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天才と呼ばれた一人の令嬢と、彼女を取り巻く人々の、身勝手な言い分  作者: 燈子
【天才と呼ばれた一人の令嬢と、彼女を取り巻く人々の、身勝手な言い分】
19/35

恐慌を統べる苛烈な聖女3

長いです。一度消えて書き直したら、文字数が増えました。

「……ふぅ」


ルイーゼが仕事用に使っているという部屋の前で、ロレンスはひとり、託されたお盆を片手に深く息を吐いた。




魔狼の大量発生の翌日。

なんとか領内に侵入した魔狼を駆除し終えたロレンスは、帰宅して息子の怪我について報告を受けた。

そしてメアリーの話も聞き、領主としてではなく個人としてルイーゼに感謝を伝えようと診療所に出向くことにしたのだ。

もちろん、侯爵領への協力に対する感謝は、後日形にするつもりだ。ルイーゼのことだかは、それなりにふんだくられる覚悟もある。




夜分に訪れた診療所は意外と明るく、多くの者が忙しなく働いていた。

傷病者たちには昼も夜もないのだと、考えてみれば当然のことに気づき、ロレンスは微かに己を恥じた。


「失礼、申し訳ないが」


入り口で医神を背負う聖医師団員と思われる若い男に声をかけて身分を名乗る。


「ルイーゼ先生は、いらっしゃるだろうか」

「いますけど、忙しいですね」

「……そうだろうな」


招かれざる客であるロレンスに対して、けんもほろろに返される言葉に、やはりそうかと頷く。しかし、日を改めようと思い謝罪を告げたロレンスを、通りがかりの少年が呼び止めた。


「侯爵様、ちょっとお待ちを!」

「レン?」


若い男が訝しげに少年の名を呼ぶ。しかし、レンと呼ばれた少年は、聡明そうな目でロレンスを見上げて首を傾げた。


「あの……アンタ、ロレンスってお名前ですか?」

「あ、あぁ、そうだが」

「じゃあ、師匠の幼馴染っすよね?」

「え、まぁ」


唐突な言葉に首を傾げながら頷けば、レンはにこりと笑って言った。


「ちょうど良かった!師匠の不機嫌が絶好調で困ってたんすよ。せっかく来たなら、ぜひとも()を代わりに受けてきてくれません?」


と。







コンコンコン

『どうぞ』


ノックをすれば扉の向こうから懐かしい声が聞こえる。ロレンスはわずかに笑みを浮かべて、お盆を片手にドアを開けた。


「やぁ、ルイーゼ。昨日は息子をありがとう」

「は?……なんでロレンスが?」


昔から滅多に驚くことのないルイーゼが、ポカンと口を開けている。意表をつかれたのか、唖然としている幼馴染に、ロレンスは昔のようにニコリと笑いかけた。


「ちょっと、君にお礼を言いにきたんだ」





「君のお弟子さんのおかげで、息子の治療もつつがなく済んだよ」

「当たり前でしょ、私の弟子だもの」


カタン、と託されていたお盆をテーブルに置き、ロレンスはルイーゼが勧めるよりも先にソファに腰を下ろした。

おそらくここは、普段は応接間を兼ねた誰かの執務室なのだろう。ルイーゼは執務机にいくつもの文書を広げて、難しい顔で視線を落としている。

作業を中断する気はさらさらないらしい。

来客へ目を向けず短い返事をするルイーゼの様子を気にすることもなく、ロレンスは言葉を続けた。


「それと、メアリーがすまなかったね。メアリーは血なんて見たことがないから、パニックになったんだと思う。許してやってくれ」

「……別に、謝る必要はないわ」


一瞬の空白の後で、ルイーゼは感情の篭らない声で呟いた。


「元からどうとも思ってないわ。自分の子が一番可愛いのは当たり前よ。母親ってのは、我が子のためなら悪鬼になれる生き物ですものね」

「おや、理解があるね」

「これまで悪鬼になった母親たちと、何度も遭遇したからよ」

「はは、なるほどね」


揶揄うように言ったロレンスに、ルイーゼは面白くもなさそうに、ふんと鼻を鳴らした。


「仕方ない話よ。重症度や優先順位なんて、素人にはわからないわ。なぜ同じように怪我をしているのに自分の子が後回しにされるのか、なぜ目の前に医者がいるのに治療してくれないのか……そう取り乱すのは、普通よ。よくあることだから、弟子たちも気にしていないわ」

