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第11話

 名前は大事な贈り物、人前に出せないような物を与えるべきではない。一人で決めるな、人に聞け。

 前世のブラックIT企業で共に働いた後輩の田崎 頼武誉君のありがたい金言である。

 田崎君の名前の読み? ラブホだよ。ラブホテルを知らなかったお母さんが決めたんだそうな。

 頼れる武士のように誉れ高い男に、との事だったが、この惨劇を止められたはずのお父さんは彼が生まれる前に亡くなっていた。

 お母さんがこの失態に気づいた時にはもう取り返しがつかない程に遅かった。遅すぎたのだ。

 こうしてマタニティ・ハイと無知の間に生まれた哀しき犠牲者は、簡単には消えない傷を背負うのだった。



 まあ、ラブホ君の話は今はどうでもいい。今は鳥さん達の名前だ。

 俺はこの世界の命名法則を知らない。メジャーな名前も聞いたことがない。

 よくあるラノベ風ヨーロッパでありがちな地球の西洋人の名前が通用するパターンなら、まだどうにかなる。

 しかし、例えば「ン・オベジャラモ」とか「ドゲラデデス」みたいな現世では馴染みが全く無いような名前がこの世界でのメジャーな名前だったら目も当てられない。

 ラブホ君の金言に則ってとりさん達にメジャーな名前を聞いてみたけど、大体地球の西洋人の名前と変わらないみたいだ。よかった。



 なのでまず、白・赤・青・茶色・緑・黒の順にAからFまでのアルファベットを当てはめた。そしてそのアルファベットがイニシャルになるように名前を決めた。

 何故黒の子が最後になったかと言うと、黒の子が最後まで固辞したせいだ。

 この子も自己肯定感が地底深くまで埋まってるようで、それなら先にと緑の子が進み出た。おかげでどうにか話が纏まった。



 命名は【鑑定】した時に出てくるウィンドウ的なホログラムに意識を合わせると変更可能だ。

 一度名前を決めたら二度と変えられないんじゃないか? と思ったがそんな事は無く、二度目の変更も可能なようだった。

 しかし何度も名前を変えるのはよろしくない。

 あのラブホ君ですらさんざん悩んだ末、改名の手続きを取らなかったくらいだ。

 いろいろ法的な手続きが面倒らしいよ。特に改名後の契約更新がね。



 ここは異世界であり、鳥に戸籍は無いだろうから、まだ手軽な方ではあるだろう。

 とは言え彼らに嫌がられないようにしっかりと名前を考えてやった。俺からの初めての贈り物だからね。



 白い子はアーサー。赤い子はブリジット。

 青い子はチャールズ。茶色の子はドロシー。

 緑の子はイブ。黒の子はフレッドだ。



 名前をつける際に気が付いたが、種族名や称号の変更も可能だった。昔は別の種族名だったのを女神の力で変えられたんだそうな。

 俺とて神樹。まがりなりにも神であるならば、あの駄女神に出来る事は俺にも出来てもいいはずだと自分で自分を納得させた。

 なのでアボミナブルバード……忌まわしい鳥などと言う不名誉な種族名から解き放ってやった。出来れば元に戻してやりたい所だが、元の種族名は失伝しており分からないとの事だった。

 そこで俺は新たな種族名を与えた。これからの彼らの種族名はジン・ロングテールだ。

 ロングテールはエナガ科の英名、ジンは俺の名前から取った。つまりジンエナガ……漢字にしたら神柄長って感じか。何とも仰々しい。

 称号の部分も消去しておいた。称号は書き換える事が出来なかったから消すしかなかった。俺の力が足りないとかそんな感じだろうか?



 ……まあ、そんな感じで色々な手続きをこなしていたが、空にだんだんと赤みが差してきたので、やって欲しい事や教えて欲しい事は明朝指示する運びとなった。

 ちなみに彼らの食性だが、虫でも果実でも種でもなんでもいけちゃう雑食性だ。地球のエナガ類も雑食性なので似通っている。

 新たに豆とか木の実のなる木とか生やした方がいいのかなと思っていたが、地面に嫌になるくらい生えてる浄化草の種をバリバリ食っていた。

 いくらでも生えてくるから別にいいけど、それでいいんだ? そんなんで良ければいくらでも食べてって欲しい、無限に湧いて出るから。

 木の樹液も好んで飲むらしいので、出そうか? と聞いたらアーサーが慇懃無礼に発狂しながら止めてきた。

 ブリジットとイブが物欲しそうにしていたので、今度こっそりあげることにしよう。



(そんな感じでみんなよろしくねー)


《ははーっ! 住処と糧と名を頂いたのみならず、何代もの長きに亘り負わされておりました忌まわしき呼び名より解き放って頂きました恩寵、身共の魂を奉じてでも報いる所存にございます!》


(だーからアーサーはその過剰なまでに慇懃な態度ををやめなさいっての……ブリジット、しっかり旦那を教育しとくように)


《ほらほら、精霊樹様もこう言ってるんだからいつまでもそんな格好しないー! あ、精霊樹様ありがとうございますー! これからもよろしくお願いしまーす!》




 もはや五体投地のように枝に這いつくばるアーサーを爪で引っ掴みながらホバリングしてブリジットが答える。

 そーそー、そんくらいでいいのよ。へりくだり過ぎるのは無礼である。ほどほどになさいな。

 畏敬の念が限界突破しているアーサーは除外するが、他の鳥は各々好き勝手に地面に降りて種を食べたり、俺の枝にとまってピーピー鳴いたり飛び回ったりしている。

 感心なのは、俺に排泄物をひっかけないように気をつけてる事だ。ちょっと離れた所までわざわざ飛んでいって用を足している。

 鳥って確か消化器官の関係上トイレを我慢できないように出来てるって聞いた事があるんだけど……賢いようだからそういう芸当も出来るんだろうか?



 やがてとっぷりと日が暮れ、空が瘴気の色とは違う暗闇に支配された頃、ジン・ロングテールの面々は取り決め通りの枝にとまり、しばらく仲間内でピーピー鳴き交わした後、すよすよと寝息を立てた。

 俺はこの世界に生まれて初めての誰かと過ごす夜に久方ぶりの満足感を覚えて、胸がいっぱいになるやらくすぐったい気持ちになるやらで大変だった。



 ……かくして、俺に初めての同居人? が出来たのだった。

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