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第10話

 あれから30分くらいお互いに頭を下げ合っていた。こちらは勝手に鑑定して勝手にブチ切れて鳥を上空に吹き飛ばした事に対して。

 相手側は……いやもう、やべー奴にはとにかく謝っとこうみたいな感じだ。

 しかしこの子ら、卑屈が空飛んでるような生き物だなあ。自己肯定感が地底深くにまで潜り込んでいるようだ。鳥なのに。

 結局「お互い気をつけようね」で無理矢理決着させる事にした。



《さて……精霊樹様。積もる話もございましょうが、身共は西へ向かわねばなりません。そろそろお暇致したく……》


(あ、そういや渡り鳥なんだっけか……行くアテとかあんの?)


《いえ、目的地はありません。身共は【忌み鳥】、人からも動物からも、植物からも嫌われております。……もちろん、女神様の眷属たる精霊樹様からもです》



 は? 精霊樹ってあの駄女神の眷属なの? 

 オーケー、ブッ殺すリストに追加しとこう。出会う精霊樹は皆枯らす。慈悲は無い。……出会う機会があればの話だが。

 あるとしたら俺の思念体と他の精霊樹憑きの精霊がエンカウントするくらいだろう。

 まあ、この領域はまだ瘴気に囲まれてる……つまり瘴気によって外界から遮断されている。

 この鳥の様に瘴気を飛び越えて来るなら話は別だが、この俺が空を飛べないんだ。精霊にとっても簡単な話では無いはずだ。……多分。希望的観測だ。



《……身共に安住の地はございません。この足は力が強く、とまった枝を潰してしまいます。多量の魔力を吸い取ってしまう為、その地の魔力を痩せさせてしまいます。土地土地の魔力と糧を掠めつつ逃げる様に飛び続けるしか生きる術を持たぬ、卑小な身でございます》



 うーん……それってつまり、強靭な枝ぶりの木があって、魔力が豊富な土地だったら居着けるって事だよな? わざわざ渡る必要は無いのか?

 ここは俺が瘴気を浄化して整えた土地だから魔力はふんだんに蓄えられている。

 枝の強度は……俺の枝はどうだろうか。これでも神樹だ、おいそれと折れはしないだろう。試した事ないけど。

 最悪、俺が【遺伝子操作】で硬い木を作ればいい。地球にもリグナムバイタとか言う金属用の加工機械を使う必要があるくらい硬い木も存在している。

 リグナムバイタは大木にならないって話を聞いた事もあるが、ここはファンタジーの世界で、俺は神樹だ。

 最悪俺のクローンを数本近場に植えてめっちゃ硬く、そしてバチボコに大きくなるように仕様変更すればいいんじゃないかな。



(それならさ、俺の枝で休めばいいんじゃない? 瘴気も結構な範囲を浄化したから生き物も住めるし、俺もそこそこ大きくなったし、これでも神……精霊樹なんだからさ。君らを養うくらいなら問題ないよ)


《え……? いや、しかし、そのような不敬を働く訳には……》



 俺と直接話している白い鳥以外の奴らもちゅんちゅん鳴いている。俺には聞こえないからおそらく【念話】ではなく鳥言語的な奴かも知れない。



(不敬とかそういうのいいから、恩返しさせてよ。君達が居なかったら、俺なんて根を張る事も出来ずに死んでた訳だからさ。君達が俺を育ててくれたんだよ)


《そ……それは確かに、見方によればそうなるかも知れませんが……しかし……》


(何だね、もしかして俺の強度が心配なの? しょうがないにゃあ……えーと、そこの黒い子、そうそう、挙動不審気味にキョロキョロしてるキミ)



 俺は適当に鳥を一羽指定して呼びかけた。まさか自分に白羽の矢が立つとは思わなかったのか、黒い鳥は挙動不審気味のリアクションを取った。



《え、あ、はい! ぼぼぼぼぼくですか!!》


(ちょっとこの……えーと、ほら、この揺れてる枝にとまってごらんよ。だーいじょーぶ、これ使ってない枝だから多少乱暴に扱っても平気だよー)



 俺は適当な枝を一本魔力で揺らしながら【念話】で語りかけた。

 それにしても使ってない枝って何じゃい、流石に無理がある……とは俺も思っている。ぶっちゃけただの方便である。

 黒い鳥は挙動不審気味に仲間の鳥や俺の思念体、そして枝をキョロキョロと忙しなく見回し、やがて恐る恐る俺の枝に乗った。

 皮膚の感覚点や痛点がある訳ではないから勝手は違うのだが、締め付けられる感覚はある。しかし大袈裟に言うほどの物ではない。

 具体的に言うと、幼児の肩揉みくらいの感じ……だろうか。少し物足りない程度だ。



(えーと……それが全力?)


