障子に目あり
「 『リリー・カサブランカ侯爵令嬢!
今この時をもって、お前との婚約を破棄する!
そして、これからはこのサリー・マクガレン男爵令嬢と婚約を結び直す!
お前は俺がサリーと仲がいいのに嫉妬してサリーに様々な嫌がらせをしたそうだな!
お前のような悪女とは結婚できない!』
って言うつもりですよ? あのバカ。
明日の卒業パーティーで」
「ええ、そんなことわかってるわ」
令嬢と侍従は、放課後の教室に誰もいないことを確認すると話し始めた。
「阻止しないのですか。
もしくはボイコットするとか」
「まさか!
あの王子と婚約が無効になるのよ?
こんないいことないじゃない」
「ですが…… お嬢様は傷物として後ろ指をさされてしまいます」
「そんなの一時的なものよ」
「楽観視してよろしいのですか?
今後の結婚に響きます」
「次の婚約者候補なら10人ほどいるから問題ないわ。
『もし婚約が破談になったら次は』と釣書が日々届くもの。
お父様が、ちゃんと調整してくださってるわ。
それに今回のことで王子は、私より身分が低くなるから怖くもないし」
ガタッと教壇から音がする。
静まりかえる空間。
「何の音でしょう?!
まさか間者? 斬り伏せましょう」
「ちゅ、チューチューっ」
「ただの鼠よ。
話を戻すわね」
リリーが構わず言葉を続ける。
「こんなこと言いたくはないけれど。
学園でも成績が常にトップだった私が10年かけて王太子妃教育を終えたのに、あの略奪者の男爵令嬢は、下から数えた方が 早いほどの成績で王妃教育を終えるのに、これから何年かかると思う?」
「25年?」
「まさか!
最低でも40年はかかるわ。
もう最終学年なのに初等科のテキストさえ満足に理解できないのですって」
ーーガサガサ
「どうも鼠が多いわ……」
「あとで猫を放しましょう。
それより続きを」
「そうね。
……政務はともかく公務は、すぐにでも始めないとならないわ。
教育と並行してやったら彼女がまともに仕事できるようになるのに何年かかると思う?」
「うーん? 60年?」
「120年よ!」
「つまり…… あの男爵令嬢は結婚できないということですね」
「まともな正妃が見つかれば側妃にしてもらえる可能性もあるけど、まともな人は あの2人を見て嫁ごうなんて思わないでしょ」
「そうなると世継ぎはどうするのです」
「第2王子殿下がいるじゃない」
「まさか廃嫡に?」
「なるでしょうね」
その後、王妃になったリリーの口癖は「私があなたを国王にしてあげたのよ。
感謝なさい!
わかったら、とっとと言うこと聞いて」に、なったそうです。
2人は生涯白い結婚を貫き、仮面夫婦を徹底し幸せに暮らしましたとさ。
ちなみにピンクの男爵令嬢は処刑されました 。
めでたしめでたし。