表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生神樹の繁逆記  作者: 日南 佳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/35

第7話

 俺がこの世界に落とされてから一年が経過した。

 ここには時計が無いし、何ならお日様もよく見えない。外部情報が一つも無いので、時間の流れが曖昧だ。

 時々瘴気混じりの雨が降るくらいで、訪れる者は皆無だ。以前魔石や土をくれた謎の存在も多分来ていない。何もアクションが無いのだ。

 今ではあの差し入れは、何らかの偶然の産物だったんじゃないかと思っている。こう、空を飛ぶ人が偶然俺の上に荷物を落としてしまったとか。

 そういう不幸な事故だったんじゃないか? 俺からしたら幸運だったけど。



 そんな隔離空間において、情報源は【鑑定】と【地球の記憶】だけだ。

 承認欲求に脳を破壊されたSNS狂の様にエゴサを……いやこれエゴサーチ扱いしていいんだろうか? 自分に向かって【鑑定】していた事もあり、スキルのレベルも少し上がった。

 暇つぶしに【地球の記憶】で色んな情報を漁ったりしたが、こいつにはスキルレベルが無いのでいくら使ってもレベルが上がらない。

 楽しいが、こればっかり見てても成長には繋がらないのが痛し痒しだ。



 この世界に生まれて一年が経ったのを教えてくれたのも鑑定結果のおかげだ。そんな俺の状況はこんな感じになっている。



──────────────────

 

名称:イツキ・ジン


種族:神樹【苗木】(1歳)


称号:【叛逆の徒】


神格:1


スキル:【運命の特異点】【地球の記憶】【鑑定Lv.3】

    【聖域Lv.9】【浄化Lv.9】【思念体生成Lv.1】

    【魔力操作Lv.X】【植物生成.Lv1】【遺伝子操作Lv.1】

     

詳細:地球からの転生者。成長し、苗木となった。

   地球の神アルレザンバーより鑑定の加護を授かる。

   ディルネーズの女神フェルセティアと敵対している。

   


──────────────────



 へへへ、どんなもんだね。苗木になりました。

 一年は経っているが、細かい時間経過が分からんだけに、自分の成長が早いのか遅いのかイマイチ分からん。比較対象になる神樹も無いから尚の事だ。

 


 【聖域】と【浄化】はもう少しでカンストだ。【魔力操作】にあるLv.Xがカンストですよと言う表記になる。スキルのレベルの最大は10のようだ。

 【魔力操作】は気がついたら生えていて、【聖域】と【浄化】を使っていたら加速度的に増えた。

 どうやら常用している二つのスキルは魔法に相当する物の中でも難易度の高い物らしく、引きずられるように【魔力操作】もサクサク上がって行った。

 そのおかげか、今では呼吸するように【聖域】を展開し、心臓の鼓動のように【浄化】が使えている。不随意的に活動する循環器のような感覚だ。



 【思念体生成】だが……これが実に大変だった。

 精霊や妖精のような俺の身代わりとなる思念体を作り出す事が出来るんだが、これには神樹の意識である俺と違い、「五感」がある。

 初めて思念体を作成した瞬間、視覚は瘴気に含まれている歪んだ魔力のせいでバグったようなサイケな景色を見せられたようになり、聴覚は例えようのない騒音でぶっ潰され、味覚と臭覚は気を失いそうな悪臭と味を植え付けられ、触覚は耐え難い痛みを伴って絶え間なくメンタルを削った。

 聖域の内側であるにも関わらず、俺が初めて用意した思念体は速攻で滅んだ。ここの瘴気は聖域の影響下にあっても相当な影響を及ぼしているようだ。

 思念体は本体である神樹とは別物なので、潰されようが消されようが被害が及ぶ訳ではない。しかし五感から受けた精神へのダメージはダイレクトに残る。

 思念体生成は俺の中でトラウマとなり、二度と試行される事はなかった。少なくとも安全性を確保できるまではお蔵入りである。



 【植物生成】と【遺伝子操作】は、その字面から察するに、組み合わせると俺の望むままの植物を生み出す事が出来るのだろうが……俺が生き延びるので手一杯な現状で余計な事が出来ようはずがない。

