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転生神樹の繁逆記  作者: 日南 佳


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第15話

 あれからせっかく人間の体……正確には義体なんだけど、作業出来る躯体を手に入れたんだからと野良仕事に精を出した。

 枝豆を摘み取り、じゃがいもを掘り、ほうれん草やトマトを収穫した所で貯蔵しておく場所がない事に気がついた。

 中が空洞になっている木を一本生やしてそれを貯蔵庫と言う事にして、採れた野菜を内部に保存する事にした。

 ジン・ロングテールの皆にもここの野菜は好きに食ってヨシと伝えてある。



 俺の本体は木だし、思念体は野菜物理的に干渉出来ないし、義体の方は魔力さえあれば何も食わなくても問題ないみたいだが……口があって物が食えて味を感じられるなら食べたくなるのは人情という物だ。木だけど。

 トマトをむしゃむしゃやった感想は……うまい。トマトを丸のままかじったのは前世で田舎のじいちゃんちに帰省した時以来だ。

 完熟したトマトの旨味がしっかりと出てる。種のゼリー状の部分も青臭くないし、とてもいいトマトだ。スーパーの品ではこうはいかない。

 欲を言えば塩が欲しい。他の野菜に関しては調理器具が欲しい。せっかく全属性魔法が使えるのだからとじゃがいもを枝にブッ刺して直火で焼いたが何か違う。

 やっぱり鍋くらいは欲しい。枝豆は塩水で茹でてビールと一緒にやるのが良いもんな……生はちょっとな。

 木に転生した事で生理的な欲求は無くなったと思ったが、こうしてモノを食ってると存外に欲求が残ってるモンだなと感心するやら呆れるやらだ。



 § § §



 皆で収穫物を頂いて、そろそろ日も暮れようかという逢魔が時。俺は寝支度を始めたジン・ロングテールのみんなに話しかけた。



「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけどさ」


「何でしょう?」



 俺が呼びかけると、皆が地面に降りて来た。

 昨日は念話で話してたけど、今は体があるからな。ちゃんと話す奴の顔を見て会話をしようとするのはいい心掛けだ。



「みんな、俺の事を精霊樹とか精霊って呼ぶじゃん? アレ、やめて欲しいんだよね」


「しかし……精霊樹様は精霊樹様では……?」


「んー……例えば、君らがここ以外の所で誰かと言い合いになった時『ジン・ロングテールぅ? お前らは忌み鳥なんだから忌み鳥だろうが』って言われたら、良い気持ちする?」


「……しませんな、忌み鳥は悪名にございますれば」


「でしょ? 俺からすれば精霊樹と呼ばれるのはそれくらい嫌な事なんだよ」



 皆が顔を見合わせ、俺に向き直って頷いた。俺の例え話に理解を示してくれたようで何よりだ。



「では、その……何とお呼びすれば?」


「そうだなぁ……俺はそもそも精霊樹じゃなくて神樹なんだよ。木の神様……? 神様の木? まあ、フェルセティアのパシリみたいなショボい木とは違う訳よ」


「なるほど……そしたら何かい? 神樹サマってお呼びすりゃあいいのかい?」



 ドロシーが前に進み出て俺に尋ねた。

 神樹呼びもなんだかなぁ……事あるごとに「人間!」って呼ばれるような物だからなぁ。

 しかし今まで一度も名前を聞かれなかったから、精霊樹や精霊には名前が無いのが通例だったりするのかも知れない。

 ……俺の生まれについての話も、ここいらでしておくべきか。俺は決心して、話す事にした。



「……この際だから言うけど、俺はこことは違う世界に住んでたんだ。フェルセティアに狙われて、仕事を追われ、故郷をめちゃくちゃにされて殺されたんだ。そんで、この世界に転生させられた」


「そんなことが……ん? お待ちください精……神樹様、それはつまりフェルセティアの御使い……勇者なのでは!?」



 アーサーが驚愕の表情を浮かべてテンパり、翼を広げて地面に伏せた。皆がそれに倣って五体投地のような姿勢を取る中、チャールズの視線に敵意の光が宿る。

 ……そんなにフェルセティアの事が嫌いなの? わかるわかる。



「いや、勇者ではないよ。俺はフェルセティアの敵対者だよ。加護をひっぱたいて拒絶したし、転生直後にグーパンチ叩き込んでやったしな。なんか称号くれたよ、叛逆の徒だってさ」


「叛逆の徒……聞いた事の無い称号ですが、称号として付与されたのであればよっぽどの事……わかりました、信じましょう」


「で、向こうの世界では俺にも名前があったんだ。だから、君達にも俺をその名前で……そうだな、ジンって呼んで欲しい」



 欲を言えばイツキと呼んで欲しいが、多分外国人には難しいんだよな。

 前世のブラックIT企業時代に後輩のベトナム人が「イチューキー」と呼ぶのをどんだけ直してもダメだったからな。

 鳥とベトナム人を一緒にするのもアレだが、間違われる可能性があるならジンの方がまだ言いやすいだろう。



「承知しました、ではこれよりジン様とお呼びしましょう」


「ああ、頼んだよ。話は以上だ。おやすみ」



 俺が解散を指示すると、皆自分の枝に戻っていった。俺は一旦思念体を解除して、意識を本体に戻した。

 俺の足元……違った、根っこだ。根っこの所で立ちっぱなしになってた義体がバタリと倒れ込む。しまった、せめて体育座りでもさせておくんだった。

 アーサーがびっくりして飛び降り、俺の義体を翼で揺さぶっては「ぴーちゅんちゅん!」と鳴いている。

 ……ああ、義体から抜けたら言語理解が外れるのか。面倒だなあ……

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