表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/35

第3話

 目が開かない。音も聞こえない。何なら五感が全て消えている。

 これは困った。今まで人間として40年近く生きてきたが、哺乳類どころか生き物ですらない物として生まれ変わるとは思いもよらなかった。

 とりあえず、俺はどうすればいいんだろう? オンギャーとも泣けないんだぞ、こっちは?



 そもそも、今はどういう状況なんだろうか。転生って事は赤ん坊スタートって事だろうか?

 人の赤ん坊はベイビー、犬の赤ん坊はパピー、魚の赤ん坊は稚魚、虫の赤ん坊は幼虫だ。じゃあ木の赤ん坊は? ……種か?

 いや、種なら五感が無いのはしょうがない、木だもんな。でもそれなら、さっきからこうやって思考してる俺の自我はどの器官に依存してるんだ? 脳みそは無いぞ? 木だからな!

 しかしフェルセティアは「剣と魔法の世界」と説明していたし、脳内アナウンス氏は「神樹に転生させる」と宣言した。

 ファンタジーな存在が許され、脳内アナウンスを真に受けるとすると……精神生命体的なサムシングの宿る木の種って事になる。



 本来なら【女神の加護】とやらを受け取っていて「ステータスオープン!」とか叫んで、自分の情報を確認しつつ異世界転生を実感する所なんだろう。

 しかし俺はマルウェアの如く色々仕込まれた加護をはたき落としたので、ステータスの確認が出来ない。

 こう言う時、若干不便だ。いっそ不都合を飲み込んででも受け取った方が良かっただろうか?

 ……いや待てよ。そういや、こう言う時の為に地球で教えてもらったスキルがあったはずだ。

 えーと確か……そう。



(鑑定! 対象、俺!)



 俺がそう念じると、目の前……? いや、目は無いから……何だろうな。俺の意識の前に情報が浮かんだ。



──────────────────


名称:イツキ・ジン


種族:神樹【種子】(0歳)


称号:【叛逆の徒】


神格:0


スキル:【運命の特異点】【地球の記憶】【鑑定Lv.1】


詳細:地球からの転生者。

   地球の神アルレザンバーより加護を授かる。

   ディルネーズの女神フェルセティアと敵対している。


──────────────────



 ああ、やっぱり種だったか。確認しといて良かった。しかし思ったよりあっさりとした内容だ。

 別にあっさりしている事に不満がある訳ではない。地球での経歴や賞罰なんかがずらずらと書かれていても、それはそれでヒェッとなりそうではある。

 まあ、詳細の欄はいずれ増えていく事になるのではないかと思われる。



 ちなみに地球の神アルレザンバーとは読んで字の如く、地球を司る神だ。ディルネーズにおけるフェルセティアみたいな役回りの人……いや、神様だ。

 あのクソ女神によって大地震が引き起こされた後、アルレザンバーさんが俺の前に現れた。ちなみに筋骨隆々な肉体を布一枚で覆ったむくつけきオッサンだ。……これは余計な情報か。 



 これ以上俺が生き残ると地球に取り返しの付かない被害が押し寄せる事になるので、ここいらで死んでくれないかと涙ながらに頼まれたのだ。

 いや、軽薄な説明になってしまったが、実際はもっと重苦しい空気だった。

 俺も一族郎党死んでしまって天涯孤独の身になった事で、ある種の自暴自棄になったのは否定しない。

 だがそれ以上に、俺をここまで苦しめた奴に一矢報いなければ気が済まないと言う気持ちが強かった。



 俺が命を絶つ前に、アルレザンバーさんは俺に【鑑定】と【地球の記憶】スキルを持たせてくれた上で、四つの忠告を授けてくれた。



 一つ、いの一番に出てきた奴をぶん殴れ。

 二つ、そいつの企みを推理して暴け。

 三つ、そいつからは何の施しも受けるな。

 四つ、普通の人間に転生するな。



 それさえ出来れば、地球で受けた因果のひずみが俺の力になるからフェルセティアに立ち向かう事も可能であるとの事だった。

 その時は「何のこっちゃ?」と思ったが、多分【叛逆の徒】の称号とスキル【運命の特異点】を取得する為だったのだろう。

 まるで怪談に出てくる「助かるための方法」みたいな中途半端さの残るアドバイスだったが、結果オーライと言えよう。

 そういや若い頃カシマレイコの撃退法とか必死こいて覚えたなぁ。



(でもなー……一発ぶん殴っただけで何も解決してないんだよなぁ)



 出来る事なら仕留める所まで行きたかったんだが、人から生まれた霊魂程度の俺では一発ぶちこむのが関の山。むしろ神相手にダメージが入ったのは幸運だったかも知れない。

 今生の俺は名実共に神樹なので、もしかしたらこの先バリバリに強くなってフェルセティアを討滅出来る目もあるかも知れない。

 何たって神の樹だ。神なら立場はイーブンだ。……本当にそうか?



(ま、今はすくすく育つしかないかぁ)



 俺は思考を中断し、木として成長する事とした。

 ……いや待って、俺ってどうやって大きくなればいいの???

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