第2話 拡大
グラトリアの国が巨大化していくことを、諸外国は黙ってみてはいない。
その中でも、エルビナと呼ばれる大国はグラトリアの国――少々紛らわしいのだが、彼女の統治する国の名前もグラトリアという――に対して幾度も接触を図ってきた。
その最初のアプローチはエルビナからすれば寛大、グラトリアにとっては侮辱に近いものである。
「剣の女王陛下、貴方様の躍進を我が王は讃えております。女の身で、あのような野蛮な辺境を統一するなど! その偉業を讃えて、我が国の皇子、リカード殿下の妾となることを許すと仰せです。貴女の妹君にも、我が国最大の貴族との婚姻を許可すると。おめでとうございます。貴方たち下賎な血が尊い皇族の血と交わることが許されたのです!」
グラトリアは最初、遠回しな宣戦布告かと思ったが、どうやら使者たちは本気で素晴らしいことだと考えているらしく言祝いでいる。使者はエルビナにどれほど歴史があり、素晴らしいかを長々語り、皇族の尊さを語った。
一通りの口上を終えた後、使者は告げる。
「さあ、準備はできております。すぐにでも出立いたしましょう」
「使者殿。それにはおよばない」
剣の女王は穏やかに告げた。
「ルクード、彼の舌を切り落とせ。殺さぬように注意せよ。ベリストラは代筆の用意を……」
驚く使者をルクードは素早く組み伏せると、女王の尊厳に汚物をなすりつけた無礼者の舌を切り落とす。激痛にのたうち回る使者が血に溺れることがないように処置をすると、今度はベリストラが拘束の術で動きを封じる。そして彼の背中に焼けた鉄串を使って器用に姉の言葉を綴る。
「豚と交わる気はないが、丁寧な申し出に慈悲を与えよう。我が足元にひざまずいて王冠を捧げるなら、命を助けるばかりか食うに困らぬ程度の領地は残してやろう。そちらの貴族共も同様だ」
そうして瀕死の使者を突き返す。
「エルビナは怒り狂うことでしょう」
「ルクード、お前はどうだ?」
「これ以上ないほどに」
表情を変えずに、女王の幼馴染は答える。
それに満足したのか、彼女は戦の準備を命ずる。広間に終結した重鎮たちは歓喜をもって応じる。グラトリアに対する侮辱は、彼女と戦い、召し抱えられた諸将にとっても最大級の侮辱であったからだ。
もしもここで笑って許していたら、女王はその地位から追い落とされていただろう。
「ベリストラ、頼まれてくれるか?」
「はい、姉様。他国の邪魔が入らぬようにいたします。宝物庫の財宝を少々使わせていただきますが……」
「かまわない、すぐにエルビナの財宝で埋める」
大国相手であろうとも、横やりさえ入らなければ勝利できる。
グラトリアの算段は、けっして傲慢というわけではない。
姉に対する信頼に応えるように、ベリストラは深々と頭を下げた。