「そうか、ありがとう」


ルイーゼなりの不器用なフォローに、ロレンスは柔らかい苦笑を浮かべる。


「メアリーはなんだかんだ、君を姉として信じて、誰よりも頼りに思っているし……なんなら心酔してるからね。君にならなんとかしてもらえると、それだけを思って駆け込んだらしいから、君に見捨てられたように感じて動揺したんだと思う」


メアリーは、かれこれ十年以上離れて暮らしているのにもかかわらず、ルイーゼに対しては良くも悪くも昔のままだ。

ルイーゼを医師としてではなく、頼れる姉として見ている。だからただの患者として、十把一絡げの他人のように扱われて、絶望したのだ。

けれど、話を聞いた時、ロレンスはつい笑いがこぼれた。


「何が見捨てた、よ。十分()()()()したつもりよ」

「ははっ、うん。聞いたよ」


不服げに言い返すルイーゼに思わず吹き出す。

メアリーの話を聞いて、ルイーゼにしてはとんでもない大サービスだと、ロレンスは思ったのだ。

不器用で分かりにくいけれど、メアリーのこともアレスのことも、ルイーゼなりに相当大事に思ってくれているのだと感じ、感動したくらいである。


「君に規則を破らせて申し訳なかった。人々の模範となるべき領主の姿ではなかったよ。メアリーも反省している」

「まぁ、いいわ。その場で簡単な手当てをするくらいなら、()()()()()()()()()()だから」


あれくらいのことは、場合によっては()()()()()()()、と。

そう言って、ルイーゼはチラリとロレンスに視線を向けて、肩をすくめる。


()()()()()後は、大人しく待ってたみたいだし。おかげで『領主様の息子も待ってるんだから順序を守れ』って他の怪我人たちにも言いやすかったらしいわ。混沌としていた現場が随分と扱いやすくなったって喜ばれてたから、まぁ、良しとするわ」

「そうかい、それならよかった」


わざとらしく、叱りつけた、と嫌味ったらしく言うルイーゼに、ロレンスはふぅ、と息を吐く。懐かしい言葉選びだと思った。


「まぁ……でも、びっくりしたわ。相変わらず幼いのね、あの子は」


けれど続けて、眉を顰めて吐き捨てられた『あの子』というのがメアリーを指すと察して、ロレンスはついため息を吐く。そして、しばらく言葉を探して「あー」と呻いた。


「メアリーは、ね。普段はもっとしっかりしているんだよ?僕よりよほど人間ができているくらいだ」

「信じがたいわね」


ばっさりと切り捨てるルイーゼに、ロレンスは眉間を指で揉みほぐしつつ言葉を続けた。


「その、まぁ、言い訳になるが……アレスが()()()()()()狼に襲われたものだからね。幼い息子が()()()()()()()()()()()()()と思って、メアリーはより一層ショックを受けて取り乱していたんだと思う」


びくりと、ルイーゼの肩が揺れる。書類に向ける顔は無表情のままだし、眉間に寄せられた皺は深いままだが、かすかに動揺を感じた。


「でも、すまなかったよ。メアリーは、また君を理不尽に罵倒してしまったと、酷く落ち込んで反省していた」


十年前、ロレンスの生死が分からなくて不安になったメアリーは、ルイーゼに泣き付きに行って、ばっさりと切り捨てられた。その時にメアリーは、姉をひとでなしと言わんばかりに罵倒したらしい。また同じ過ちを繰り返してしまったと、完全に自己嫌悪に陥っていた。


