03話
4階まで上ると一番手前の教室に入る。すれ違ったクラスメイトたちに適当に挨拶をして教室の端にある自分の席に向かった。
俺の席は教卓側から見て一番右後ろ端の窓側の席、つまり一番後ろ端の席。この席は俺的に結構気に入っていて、周りに人が少ないから落ち着けるし、教卓からも見えにくいからあんまり当てられないし、一番は授業中寝ていてもばれにくい。日が直接当たったり教室の扉から遠いところはちょっと面倒だけど、それ以上にメリットの方が大きいから俺としては問題ない。
隣の席も比較的うるさくない人たちだから基本平和に過ごせる。がやがやした雰囲気は嫌いじゃないけど、うるさいのは苦手だからちょうど良い。と言っても、元々俺のクラスに話の通じないタイプのヤバい人は多分いないから誰でもいいんだけども、後ろ端の席は特別感がある気がしてる。
教室の中ではクラスメイトたちがそれぞれ誰かの席の周りに集まり、夏休みにあったことやらやったことなんかを話している様子だった。
その中でも特に人が集まっていたのがうちのクラスでも情報通のある奴のところ。そいつが夏休み中に仕入れてきた情報をクラスの奴らに話しているのが俺の席の方にも聞こえてきた。そして予想通り、その中には例の転校生の話もあった。
「みんな知っていると思うけど、うちのクラスに転校生が来るらしい…!」
「風の噂には聞いてたけどマジだったのか!」
「僕らのクラスに来るらしいね」
「で、どんな人が来るの?」
「まずみんなが知ってるであろう情報から言うと、俺たちのクラスに男子生徒が一人転校してくる。
ここ数年俺たちの学校に転校生は来ていなかった、しかも外部からの転校生。詳しい経緯は分からなかったが、結構人の多い都会の方から来たらしく、色々すごい奴だという噂もある。黒髪黒目に黒縁の眼鏡をしていて髪は少しくせ毛、身長は平均くらいで体型も普通。特に目立ったところはないって感じだな」
「さすがうちのクラス一の情報通だなーてかよくそこまで調べたな」
「どんな人かは全然分からないけど、転校生が来るってだけで楽しみだね」
「顔良いのかなー?」
「やっぱ女子はそこ気になるのか」
「男子だって転校生が女子だったらそう言うでしょ」
「どうだろうなー」
「僕は別にどっちでもいいかも。やっぱり見た目より性格じゃない?」
「他の奴らは違うかもよ~」
「偏見ひでぇな」
なんだかんだ、みんな転校生のことが気になっているということだろう。というか見た目まで分かってるってヤバくないか?普通に考えて怖すぎる。
正直俺も気になってはいるが、とくに話したいとか関わりたいとかはない。多分来てしばらくは話す隙も無いだろうし、俺から話に行くこともないと思う。
俺の学校は人数がとても少ないというわけではないが、まず街の外から来る人はほとんどいないから、転校生がくるという話は話題にならないわけがない。うちのクラスだけでなく学年全体、下手したら学校全体にまで広がっているかもしれない。逆に言えば、俺のところにその話が一切入って来なかった方がすごいと思う。
とにかく、そんな感じで話を聞いているうちにさらに人が集まってきていた。他の場所で話しているやつらもさっきの話が聞こえていたようで同じような話をしているっぽい。
そんな彼らの様子を片隅にスマホをいじっていると、予鈴が鳴ってから数分経ち教室の前の扉が開いて先生が入ってきた。
先生とすれ違ったクラスメイト達は、それぞれ先生におはようございます!と元気に挨拶をしていた。先生もそれに対しておはようと一人ひとりに挨拶を返しながら教卓の方へと向かっていき、教卓の横の机に荷物を置くとそのままこちらを向いて話し始めた。
「おーい、ホームルームを始めるぞー。立ってる奴は自分の席つけー
夏休みの話が盛り上がっているのは分かるけど後にしろよ。今日は午後もないし、終わった後なら教室は自由に使っていいからな。そこに集まってる奴も早く動けー!」
