何を言ってるんだろう?
「 リリー・カサブランカ侯爵令嬢!
今この時をもって、お前との婚約を破棄する!
そして!!
これからはこのサリー・マクガレン男爵令嬢と婚約を結び直す!
お前は俺がサリーと仲がいいのに嫉妬してサリーに様々な嫌がらせをしたそうだな!
お前のような悪女とは結婚できない!」
理想の王子様の廉価版のような金髪蒼眼の優男、マイケル・トーミウォーカー公爵令息は、隣にいる小柄なピンク・ブロンドのサリー・マクレガンの肩を抱いてリリーを指差した。
場所は学園の大ホール 。
今日は卒業記念パーティー。
最終学年の生徒と、そのパートナーたちが固唾を飲んで見守っている。
「どうぞ、どうぞ。
できるものならやってみてください」
リリーは、満面の笑みで答える。
「は? できるに決まってるだろう。
そんなこと言って俺が、怯むとでも思ってるのか?!
そこまでして俺との婚約を継続したいのであれば、もっと俺に好かれる努力をすればよかったものを……
お前はいつでも素っ気なかったではないか!
今更 後悔したって遅いんだぞ!」
「なぜ婚約者でもない、あなたに愛想を良くしなければならないのですか?」
「それは……へ?
何を言っている?
記憶喪失でもなったのか?
たった今この時まで婚約者だった 俺の顔を忘れたと言うのか?」
「きっと頭がおかしくなったふりをして婚約破棄をうやむやにしたいのでしょう?
それだけ、あなたのことが好きだったのではないですか?」
「そうか。
どこまでも性根が腐った女だ。
お前が、どれだけ頭のおかしいふりをしようと記憶喪失のふりをしようと、この婚約破棄は覆らない」
「覆らない?
だから私はあなたと婚約したことはないって言ってるでしょう」
「 斬新なトボケ方だな(笑)
ならば今まで夜会に着たドレスは?
俺が贈ったものだろう?
お前は、何年もの間、婚約者でもない男からドレスを受け取りエスコートされてたと言うのか?
本当に婚約者じゃないと言うなら今まで プレゼントしたもの全部返せ」
「 返す理由がありません。
あれは、あなたの家の私への予算なので」
「なんて厚かましいんだ!
婚約者ではないと言いながらドレスは返さないなんて!」
「遅くなって ごめん、リリー」
美しいダミアンがやってきて、リリーの肩を抱く。
兄ダミアンの方が弟マイケルよりガッチリしていて凛々しい。
顔や色素は似てるけど。
我に返った元婚約者(?)が次の行動に出でる。
「兄貴は、まだ留学先のはず…… そうか……今日、俺に婚約破棄されるのを予測して、兄貴を呼んだんだな!
全く姑息な女だ!
けれど婚約破棄は決定事項だ」
「婚約者のいない、お前が一体、誰と婚約破棄するんだ?」
「誰? 兄貴まで、その女と一緒にとぼけるのか」
「 俺の大事な婚約者を、その女とは何だ?
とぼけてるのはお前だろ?」
「は? いつの間に乗り換えたんだ?
信じられない、アバズレめ! 浮気者!」
「 最初から私の婚約者はダミアンで一度も変わったことなどありませんよ」
「え?!
だ、だって3年前、 カサブランカ家との婚約が決まったって……。
そして、その後すぐ兄貴は俺に『リリーを頼む』と言って留学にしたじゃないか」
「それは俺とリリー の婚約が成立して、すぐに留学しなきゃいけなくなったから お前に婚約者代理を頼むという意味で言ったんだ」
「代理?!」
「だから私との交際費は必要経費です。
と言っても、この1年は何も貰ってませんが?」
「おかしいな……もしそうなら、父と母が黙ってないはずだけど……?」
マイケルとサリーが気まずい顔をする。
「 そのドレスとアクセサリーの代金、平民が働いて返すのは 大変だろうな」
「平民?」
「お前は遠縁の子で実の父親が炭鉱に出稼ぎに行った際、事故で亡くなったんだ。
お前の母親は1人でお前を育てられないということで、学園を卒業するまで我が家で引き取ることになった。
引き取った当時、お前は物心つく前で事情を理解できなかったから、弟ということにして今まで過ごしてきたんだ。
でも本当は俺とお前は血が繋がっていない」
「……嘘だ」
「本当だ。
お前は、これから鉱山に送られるだろう 。
平民が公爵家の財産を着服したのだから」
マイケルはヘナヘナと床に座り込んでしまった。
サリーはマイケルを慰めるでもなく後退る。
「俺を見捨てるのか……?
あんなに俺を好きだと言ってたくせに」
「平民ごときが、私に向かって生意気な口の聞き方するんじゃないわよ!」
ピンクがマイケルの手を振りほどき、走って逃げていった。