「今は息子に付き添っているけれど、落ち着いたら謝罪にくると思うよ」

「必要ないわ」


そう続けると、ルイーゼはなおさら眉間の皺を深くして、吐き捨てた。


「忙しいから来なくて良い。アレスに付きっきりになってなさい」

「なぜ?時間は取らせないよ」


言い回しに妙な違和感を抱いて首を傾げれば、ルイーゼはしばらくの無言の後で口を開いた。


「……私は謝らないし、謝れないから。伯母である前に、私は医師だもの」

「ん?君が謝る必要はないだろう」

「……まぁ、そうだけど」


不思議そうに見つめて問い返すと、ルイーゼは視線を逸らす。その様子ひとつの面白い仮説が浮かび、ロレンスはちょっと目を見開いた。


「もしかして、君なりに罪悪感があるとか?気まずいのかい?」

「うるさいわね」


不機嫌そうにジロリと睨まれたが、ロレンスはまじまじとルイーゼを見返した。


()()()()()()()()ということが、ルイーゼにとって、実はそれなりに心理的負担があったというのか。これは、新鮮な驚きだった。


「ふふ、そうかぁ。君も人間臭くなったものだな」

「黙りなさい。私は元から人間よ」

「はは、そうだったね」


ルイーゼは、巷では聖女と呼ばれ、まるで人外のごとく扱われることを()()している、とロレンスは思っている。

ある種の打算から、ルイーゼは自らを厳しく律し、まるで人の心を持たない超越した存在のように、振る舞っているのだろう。

自身の存在を武器として、この世界と渡り合うために。


だから、そんなルイーゼを、わずかとは言え()()に戻してしまう()()という存在は、ルイーゼにとってきっと扱い難いものなのだろう。


「じゃあせめて、感謝くらいは伝えさせてあげてくれ」

「もう今あなたから聞いたからいいわ。あの子の自己満足のために使う時間は待ち合わせていないの」


笑みを噛み殺しながらお願いするが、けんもほろろに断られる。ルイーゼのかたくなな態度に、ロレンスは「参った」と両手をあげて首を振った。


「……なぁ、なんでそんなにメアリーに会いたくないんだ?」

「必要がないからだって、言っているでしょう」

「キツイことを言ったから、顔を合わせづらいのかい?」

「…………うるさいわね!」


なるほど、と思った後で、わかりにくいな、とため息を吐く。

つまり、ルイーゼにとっては「転んで怪我をした息子が泣きついてきたのに、下の赤子が高熱だからと『メイドに手当てをしてもらいなさい』と邪険に追い返してしまった母親」みたいな心境なのだろうか?