それを聞きクラスメイトたちは、わざと渋々とした雰囲気を出しつつも、久々に先生に会えたことに対して嬉しそうな様子を隠そうともせず自分たちの席へと戻っていった。先生はそれに気づかないフリをしつつあきれ顔を隠して俺たちの方に向くと、一つ咳払いをしていつも通り話しを始めた。
「みんな席についたな。じゃあ、まずみんな改めておはよう
夏休みも終わり新学期も始まって気分が上がっているかもしれないが、夏休み中事故とか病気とか大丈夫だったか?まあ連絡は来てないから何もなかったんだろうが、休み明けだからって調子乗るなよー
さて、ぐだぐだ話しててもつまらないだろうし、ああもし話したいことあるなら後で聞くからな。とりあえずお前らが期待しているであろう話題に移ろうか…このクラスに転校生が来る!」
「「おお~!」」
先生は顔を伏せ少し下を向いたかと思うと、若干の溜めを置きばっと顔を上げて心底真面目な顔でそう言った。なんかいつもよりテンションが高い気がする。そんでクラスメイトたちもノリがいい。なんとなくだけど最後のやつは絶対先生がやりたかっただけだと思う。
「色々聞きたいことはあると思うが、それは後で本人に直接聞いてくれ」
そう言うと、先生はさっき自分が入ってきた教室の扉の方へ向かい、その扉を開けて廊下に立っていた人物へ教室の中に入るように声をかけた。それを合図に一人の男子生徒が教室の中へと入ってくるのが見えた。
入ってきた生徒は、俺くらいの身長に全体的に少し跳ね気味の黒髪で、肩につかないくらいの短い後ろ髪に前髪は目にかかるほどの長さで適当に分けられている。
彼は俺らと同じうちの学校の夏服を着ていて、髪を染めたりピアスを開けたりはしていなさそうだった。ちなみにうちの学校はどっちも禁止されていない。校則が緩いというか、今の校長がそういうものを出来る学校にしようと、ここに来てから生徒の要望を聞きつつ色々と頑張ったらしい。だからよほど派手じゃなければ何か言われることは基本ない。==(さすがにガングロギャルとかになってたら何かしら言われるかも)==
そんな彼は後ろにある黒板の方を向くと、漫画とかでよく見るように黒板に自分の名前を大きく書いていた。
名前を書き終えた彼が正面、俺らの方を向くとその前髪の間から眼鏡越しに黒い目がこちらを見ているのが俺の方から見えた。そのまま間髪置くことなく落ち着いた笑顔を浮かべると彼は自己紹介を始めた。
「初めましてー!織部海翔です
色々とあって9月からこの街に来ました。基本口下手というか、俺から話しかけにいくことはあんまりないと思うので、色々話してくれたらうれしいです。これからよろしくお願いしまーす!」
彼はとても落ち着いた話し方で、教室の後ろまで通るはきはきとした声でそう挨拶した。
ぱっと見の強い印象はなかったが、強いて言うなら彼は教室に入ってきたときからずっと笑顔を浮かべていた。その表情は何を考えているかは分からないが、人あたりのよさそうな笑みは俺からして彼がとても明るい性格なのだろうということを彷彿とさせた。
「じゃあ織部の席は、あの右奥から一つ前の開いてるところだ。まだ慣れないことしかないだろうから、何かあれば周りの奴に聞いてくれ
お前たちも、学校の案内とかしてやれよー教室の移動のときとかも教えてやってくれよ」
はーいみたいな返事らしき声が教室中から聞こえてくる。転校生の彼は先生の話を聞いた後、言われた席の方に向かって行って俺の目の前に来た。
そう、俺の席の前に来た。この教室で唯一空いていた席が俺の目の前の席だった
その席に座った彼は、周りの席の奴らによろしくと挨拶をしあった後、後ろの俺の方も向いて笑顔で一言"よろしくな"と言い俺が軽く頭を下げたのを見るとニコっとしてすぐ前を向き先生の話を聞き始めていた。
なんか分からないけど、絶対巻き込まれる気がする。しばらくは俺の席の周りというか彼の席の周りが騒がしくなる予感しかしない。
これから面倒なことになりそうだな




