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第24話:聖女様は、刺客に敗れる

◇◆◇◆◇


 翌朝。資料集めに向かうため、俺は玄関のドアノブに手をかけた。


「(……なんだこれ)」

 ドアを数センチ開けた瞬間、目の前に異様な光景が広がっていた。

 玄関から門まではおよそ10メートル。その通路を塞ぐように、高さ約1メートルほどに積み上げられた土嚢の壁。そして、その中央には優雅に白いパラソルを広げ、ティーセットと共に鎮座する陽葵の姿があった。

 玄関ドア(俺)→土嚢の壁→陽葵→土嚢の壁→道路。まさに鉄壁。住宅街に突如現れた一人きりの野戦築城だ。


「なんで陽葵がここに…」

「あ、おはようございます、湊くん。いい天気ですわね。更生には絶好の引きこもり日和ですわ」

 陽葵は、停学中で自宅謹慎中のはずなのに、一点の曇りもない完璧な聖女の微笑みを浮かべている。ただし、その膝の上には、美月が予言した通りの『AKM(精巧なモデルガン)』が置かれ、銃口には可愛らしいピンクのリボンが結ばれていた。


「陽葵……。お前、謹慎はどうしたんだよ。家で反省してろ」

「反省ならしていますわ。昨夜寝る前に、あなたにおめおめと資料集めを少しでも許そうとした、自分の海より深い甘さを。……さあ、戻りなさい。お外にはあなたを汚す毒素がいっぱいですのよ」


 その時、土嚢の向こうから春香の声が聞こえてきた。

「……あはは!夜凪ー!迎えに来たよー!また楽しそうなことやってるね!混ぜてー!」

 春香は自転車で爆走しており、後ろの荷台には相変わらずスマホで撮影中の美月が乗っている。


「……来ましたわね、外来種」

 陽葵が優雅にティーカップを置き、モデルガンの銃口を春香に向けた。


「天ヶ瀬さん!邪魔だよー!どいてどいてー!」

「どきません!ここは今、私の聖域に指定されました!夜凪くんを一歩でも外に出そうものなら、この塩素スプレー内蔵弾で、あなたのハチミツみたいな脳みそを洗浄して差し上げますわ!」

「……物騒な弾丸(たま)作るな!」


 春香は急ブレーキをかけて止め、自転車から降りると美月と共にジャンプして土嚢を飛び越えて言った。

「夜凪!今だよ、それ飛び越えてこっちへ走って!」

「え……お、おう」

 言われるがまま、第一土嚢を飛び越える。

「逃がしませんわ!夜凪くん、戻りなさい!私の腕の元へ、いや私の体の中へ戻りなさい!!」

「妖怪かよ!」

 陽葵が立ち上がり、俺のシャツを掴もうと手を伸ばす。


 しかし、美月が陽葵の前にスッとスマホの画面を突き出した。

「……あ、天ヶ瀬さん。これ。あなたのお母様から『陽葵、謹慎中に脱走したって本当?』ってメッセージ来てるよ。……最初の送信者は…相川美月…私か。ま、しらんけど」


「相川ぁぁぁぁ!!あなたという人は……!!」

 陽葵がスマホの通知に一瞬動揺した隙に、俺は春香に手を引かれ、土嚢のバリケードを越えた。続いて美月も飛び越える。


「あああ! 待ちなさい!待ちなさい夜凪くん!待って、お願い……!行かないでぇぇぇぇ!!」


 背後で、叫びながらモデルガンを乱射する(空砲がパシュパシュ鳴っている)聖女の声が遠ざかる。


 春香はサドルに座り、俺と美月は荷台に座り駅へと向かって駆け出した。

 資料集めというか、これはもう()()に近い。そしてこの亡命が、陽葵の独占欲をさらなる深淵へ叩き落とすことを、まだ知らない。

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