そう思いを巡らせつつ、じろっと見つめていると、ルイーゼが言い訳がましく続けた。


「あの子が来ると、長々と時間が取られるから嫌」

「もしメアリーが来たら、わりとしっかり時間をとってくれる気だったわけだね。ありがとう」


分かりにくい好意を勝手に受け取ると、ルイーゼは心底嫌そうに顔を歪めて、ロレンスを睨みつけた。


「……あなた、前より嫌なやつね」

()()()()()()、そこそこ長く侯爵様をやってるからね」


誰かさんのおかげで陞爵されちゃったから、と呟くと、気まずそうに目が逸らされた。


「……いまは、会いたくないわ。あの子に会うと、ついカッとなって余計なことまで言ってしまうから」

「おや、自覚があったのか」


吐き出された本音に、ロレンスが片眉を上げて「意外だ」と呟くと、ルイーゼは眉を吊り上げた。


「身内じゃなければもっとうまく対応できるわよ。私、沈着冷静な天才医師で、巷では聖女と呼ばれてるのよ?」

「あはは、君のそれは多分家族への甘えってやつだね。人間味があっていいと思うよ」

「はぁ……ほんっとうに、嫌な人になったわね、あなた」


苦々しく吐き捨てる幼馴染に、ロレンスは肩をすくめて笑った。


「まぁこれ以上、今回の災厄の救世主を虐めるのはよしておくよ。正直言って、感謝してもし切れないからね」


深い吐息と共にそう呟くと、ロレンスは心からの感謝を込めて深々と頭を下げた。


「我が領の悲劇の時に、君が近くにいてくれて助かったよ。本当にありがとう」

「たまたまよ。神の思し召しとしか思えない幸運だったわ」


あっさりと感謝を受け取ったルイーゼは、あからさまなため息をついてジロリとロレンスを睨みつけた。


「まったくもう!魔狼の集団発生に暴走って意味がわからないんだけれど。あなたたち、ちゃんと領地を見てたの?」

「隣の国でなんだか森を切り拓いてるらしくてねぇ、魔素だまりと言われる盆地に獣たちが追いやられたらしい」

「それで集団発生?」

「と、予測してるよ。しかも隣国は思いっきり武装して森でガンガン威嚇音をたてながら開拓を続行するものだから、飢えた獣たちがこっちに押し込まれているんだよ」


隣の国には十分に文句を言わなければなるまい。だが、これは政治の話だ。ルイーゼの耳に入れて、煩わせる必要もないだろう。

そう判断して、ロレンスはあっさりと話題を変えた。


「ところで、小耳に挟んだんだけれどね。完全無欠な君の()()()って、一体なんなんだい?」

「……雑談は終わりよ、あなたと違って私は忙しいの」


朗らかに、かつ、しれっと話題を変えたロレンスに、ルイーゼも堂々と視線を外して鼻を鳴らした。さっさと出て行けと態度で表すルイーゼだが、長い付き合いである上に、日夜高位貴族として陰険な世界で生きているロレンスは平然と笑った。


「しかし君のお弟子さんから、『なんとか師匠に夕飯を食わせて下さい』て頼まれたんだよね。……あ、そうだ。うちの末っ子にするように、口元まで運んで食べさせてあげてもよいかい?」

「…………あぁもう!」


野菜サンドイッチを片手に「あーん」と言いながら執務机に近づけば、ルイーゼはバンッと机を叩いてロレンスを睨んだ。


「テーブルに置いて!さっさと食べるわ!」

「それはよかった」


にっこり笑って、ロレンスはサンドイッチを自分の口に運ぶ。ピクルスの控えめな酸味に、なるほどルイーゼの好みを知る人間が用意したらしいと察して、ロレンスはこっそり微笑んだ。幼馴染はどうやら、周りの人間に恵まれているようだと察したので。







「それにしても、医学的な優先順位ってのは、君にとって凄く重いものなんだね」

「…………急にどうしたのよ」

「さっき聞いていて、随分と苦しそうだったから。もしかして、これかなぁ?って」


先程の会話とメアリーから聞いた話を総合して推測したのだが、どうやら()()()らしい。意外と嘘のつかない人だと思いつつ、目を逸らさずに見つめれば、ルイーゼは諦めたように瞼を落として呟いた。


「……命に優先順位をつけるのが、医者は一番苦しいの。当たり前でしょう」

「そうだろうね」


昨日のことを思い出して、ロレンスは実感を込めて頷いた。


命に優先順位をつける……それは、どこかの命を切り捨てることに等しい。


文書や報告から、客観的に判断しようと思っても、実際その場に生きる民を思えば、切り捨てることは容易ではなかった。今回はルイーゼのおかげでその判断をせずにすみ、ロレンスは本当に安堵しているのだ。