《あ、え、はい、全力……と言いますか、普段何かに掴まる時と同じだけの力を込めていますが……だ、大丈夫なんですか?》


(あー、うん、これなら百羽とまっても大丈夫だわ。枝ならいっぱいあるから他の鳥さんもゆっくりしていきなよ。あんまり休んでないんでしょ? 俺が許すからさ)



 俺がそう呼びかけるも、皆ざわざわするだけでなかなか近寄ろうとしない。

 しかし、中空をホバリングしていた緑の鳥が覚悟を決めたのか、枝にとまったままの黒い相方に寄り添うように枝にとまった。

 それが呼び水になったように、次々に飛んでくる鳥たちが三組に別れ、自分の好みの枝を探してとまった。

 【鑑定】してみたが、やっぱこいつらはつがいだ。オスメスのペアになっている。リア充じゃねえか。

 白いのと赤いのは木の上の方、青いのと茶色は葉っぱが多い所。黒いのと緑色は俺が最初に勧めた枝から離れようとしない。別にそこに決めろと言った訳ではないんだけど。



 そして全ての鳥が居場所を決めた時、体……いや幹の中から何かが抜けていく感覚を覚えた。直ちに生命活動に影響を受けるような物じゃない。

 例えるなら、アルコールの消毒液を肌に塗り込んだような、熱が奪われる感覚に近い。ひやっとはするけど、体温が下がる訳ではない……みたいな感じだ。

 俺なんかよりもよっぽどビビってるのが鳥さん達だ。何やら集まってちゅんちゅんしてる。かわいい。

 ……もしかしてこの「何か抜ける感覚」が魔力を吸い取ってるって奴か? やけに脅していたけどこの程度……?

 拍子抜けとも言えるこの状況に口を挟めずにいると、白い鳥が恐る恐る話しかけてきた。



《あの……精霊樹様、お身体の具合はいかがでしょうか……? 相当なご苦労をおかけしたと思いますが……》


(いんや、体の具合っつっても……ちょっぴり何か抜けたなぁくらいで特に何とも……)


《ま、誠にございますか!? 身共六羽、皆満ち満ちる程に魔力を頂きましたのに、全く何ともないのですか!?》



 え、あの程度でお腹いっぱいなの? 駄女神から魔力ちょろまかしたせいでキレられたって言うから相当な量だったんだろうかと思ったら大した事ないじゃないか。

 これなら瘴気の浄化分が無かったとしても、光合成した時に発生する魔力でも賄える程度だ。

 ……そうそう、最近の俺は光合成で魔力を生み出す事が可能となった。俺の子分? 扱いの浄化草も同様だ。



(本当に問題ないんだよな……もういっそここに住んじゃいなよ。別に誰かに迷惑かかる訳じゃないし)


《いえ、そんな畏れ多い! 確かに安住の地は身共の遠い父祖の代からの悲願にございます……しかし、身共には精霊樹様にお返し出来るものがございません!》


(だからもう先払いで家賃は頂いてるんだってばさ、俺の命を繋いでもらった事でー。俺も一人……一本? は寂しかったしさ。それでも納得出来ないんなら……そうだ、俺の目の代わりになってよ)


《目の代わり……でございますか?》



 白い鳥はきょとんと首をかしげた。もうその仕草は完璧にシマエナガだ。前世に何度もネットで見た。かわいい。



(そ、目の代わり。俺ってば見ての通り木だもんで、思念体を通さないと見たり聞いたり出来ないんだよ。かといって思念体は空とか飛べないし、瘴気に囲まれてるだろ? 外の様子とかよく分かんなくてさ)


《なるほど、確かに……精霊樹様の事をあまり存じ上げておりませんので不躾な物言いになりますが……思念体とおっしゃるのは、こちらの玉のような精霊様、でしょうか? 確かに移動には不向きなお体の様に思います……足も羽もございませんし》


(でしょー? だもんで、鳥さん達はいろんな所に行っただろうから、この世界がどうなってるかとかを教えてくれたり、使えそうな植物の種を持ってきてくれたり、瘴気の外側の様子を報告してくれたらそれでいいよ)


《……承知しました。精霊樹様からのせっかくのお言葉、固辞するのは不遜と言う物。頂いた使命、身命を賭して全うする事をこの翼と貴方様に誓いましょう》



 いやだから物言いがいちいち硬いのよ、中世の騎士か何かかよ。今後、折を見て改めてもらうように指導していく事にしよう。

 ……しかし一緒に生活するとなると、呼び方が必要になるな。いつまでも白い鳥さんオスの方とか右の方の黒い子とか呼ぶわけにもいかない。



(あー、みんなの事をどう呼んだらいいかなーって思ったんだけど、名前がないみたいだから、いっそ俺がみんなに名前つけてもいいかな?)


《な、なななななななな名前まで頂けるのですか!? 安住の地だけでなく!?》



 再びざわざわしだす鳥さん達。なんだまたなのか? これも普通じゃないのか?

 アレか? 名前をつけるとネームドになるからどうこうみたいな異世界ラノベお約束の奴か?

 知ったこっちゃねえ、名前が無いと不便だからな!

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