前。当時、那奈ちゃんは小学校四~五年生くらいだ。


「那奈ちゃん――いや、那奈さんと呼ぶべきかな。いつ頃から《霊魂界》を買っていたか分かる?」

『そこまでは分かんないです。ずっと前から買ってるみたいだったけど』


 仮に那奈さんが該当の号を買っていたとしても、とっくの昔に処分している可能性もある。とはいえ毎号買い集めるほど熱心だったなら、掲載内容は記憶しているかもしれない。



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