電波カステラ
砂場でスコップを振り回していたら、空から四角く光る物体が降りてきた。
持ち上げると甘い匂いがする。
耳を近づけると、「ぷるぷるぷる……」と小さく震えていた。
「もしもし」
僕は通話ボタンをタップし、電話に出る。
「チーズ牛丼とパイナップルアイスを二つずつ、電波カステラ研究所まで。ああ、あとは『サボテンステーキ』、焼き方は『ブルー』で」
声の主は、電話越しにカステラの中で泡立つ音を立てながら、「配達は秒速で頼む」と言った。
気づくと僕の足元には、謎のサボテンが小さな手で小銭を握りしめて待っていた。
その五枚のコイン(現代の価値で5,480円)を受け取り外套のポケットに突っ込む。
三種の海鮮丼か。炊き立ての米を容器に詰め、ワカメ、昆布、キクラゲの刺し身を乗せて蓋をする。
「行くか」
僕はサボテンを肩に乗せ走り出すと肩のサボテンがぷるぷる震え、「ブルーだぞ、ブルーだからな」と念押ししてくる。
道路を駆け抜け、交差点で跳ねると、ポケットのコインが電波カステラの中へ飛び込み、虹色の火花が散った。
「クソッ、ブルーじゃない。ハズレか」
次の交差点でも同様に跳ねる。この電波カステラは濡羽色の火花――またブルーではなかった。
肩の上のサボテンは一層ぷるぷる震えていた。
仕方なくカステラを割ると、中から湯気混じりの電波が溢れ出す。
「ギャギャギャ……ブルー、ブルー……」
道路標識が震え出し、信号が全部青に変わった。
サボテンは歓声を上げ、道路を指差し「今だ、飛べ!」と叫んだ。
了解。
機体はするりと大地の手を離れる。旋回、上昇。
いびつな形の電波を避けつつ、高度を上げていく。
高く、もっと高く飛ぶんだ。
はるか下、霞んだ信号機の隣ではサボテンがにこやかに手を振っていた。