さすがに○回目の婚約破棄は、めんどくさい
「 『リリー・カサブランカ侯爵令嬢!
今この時をもって、お前との婚約を破棄する!
そして、これからはこのサリー・マクガレン男爵令嬢と婚約を結び直す!
お前は、俺がサリーと仲がいいのに嫉妬してサリーに様々な嫌がらせをしたそうだな!
お前のような悪女とは結婚できない!』
って言うつもりでしょ?
明日の卒業パーティーで」
理想の王子様の廉価版のような金髪蒼目の優男、マイケル・トーミウォーカー公爵令息は、小柄なピンク・ブロンドのサリー・マクレガン男爵令嬢を教壇に押し倒したまま硬直した。
場所は王立貴族学園の1教室。
今は放課後で人影は、まばら。
少なくても、この教室の中には3人だけだ。
金髪の公爵令息とピンク髪の男爵令嬢はイケナイ体勢のまま、 顔だけをドアに向けて、目を見開いている。
そう。
私は、そのドアから入ってきたところ。
「どうぞ、どうぞ。
ヤレるものならヤってみてください」
いきなり2人のいる教室に突入してきたリリーは、満面の笑みで(下ネタを交えつつ) 婚約破棄の書類を差し出した。
「……俺は婚約破棄するつもりはない」
よくその体勢で、そんなこと言えたものだと誰もが思うのにも関わらず、マイケルは飄々とのたまわった。
「ちょ、なに言ってるの?
明日、婚約破棄するって言ったじゃない!
散々リハーサルしたのに!」
と、ピンクが 組み敷かれたまま ジタバタする。
マイケルは起き上がる気ないのだろうか?
「……なんかヤバい予感する。
このまま婚約破棄したら俺、破滅する気がする」
「予感?!
そんなことで私の人生プラン変えないでよ!」
「考えても考えてなくても、そういうことしちゃってるんだから責任取りなよ」
ピンクを擁護(?)するリリー侯爵令嬢。
「そうよ、そうよ」
「なんでだろう?
とにかく嫌な予感する」
ようやく体を起こしたマイケルの顔は青白い。
「妊娠してたら、どうするつもり?」
腕を組んでため息をつくリリー。
「……認知する?」
「何で疑問形?! やばい奴だな!」
と、リリー侯爵令嬢がドン引きして仰け反る。
「そもそも同意の上で関係、持ってんだから俺が一方的に責任取るって、おかしくない?」
これには、さすがにピンク男爵令嬢も唖然としている。
「お前が書類に署名しなくても、当主が手続きすれば終わりだぞ」
リリーの後ろからヒョッコリ(はん?)出てきたのは、マイケルの兄ダミアン。
弟よりガッチリしていて凛々しい。
顔や色素は似てるけど。
「兄貴!」
ピンクも教壇から降りて、ダニエルに向かう。
「これ以上、慰謝料を増額されたくなければ 素直に謝罪しろ」
「……ぐ…… リリー婚約破棄しないでくれ」
「100%無理」
◇
キッパリ断った彼女は帰り道、清々しい気分でいっぱいだった。
馬車の中で腕を伸ばす。
「はあ、良かった~。
マイケルに出世の秘密を教えたり、姉がいるって嘘ついたり、辺境伯の養女になって体鍛えたり…… 今まで色々あったけど、さすがにもう飽きたわー」
ん? あれ?
タイムリープ止める条件は、もしかして婚約破棄しないことなのでは?
と思ったのは、誰だったのか……。