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闇の胎動  作者: 雨竜秀樹
痛みの王

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第2話 暴動と謀略


 魔導都市ハルセイヌの堕落は、もはや誰の目にも明らかだった。

 かつては魔法と知識、そして豊かな文化の象徴だったこの都市も、今や腐敗と陰謀にまみれ、分断された階層社会が混沌を深めていた。中央の広場には、かつてこの都市の栄光を象徴していた大理石の塔がそびえていたが、その塔ですら今は汚れ、崩れかけている。

 その下で、都市の住民たちは必死に日々の暮らしを送っていた。


 ダークエルフの皇子は、迷路のように複雑な下水道の底から地上の混乱を観察して、満足げに笑みを浮かべた。

 彼の目に映るこの都市の堕落は、彼自身が手ずから育て上げたものである。


「ひひひっ、ハルセイヌが自滅するのも、もう時間の問題だな……」


 皇子の声には暗い狂気と冷たさだけがあった。

 彼の手腕は巧妙であり、今もこの堕落に乗じてハルセイヌを破滅へと導く策を着々と進めている。彼の狙いは単純な復讐ではなく、もっと深いところにあった。都市全体を操り、人々を混乱と絶望の中に陥れ、最終的にはその崩壊を自分の手で演出すること。彼はそのために何年もかけて分断工作を仕掛け、富者と貧者の間に亀裂を広げていたのだ。


「富者どもは愚かだ。自分たちが優位に立っていると信じ込んでいるが、そんなものは一瞬で崩れ去る幻影に過ぎない」


 皇子は宝石や金貨を弄びながら呟き、配下の報告書を読み漁る。

 貧民たちに擦りつけられた盗品のリストがそこに載っていた。富者から金品を奪い、それを貧民の手に送り込む。もちろん、貧民たちがその富を享受するわけではない。むしろその逆だった。富者たちは無実の貧者を疑い、怒り、憎悪の矛先を向けていく。皇子の計略は、見事に都市全体を混乱の渦に巻き込んでいる。


 ダークエルフの皇子が謀略を進める一方で、元老院は無能さをさらけ出していた。

 ハルセイヌを統治する魔導士たちは、もはや都市の秩序を保つことができず、怠惰と腐敗の沼地に嵌り、醜くもがいている。貧民たちの不満が高まる中、彼らは民衆を懐柔することすらできず、代わりに魔導騎士たちに命じて暴力的に鎮圧を命じるという暴挙に出た。


「これ以上の暴動は容認できん!」


 元老院の議場では、怒り狂った老魔導士が机を叩いて叫んでいた。彼の言葉に他の元老たちも頷くが、誰一人として具体的な対策を示す者はいない。


「我々が自ら手を下すのは愚かなことだ。魔導騎士たちに任せればよい」


 別の元老が冷静を装いながら提案した。彼の背後には、配下の魔導騎士が無言で控えている。


「ゴーレムを投入すべきだ。やつらは従順で、何も考えずに命令に従う。人間などより遥かに有用だ」


 別の魔導士がそう提案する。ゴーレムは強力で、魔法で制御された機械の兵士であり、どんな反乱者も彼らに逆らうことはできない。


「そうだ、ドワーフの技術で作られたあのゴーレムなら、暴徒どもを一掃できるだろう」


 元老たちは皆、暴力を解決策として信じ込んでいた。しかし、それは都市の住民たちにさらなる恐怖と怒りを植え付けるだけだった。


「賛成の者は拍手を」


 議場を埋め尽くす満場一致の拍手は、彼らの想像力の貧困さと無能さを讃えるかのような皮肉な響きであった。ダークエルフに懐柔された魔導騎士は、この決定を速やかに皇子に伝えるのであった。

 その報告を聞き、ダークエルフの皇子は喜んだ。

 その後の彼の計略は順調に進んでいた。貧民たちは暴動を起こし、富者たちは怯え、元老院はその場しのぎの暴力に頼っていた。そしてその裏で、皇子はさらに恐ろしい計画を練っていた。


「報告だ、皇子様。最近の暴動に際し、元老院がドワーフ製のゴーレムを使い始めた」


 側近が友人に接するかのような気安さで報告する。

 皇子はそれを聞いて、目を細めた。


「きひひっ、報告にあったゴーレムか。計画通りだ」


 ゴーレムは強力だが、皇子には別の考えがあった。


「壊すのは愚かだ。あのゴーレムを奪って、逆に利用してやろうじゃないか」


 ドワーフのルーン技術を用いたゴーレムは確かに強力だが、彼の魔導の知識と経験をもってすれば、制御を奪うことは不可能ではなかった。


「おい、これ以上暴動を煽る必要はない。元老院は最後の境界線を踏み越えた。後は勝手に転がり、崩れ落ちていくだけだ。それよりも、ゴーレムの制御を乗っ取る準備を進めろ」


 皇子は命じ、側近たちはすぐに動き出した。

 ドワーフのルーン技術を取り入れたゴーレムは強力だが複雑なもので、エルフ族でも読み解くのが難しい。

 しかし、何度も使うところを見ればその限りではなかった。


 数日後、元老院ではさらなる暴動が報告されていた。


「またか!このままでは都市が破滅する!」


 老魔導士が声を荒げるが、他の元老たちは誰も彼を止めようとしなかった。誰もが暴力による解決を信じていたからだ。


「次の鎮圧もゴーレムに任せればよい。我々はその威力を知っている」

「恐れることはない。民衆たちも、我らの力を知ればいい加減おとなしくなるだろう」

「地虫のような連中だ。多少間引いた方が良いだろう」


 しかし、彼らの知らないところで、ダークエルフの皇子は着々と魔導兵器の制御を乗っ取る準備を整えていた。




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