 どうせ生やしても枯れるし、この環境に素で適応出来る植物なんて有り体に言ってもミュータント的な物になってしまうだろう。俺の安全も損なわれる可能性だってある。

 少なくとも思念体が五体満足で生き残れる環境になるまでは、試す事は出来ない。これもまた保留だ。



 ずっと気になっていた【運命の特異点】は……実は良く分かっていない。俺の【鑑定】の力が及ばないからか、それともレベル表記が無いだけに特別なスキルなのか。

 どちらにしても、今の時点でどうこう出来ない物は放っておくしかない。いずれどうにか出来る何かがにょっきり生えるのを待つのみだ。RPGの基本だな。



 そんな風に所有スキルへ想いを馳せているうちに、違和感に気付いた。

 今まで光合成の為の光を【聖域】のぼんやりした光で賄っていたが、いつもより大分明るい。なぜか【聖域】以外の光を感じる。

 俺は木であり感覚器が無いため、光量増加は葉っぱが感じている。外部がどうなってるか直接目で見て確認する事が出来ないので、周囲を確認するには思念体を出す必要があるのだが……



(いや怖いって、前に出た時マジでヤバかったんだから……でもどうなってるんだろうな、こんな事今まで無かったから……)



 しかし気になる。何せ約一年ぶりの環境変化だ。全く人の気配が無かった隣の空き家に誰かが越してきたようなモンだ。気にならない訳がない。

 瘴気にやられた時の苦痛と好奇心を天秤に掛け……俺は好奇心に負けた。

 てっぺんの葉っぱからえいやとばかりに思念体をちょっぴり生やした。痛みは……無い。悪臭はほんのり。視覚は……



(おお? おおおお?? 何だアレ、真っ黒い壁が出来てるぞ?)



 俺を取り囲むように真っ黒い壁がそそり立っている。多分、あれが瘴気なのだろう。

 俺、あの中に居たんだな……よく生きてこれたと思う。必死に生存圏を確保するために頑張ったこれまでを思い出してちょっと泣きそうになる。目がないから涙は出ないけど。

 しかしこうして瘴気の壁を見られるって事は、周囲の瘴気は無いって事だ。そして【聖域】が無くても光の確保が出来るって事は……?



(あ……ああ……空だ、空が見える!)



 上を向いた俺の思念体の視覚が捉えたのは、宇宙に浮かぶ地球のような、ぽっかりと開いた青空だった。

 筒状になった俺の生存圏に、あたたかな光が注ぎ込まれている。それだけで何だか、生きる事を許されたような気持ちになってきた。

 気持ちの緩みから、ふと【聖域】の発動を止めてしまった。が、青空が消える事はなかった。円柱状の瘴気の壁も健在だ。つまり……



(この範囲の瘴気を浄化しきったって事か……? じゃあ、もっと頑張れば生存圏を拡張出来る……?)



 今は狭いこの範囲も、さらに浄化していけば広がって行くかも知れない。

 生命が住めるレベルの土地が増えれば、動物だって来るかも知れない。そうなればこの荒れ地も肥えるだろう。植物と動物はご馳走でもありお友達でもある、どちらも生きるのに欠かせない要素を持っている。

 それに……それに何より、俺が生き残る決め手になった、魔石を施してくれた何者かが、また来てくれるかも知れない。何だか希望が湧いてきた。



(よっしゃ、ガンガン瘴気を吸い上げて浄化して、ハビタブルゾーンを広げてくぞー!!)



 現金な奴と笑わば笑え、俄然やる気が湧いてきた俺は思念体を引っ込め、瘴気すら栄養とせんばかりに根っこを、葉っぱを震わせながら浄化させつつ吸い上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