第4話 抵抗軍
ローレンスはもはや伯爵ではなく、反逆者として知られる「妖魔の王」として恐れられることになった。彼の頭上には、暗黒の力を宿す「妖魔の王冠」が輝き、その圧倒的な力でオークやゴブリンを完全に支配すると。彼の軍勢は、ユルゲナム王国を黒い嵐のように襲い、人々を恐怖に陥れる。
幸いなことに神官戦士ルミナが警告したおかげで、奇襲によって一気に王国が瓦解することこそなかったが、無尽蔵に湧き出してくる妖魔の軍に、王国が劣勢に立たされているのは明らかであった。一方でドワーフ王国も深い山の奥に構えた鉄壁の城塞都市で妖魔の兵団と戦っていた。その数は王国に向けられた兵数よりは少なかったが、それ以上に彼らドワーフは少ない。
妖魔の軍勢が暴虐の限りを尽くす中、ユルゲナム王国の首都で、王は厳しい表情を浮かべていた。
「このままでは自滅を待つのみ。騎士団を動かして、ドワーフ王国を救援せよ。その後、彼らの国にある武具の供与を得るのだ」
年老いた王は震える声で側近たちに告げた。
それは各地の防御力を割いてでも、敵を討つという決断である。そして妖魔の進軍ルートからして、真っ先に狙われるのは王都だ。
苦渋の決断ではあったが、議論している暇はない。
援軍として望めるのはドワーフの国だけであったのだ。隣国は隣国で内戦状態か、虎視眈々と領地を狙う餓狼である。教会の腰は重くあてにはならないという判断に、異を唱える者はいない。
王の援軍は風のように駆けて、ドワーフの城塞都市を攻め立てていた妖魔の軍勢の不意を突く。ドワーフ王はユルゲナム王国の救援に感謝すると、彼らの望み通り、武具の供与を約束する。
ドワーフ製の武器――剣や槍は彼らが使っている者よりも性能が良く、鋭い切れ味と貫通力を、斧はずっしりと重かったが、その重さ以上の破壊力を備えてもいる。残念ながら、あるいは当然ながらドワーフの防具は人間サイズではなく、全身鎧は胸や小手などを守る部分鎧として即席で作り直された。
さらに亡きルーンマスター・グリンガングの徒弟たちも師父の敵を討つためにルーンの武器を鍛えて騎士たちに託す。
ドワーフたちの不眠不休の作業により、王国軍が今までの軍よりも遥かに良質な装備に身を固めた時、王都陥落の報がもたらされる。
妖魔の王ローレンスはオークやゴブリンだけでなく、さらに別の妖魔――狡猾なるコボルドや恐るべき怪力を持つオーガ、ずば抜けた再生能力と戦闘センスを持つトロール、巨人に等しい体躯と魔力を持つサイクロプスなどの妖魔たちを呼び寄せたのだ。さらには虎の子の悪魔たちも前線に立たせて、王都を落としたのである。
あらゆる建造物は破壊と略奪の限りを尽くされて、死体は山を築いて血の河を造る。
いつの時代も戦争は悲惨なものであったが、これ以上ないほど情け容赦なく、残虐に命が奪われる戦争は初めてのことである。
死の魔王が猛威を振るった時、その死は無慈悲ではあったが一瞬のことであり、無駄に苦しめられることはなかった。しかし妖魔たちは人々を捕らえては生きたまま嬲り、その苦痛と悲鳴を心ゆくまで楽しんだ。騎士や兵士はもちろん、無抵抗な市民にも一切の慈悲も容赦もない。
しかし、絶望ばかりではなかった。
若き女神官戦士ルミナは教会の本部を動かして、聖軍を興したのである。
聖軍は王都からの難民を保護しながら、妖魔の軍勢と戦い、時に少なくない数で大軍を幾度も打ち破ってみせた。
「この戦いは神の御心に叶うもの。私たちが光となり、闇を打ち払うのです」
ルミナは兵士たちに語りかけ、その姿は聖女と称される。
各地から義勇兵や聖騎士たちが集まり、その数は妖魔の大軍とも戦えるほどに膨れ上がり、人々の希望となる。
しかし、ルミナには不安もあった。それは地下神殿で見せたローレンスの不死性である。恐れはなかったが、確たる勝算もなかったのである。死の魔王とエルフの女王の伝説にあやかり、永遠に封じることくらいしか思いつかない。
闇と契約した者を永遠に閉じ込めておける牢獄など心当たりはなかったが。そんな彼女に大都市アルデナークからの使者が訪ねてきたのである。
使者の名はユーグといった。




