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行、

真昼の太陽が高く掲げられ、灼熱の光が石畳を白く焼き付けていた。まるで一つ一つの石から湯気が立ち上っているかのようだ。隊商がゆっくりと城門をくぐり抜けると、車輪が地面を軋ませて砂煙を巻き上げ、この辺境の小都市に薄いベールをかけたようになった。


「シリーナ・ガロリン様、終点に到着です」車夫の低く嗄れた声が、車内の隅で眠るシリーナの肩を軽く揺すった。シリーナは眉を顰め、ゆっくりと瞼を開けると、疲れた目頭を揉んだ。焦点が定まると、見知らぬながらも活気ある街並みが広がっていた。低く密集した建物の間を、ごった返す人々が行き交い、市井の匂いが漂ってくる――かつて慣れ親しんだ帝都とはまったく異なる光景だ。


「ここは……」シリーナが呟く声には複雑な感情が滲んでいた。無意識に腰元に触れた手には、かつて栄光の象徴である騎士の剣があった場所に、今は空虚さだけが残っている。


この街が、騎士から冒険者に転じた彼の最初の拠点となる。剥奪された栄光と輝きの代わりに残されたものは、この肉体と、まだ屈していない心だけだった。


深く息を吸い込むと、シリーナは馬車から降り、背中の荷物を担いで人混みの駅を後にした。


市場を抜ける際、彼の整った容姿はたちまち通行人の視線を集めた。銀髪の長髪、すらりとした肢体、エルフ族特有の優雅な気品――人混みの中でひときわ輝いて見える彼に、シリーナは全身に虫酸が走るような居心地の悪さを覚えた。思わず足早になり、好奇と欲望の混じった視線を避けようとする。


しかし厄介事は突然訪れた。ざらついた掌が手の甲に触れた感触に、シリーナが振り返ると、不愉快な笑みを浮かべた中年男が立っていた。「お嬢さん、叔父さんと遊びに行かないか?」男が脂ぎった声で囁きながら手を撫でてくる。シリーナの顔が真っ赤に染まり、怒りが胸中に渦巻いた。「離せ!」恥ずかしさと怒りの混じった声で男を押しのけ、振り返らずに歩き出した。


災難は続く。不快な出来事を振り切ろうとした瞬間、今度は腕をつかまれた。シリーナが怒りに拳を固く握り締め、無礼者に一泡吹かせようとした時、目に入ったのは小さな少女の愛らしい顔だった。ピンクのワンピースを着た少女が、きらきらとした瞳を輝かせながら腕を撫で、「お姉さん、かっこいい! 遊んでくれない?」と甘えた声をかけてくる。シリーナの動作が凍りつき、少女の無邪気な眼差しに怒りが霧散した。心がふわりと緩み、ため息と共に少女の手を優しく外す。「ごめんね、僕はお兄さんなんだ」腰をかがめて諭すと、再び歩き出した背中に一抹の無力感が浮かんだ。


足早に歩を進め、後ろから住所を叫ぶ声を振り切るように冒険者用スマホのナビに従う。しかし運命は彼を見放さない。突然肩を抱かれた瞬間、シリーナは我慢の限界を超えた。振り向きざまに放った拳が――眼前の巨漢に届かなかったことに驚愕する。身長差20センチ以上ある屈強な男が、慌てて弁明しようとする隙に、シリーナは踵を返して走り出した。


「くそっ…剣が使えねえからな! あいつら、どうやって死んだかもわからんぞ!」20分ほど走り続け、ようやく冒険者ギルドの看板が視界に入った瞬間、彼は安堵の息を漏らした。

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