第1話 孤独な成長
闇夜に包まれた荒れ果てた村。その中心に、一人の赤子の泣き声が響き渡った。母親は出産の直後に命を落とし、父親の姿もなく、赤子は孤独の中でこの世に生を受けた。
村人たちは不吉な予感を抱き、その赤子を遠ざけたが、世捨て人である老人だけは赤子を見捨てることができず、抱き上げると、自らの家で育てることを決意した。
「この子の名をつけねば、どのような名前が良いのか……」
老人は彼の名前をどうするべきか悩みながら眠りにつくと夢に「ヴァルゴス」という言葉が浮かんだ。目から覚めても、その言葉を覚えていたため、老人はヴァルゴスという名を子供に与えた。
その言葉は古代エルフ語で「死の担い手」を意味していたのだが、老人もヴァルゴスも意味を知ることなく村の隅で慎ましく生きていくことになる。
歳月が流れ、ヴァルゴスは成長していった。
しかし、彼が成長するにつれて、周囲では常に死が付きまとった。家畜が謎の死を遂げ、作物は枯れ、人々は病に倒れた。村人たちは次第にヴァルゴスを恐れ、彼を避けるようになった。
そしてついに彼の育ての親である老人が死ぬと、ついにその不満が爆発する。
老人の葬儀を終えて、ヴァルゴスが村はずれの墓地で育て親の死を悼んでいると。そこへ数人の若者たちが近づいてきて、彼を取り囲んだ。
「お前のせいで俺たちの生活はめちゃくちゃだ!」
一人の若者が怒りをあらわに叫んだ。
ヴァルゴスは静かに彼らを見上げ、蒼い瞳に冷たい輝きを浮かべながら答えた。
「私は何もしていない。ただ存在しているだけだ。それが罪だというのか?」
別の若者が石を握りしめ、ヴァルゴスに向かって投げつけた。
「存在自体が呪いなんだよ! お前がいなくなれば、村は元通りになる!」
石はヴァルゴスの額に当たり、赤い血が流れた。しかし、彼は痛みを感じていないかのように立ち上がり、若者たちを見据えた。その瞳には深い哀れみが宿っていた。
「お前たちが望むなら、私は去ろう。だが、私が消えても死からは逃れられないぞ」
若者たちはその言葉に一瞬たじろいだが、すぐにまた怒鳴り始めた。
「脅すつもりか! さっさと消え失せろ!」
ヴァルゴスは何も言わずに踵を返し、村を後にした。彼の背中を夕日が照らし、その影はまるで深淵のように長く伸びていた。
若者たちは彼の姿が完全に消えるまで、その背中を睨みつけていたが、やがてその姿が消えてなくなると安堵のため息をつき、緊張を和らげる。
誰もが正しいことをしたのだと顔を見合わせると、ヴァルゴスと老人の住んでいた粗末な家を物色した。ヴァルゴスを着の身着のまま追い出したのは、彼が不吉であるという迷信が半分、残りの半分は彼らの財産を奪うためである。
村に数々の不幸があったのは事実であり、その帳尻を合わせる生贄として、ヴァルゴスが選ばれたのだ。この時代、このような貧しい辺境の村では大なり小なり起こっていたことである。
家の物色を一通り終えると、若者たちは首をひねった。
「あいつら、どうやって生活してきたんだ?」
家の中に贅沢品はもちろん生活必需品、さらには食糧さえもほとんどなかったのである。生活感のない家の中で、唯一彼が人間であったと証明するのは、みすぼらしい寝具だけであった。