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「11個ある!」

作者: 仲山凜太郎
掲載日:2025/12/26

 今年もクリスマスがやってきた。毎年毎年ご苦労なことである。たまには1回ぐらい休んだら良いと思うが、大人の事情でそうもいかないのだろう。

 私にとって、すでに「クリスマスは恋人と甘い一時を」なんていうのはハクション……もとい、フィクションの世界になっている。なろうの小説でもこんなシチュエーションを真面目に書く人はほとんどいないだろう。ギャグとしてならあるかも知れないが。

 さて、負け惜しみはこの辺にして本題に入ろう。


 私にとってクリスマスは年に1度の「高い鶏もも肉とケーキを食べる日」である。25日の午後7時。駅前のスーパーで値引シールが貼られた鶏モモを真剣に吟味し、ちょっと高めのお一人様用ケーキを籠に入れる。平時ならまずしない買物だ。

 お一人様だって良いじゃないか。独身だもの

 ただ、今年はちょっと違う。実家で過ごした。ケーキもチキンも実家が用意するので私は手ぶらだ。いつだって、どんなときだってタダ飯はうまい。昼間、干し芋を食べていたら奥歯の詰め物が取れたなんてトラブルも忘れられた。

 実家についたとき、すでにケーキとチキン、そしてノンアルコールのシャンパンが用意されていた。うちは父方、母方共に下戸揃い、観光葬祭で親族が集まって食事をしても烏龍茶とオレンジジュース、サイダーばかりが並ぶ。わずかに混じっている酒飲み(ほとんどが親族の結婚相手)が肩身を狭くしてビールを飲んでいるという下戸一族である。おかげで私の小説には酒飲みはほとんど出てこない。でも酒が飲めなくても酔っ払いは書ける。酔っ払いの描写が上手い落語家が下戸だったなんてよくある話だ。

 シャンパンの乾杯も終わり、ケーキ入刀。クリスマスケーキらしく中央には「MerryChristmas」の書かれたチョコプレート。うんうん、これぞクリスマスケーキ。プレートの周りにはサンタの人形がある。このサンタ、食べられるかどうかで迷う。美味しいかはともかく、食べられるものが多いとは思うが、私の母はこの人形がお気に入りで大事に取っておく。実家の棚には去年のクリスマスケーキのサンタが置かれていた。カビてないから、この人形は食べられないのかもしれない。でもガムシロップのように糖度が高いとカビないと言うから断言できない。

 入刀の前にケーキの周りのセロハンを剥がす。剥がした後のセロハンにくっついているクリーム。このクリーム、皆さんはどうしているか?

 そのまま捨てる。馬鹿な、そんなことはクリームに対する冒涜だ。骨の周りに肉が美味いように、ケーキのクリームはセロハンにくっついているものが一番美味いのだ。

 ではどうするか。もちろん舐める。指で舐める? フォークでこそいで食べる? いやいや、ここはやはりセロハンを直接ベロベロしてクリームをなめるのが礼儀だろう。いい年になってもこればかりは止められない。

 せっかくだからと私がケーキを切り分ける。邪魔なプレートとサンタを取り除き、喧嘩にならないよう、イチゴが同じ数になるよう切り分ける。これが結構難しい。まずはイチゴの数を確認

 1、2、3…(中略)…9、10、11……

 11個! 瞬間、私は自分がとんでもない危機に陥っていることに気がついた。

 11個! 2でも3でも4でも6でも割り切れない。

 なぜだ。この場にこのケーキを作った職人がいたら、私は迷わずそいつの胸ぐらを掴んでいただろう。なぜこんな数にした! もう1個足して12個にすれば2でも3でも4でも6でも割り切れる。平和なクリスマスになったはずなのに! 昼に奥歯の詰め物が取れたのはこの前触れだったのか?! なぜこの数に? 深く考えずにイチゴを並べたらたまたまこの数になっただけか? いやいや、クリスマスケーキの飾りは職人達の計算で成り立っている。適当に並べたなんて答えはない。イチゴが高いのでできるだけ少なく、けれど豪華に見えるよう計算したらこの数になった? いやいや、それは無責任、クリスマスケーキは1人で全部食べるものではない、家族、恋人、友人、とにかく複数で切り分けることを想定しているはずだ。それならばなぜ、11個などという中途半端な数になったのか?

 ……

 このケーキは罠だ。

 イチゴの数を巡って争いを起こさせ、幸せなクリスマスをめちゃくちゃにしてやろうという邪なケーキ職人の罠だ。幸せなクリスマス。自分だけがひたすら厨房にこもってケーキケーキケーキ。

「どうして自分ばかりがこんな目に……そうだ、ここのケーに罠を仕掛けよう。仲良く分けられないようイチゴの数を素数にするんだ。みんなみんなイチゴの数を巡って争い、見にくい欲望と嫉妬にまみれた一夜を過ごすが良い。ふははははははは!」

 そんな邪悪なケーキ職人の高笑いが聞こえたような気がした。これはケーキ屋の陰謀だ。

 もしかしたらこのケーキを売っていた店は、イチゴをめぐって家庭崩壊を起こさせ、日本を混乱に陥れその隙に世界制服を企む悪の秘密結社なのかもしれない。売り子を殴り倒せば、地面に転がりながら全身タイツの下っ端戦闘員の正体を現すかもしれない。どんな大きな事件も始まりは些細なものだ。このイチゴは日本壊滅のきっかけになるかもしれない。

 ……

 そして私はナイフを手にしたままケーキをどう切り分けるか悩んでいた。11個の苺。どの隙間にナイフを入れても形はいびつになる。大きさがおかしくなる。いったんイチゴを全部外して切り分けるか? しやしや、それはクリスマスケーキに対する冒涜以外何物でもない。作る側に流され食べる側もケーキをぞんざいに扱ってどうする。

 まて、発想の転換だ。縦に切ろうとするからダメなのだ。横にスライスすれば! スポンジの間に挟まっているイチゴを下の側に集中して、表面のイチゴと上手く分けることが出来れば……。ダメだ、上と下では見た目に落差がありすぎる。戦争が始まる。死体が並ぶ部屋で1人警察に動機を聞かれ「……イチゴが悪いんです」とうなだれる自分の姿が現実のものとなる。

 ひたすら迷う私の姿に母が言った。

「私はイチゴ少なくて良いからチョコの板ちょうだい」

 ……ケーキ職人の陰謀は、母の言葉によって打ち砕かれた。ありがとうお母さん、瞼の母よ!

 ケーキは多少いびつながら切り分けられ、私は切り分けた責任上、最後に残ったものを手にした。

 美味かった。

 帰り際、棚を見たらケーキに載っていたサンタの人形が飾られていた……やはり、来年まで飾られているのだろうか?


 家に帰り、取れた奥歯の詰め物を眺めながら、私はなぜ作った人はケーキのイチゴをあの数にしたのかずっと考えていた。

 結論、ケーキのイチゴは、できるだけ約数の多い数が良い。高市総理、防衛費を増やすより、クリスマスケーキのイチゴの数を定める法律を作る方がよっぽど日本の平和のためになるぞ。


 翌日、仕事帰りに歯医者に寄ったら休診日だった。

 今も私の奥歯の1つは詰め物が取れたままだ。



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