第5話 ヴァルゴスの理
ヴァルゴスはモルディアとの対話の後、世界の理に対する絶望を押し殺し、エルフの国から立ち去ると、自らの理想を叶えるべく行動を開始する。彼の最初の目的地は、無数の兵士が倒れた戦場だった。昇天させることなく、とどめ置いた無数の魂が漂っている。
その中には、彼を罵倒した騎士の魂もあった。
「すべての魂よ、我がもとに集え……」
ヴァルゴスは静かに呟く。
天に贈るのとは別の強制力に、魂は逆らうことができず、従うしかなかった。
「私は天の理を見た。お前たちは死後、安らぐことなく、再び生を受け、そして再び死を迎える。それが永遠に続くのだ。私は救済のつもりであったが、間違いであった。今より、お前たちを永劫の安らぎに導こう」
その言葉は決意に満ちていた。
ヴァルゴスは天に贈るべき魂を、次々の自らの内側に飲み込んでいく。
「ひいぃい、やめろぉ!」
騎士の魂は抵抗したが無意味だった。
本来あるべき場所に向かうことなく、異なる場所に連れていかれる恐怖に、騎士の魂は声なき絶叫をあげる。それは他の魂も同様であったが、ヴァルゴスはそのすべてを呑み込み、強大な意志力で縛りつけた。
彼の内側に飲み込まれた魂は、もはや天に還ることない。
「私はもう、かつての私ではない。すべての魂を飲み込み、永遠に支配し、無限の苦痛を終わらせる。全ての苦しみを終わらせるために……」
ヴァルゴスは理解していなかったのかもしれない。
それは彼自身が憎んだ天の理を模倣していることに。もっとも、それを指摘する者も、それを正すことができる者もいなかった。彼は常に孤独で、彼自身も他者との繋がりを求めなかったからだ。
厳密に言うならば、彼にとっての他者とは自らが救うべき相手であり、対等なものではなかったのである。
かくしてここに、死の魔王の理が生まれた。
死の魔王がすべての魂を呑み込んだ時、彼一人が世界に残り、何も生まれず、何も苦しまない世界になるだろう。この世界に住むすべての生き物の苦しみを終わらせる。純粋であるが独善的で狂的な死の魔王ヴァルゴスの恐怖は、すぐに大陸全土に広まった。中には、彼に進んで協力する狂信者たちも現れる。
数多の勇者が、国々が、死の魔王に挑んだが、すべてが死に屈した。
死の魔王ヴァルゴスに立ちはだかる者などいないように思われたが、彼は最終的な勝者になりえなかったのである。




