今夜は祝杯だ!
「 リリー・カサブランカ侯爵令嬢!
今この時をもって、お前との婚約を破棄する!
そして、これからはこのサリー・マクガレン男爵令嬢と婚約を結び直す!
お前は、俺がサリーと仲がいいのに嫉妬してサリーに様々な嫌がらせをしたそうだな!
お前のような悪女とは結婚できない!」
理想の王子様の廉価版のような金髪碧眼 の優男、マイケル・トーミウォーカー第2王子は、隣にいるピンク・ブロンドのサリー・マクレガンの肩を抱いてリリーを指差した。
場所は学園の大ホール 。
今日は卒業記念パーティー。
最終学年の生徒と、そのパートナーたちが固唾を飲んで見守っている。
「うわああああああああんんっっ」
リリーは大声をあげて泣き出した。
貴族ーーそれも高位の令嬢が泣きじゃくっている。
誰もが一瞬、息をするのを忘れて、その異様な光景に見入っていた。
ハッと我に帰ったマイケル。
「はしたないぞ! 静かにしろ」
「あなたに捨てられたのが、ショックなのだわ 。
あなたのこと愛してたのよ」
と、ピンク男爵令嬢。
「まあ、それ以外考えられないな」
と、ニンマリする浮気野郎。
「お取り込み中失礼。こちらにサインを」
王子の後ろに控えていた丞相の息子が、婚約破棄の書類を差し出す。
「まあ!
おやめなさいな、ロジーニ。
悲しくて泣いてらっしゃる方に追い打ちをかけるなんて」
「…… 悲しくてないてらっしゃるのですか? リリー嬢」
「っちが……ぅう……ひっく」
と、嗚咽の合間に否定する。
「なんだ、蜂にでも刺されたのか。
だったら今すぐ救護室に行け」
自分と別れるのが辛くて泣いていると思い込んでいるマイケルは、最後に要らない優しさを醸し出した。
本当に要らないな。
リリーが署名する。
「はん。
随分と、しおらしいではないか。
公爵家と結婚できるチャンスを破談にしておいて、父親に何と説明するつもりだ?」
「修道院に送られるんじゃないかしら?
もしかすると平民になったりして」
顔を見合わせて笑う浮気カップル。
「では参りましょうか」
宰相の息子が差し出したエスコートに、手を重ねるリリー。
それを合図に王子の後ろにいた騎士団長の息子、豪商の息子、留学にきていた隣国の王子がリリーの周りを囲み、一緒に会場を去ろうとする。
「待って待って待って待って、ちょっと待って!
何で君らも、その女と行こうとしてる?この後、俺たちの婚約結び直しパーティーだろう?
それとも何か?
君らの好きなサリーが俺を選んだから、当てつけに背を向けてるんじゃないだろうな」
「みんな、ごめんなさい!
みんなの気持ちに答えられなくて!
1番はマイケル殿下だけど、みんなのことも大好きよ」
宰相の息子が溜め息を吐く。
「悲しくて泣いているのですか? リリー嬢」
「まさか! 嬉しいのです! あんなクズと結婚しなくて済んで!」
「へ?」
と間抜けな声はカップルのどっちか。
「ここまで辿り着くのに3年もかかった」
と遠い目したのは留学中の王子。
「そういうことです」
にっこり笑う豪商の息子は、腹黒いと有名だった。
◽エンド◽