第17話:聖女様は「嫌い」を証明したい
昨日の「リンゴ未遂事件」以来、陽葵は完全に意固地になっていた。自分の感情を「独占欲」と見抜かれたことが、彼女の誇りにかけて許せなかったらしい。
「湊くん。今日こそ、私とあなたの間に愛など存在しないことを、学園中に知らしめますわよ」
放課後の準備室。陽葵は気合の入った(というか殺気の入った)表情で、俺に一枚のチケットを突きつけた。
「……遊園地のペアチケット?陽葵、お前さっきの言葉とやってることが矛盾してるぞ」
「矛盾していませんわ!これは『更生プログラム・課外活動』ですの。私たちがカップルのように振る舞いつつ、その実、お互いに一ミリも心を動かさない冷え切った姿を、あえて人混みの中で見せつける。これこそが、最上の『嫌い』の証明になりますわ!」
「(……もはや何がしたいのか分からんが、相当追い詰められてるな)」
結局、俺は陽葵に引きずられるようにして、休日の遊園地へと連れ出された。陽葵は「あくまで更生指導ですから」と言い張りながら、なぜか普段の私服よりも明らかに気合の入った、白を基調とした可憐な私服に身を包んでいる。
「……さて。どこから見せつけてやりましょうか。まずはあのアトラクション――」
「あ!夜凪!天ヶ瀬さん!奇遇だねー!」
背後から飛んできた、聞き覚えのある太陽のような声。振り返ると、そこにはカジュアルなショートパンツ姿の春香と、相変わらず無関心そうにアイスを舐めている美月がいた。
「(……嫌な予感しかしない)」
「あら……辻岡さんに、相川さん。こんなところで何を?」
陽葵の笑顔に積乱雲が立ち込める。
「うちらも遊びに来たんだよ!ね、美月!」
「……私は、春香に『絶叫マシンで叫ばないと新作のガチャ運が落ちる』って言われて無理やり連れてこられただけ」
美月は俺の首からぶら下がった「所有者:天ヶ瀬 陽葵」のストラップを一瞥し、ニヤりと笑った。
「へー、私服でそれ付けてるんだ。本当に仲良しだね。ウケる。……あ、もしかしてこれ、『嫌い』を証明するためのデート?」
「っ!? な、なぜそれを……!」
「顔に書いてある。てか、天ヶ瀬さんのその格好、明らかに気合入ってるし。本気で『嫌い』だと思ってたら、そんなに可愛くしてこないでしょ」
美月の「無関心な闇」が、陽葵の私服コーディネートという聖域までをも侵食し始める。
「なっ……!これは、聖女としての身嗜みであって……!」
「いいじゃん!じゃあさ、せっかくだから4人で回ろうよ!私と夜凪でジェットコースター乗るから、天ヶ瀬さんは美月と待っててよ!」
春香が俺の腕を掴み、走り出そうとする。その瞬間、陽葵がトング(私服に合わせてパール加工済みの特注品)をカバンから取り出し、ガシッと俺のもう片方の腕を掴んだ。
「……させませんわ夜凪くんは更生中。急激な重力は彼の脳に悪影響を及ぼします。乗るなら、私と……私が彼の体をガッチリ固定した状態でなければ認めません!」
「(それ、ただ一緒に乗りたいだけだろ)」
「あはは、結局一緒がいいんじゃん!ほら行こう!」
春香に引っ張られ、陽葵にホールドされ、美月に後ろからスマホで動画を撮られる。
俺と陽葵、春香と美月がそれぞれ横並びに座りコースターはプラットフォームを発った。荷物を置き、席に座る間も「やっぱり嫌ですわ!」と叫んでいたものの、春香に宥められた。