「だから、なるべく自分でやるようにしているのよ。若い子には酷だから」

「そうか。……まったく」


重いため息を吐いて、ロレンスは優しくて強い幼馴染が背負うものを思う。

数字を見て切り捨てることすら辛いのだ。苦しむ患者を目の前に、優先順位をつけなけらばならないルイーゼの負担は、いったいどれほどのものなのか。

ロレンスには想像もつかなかった。


「緊急時には、治療してもおそらく死んでしまうような重傷者は、逆に優先度が下がるのよ。それよりも、救える命をなるべく多く救わなければならないから」

「そうか、……たしかに、そうだろうね」


訥々と語られる言葉に、かつての戦争を思い返しながら、ロレンスは重い同意を返す。

ルイーゼは「分かってくれて嬉しいわ」と力無い笑みを浮かべて、何度目かのため息をついた。


「普段ならギリギリまで粘っても、有事の際にはそうはいかない。そうしている間に、他の、今すぐ治療すれば救えたはずの患者が()()()()()()()()になってしまうから」


苦しげに言い切った後、しばらくルイーゼは押し黙った。薄暗い沈黙の中、ロレンスは静かに続きを待つ。細く息を吸う音の後、震える囁きが落とされた。


「私は一度、……失敗したわ」

「君が?」


驚きに眉を上げれば、ルイーゼは「ええ」と呟いて苦く笑う。そして、悔恨に満ちた顔で唇を噛んだ。


「数年前……隣の国で、神山の噴火があった時のことよ」


疲弊した顔のルイーゼが、弱々しく告げる。滅多に見ない姿に、ロレンスは正直、驚きを隠せなかった。


「助からないような大怪我をした一人の患者の治療に固執して、引き際を見誤って、他の多くの命を危険に晒してしまった」


ルイーゼは立ち上がり、窓辺に向かう。まるで暗い夜空の向こうにある過去を思い返すように、重い声音で続けた。


「幸いにも、私の判断ミスのせいで大きな実害は出なかったけれど、あれは私の生涯の不覚、いえ、()()だわ」

「そうか……君にもそんなことがあったんだね」


苦々しく吐き捨てるルイーゼに、ロレンスは静かに頷き、柔らかな相槌をうった。そしてふっと微笑み、目を細めてルイーゼを見上げる。


「でも、君の汚点になれたひとは、幸せだね」

「どういう意味?」


不可解そうに眉を顰めて振り向いたルイーゼに、ロレンスはニコッと笑ってみせた。


「だって君、その人のことが()()()()()()()()()()()んだろう?」

「っ、な、にを」


目を見開き、喘ぐようにルイーゼが呟く。しかし反論の言葉が出てこないのか、普段は達者な口が、今は虚しく開閉を繰り返すだけだ。


「しかも、君はその人のことを、一生忘れられないわけだ。いやぁ、それは死んでしまったとしても、聖女様にそこまでしてもらえたなら、きっと……わりと満たされたんじゃないかい?」


何も知らない人間の戯れ事だ。けれどロレンスは自分の感覚のままに、ルイーゼにそう告げていた。

きっと自分ならば、自分の命を救いたくて仕方ないという必死な姿に、大きな喜びや満足を覚えるだろうと思ったから。


「少なくともその人にとっては、ありがたかったと思うけどな」

「……知らないわ、他人の心の中なんか」


ルイーゼはどう受け取ったのか、ぷいと顔を背けて、また窓の外を向いてしまった。慰めにもならない妄言だと腹を立てたのかもしれないが、ロレンスは気にしなかった。ルイーゼの考えていることなど分からないのだから、ロレンスはロレンスの思ったように伝えるだけだ。


「で、結局死んじゃったのかい?」


話題に似合わない軽い口調で尋ねれば、ルイーゼは首を傾げて「さぁ?」と呟いた。


「途中で弟子に交代して、私はそのまま大量の怪我人を捌いて、そして、やっと落ち着いたかと思ったら、また噴火。次々と怪我人が運ばれてくるし、国の対応は遅いし」


はぁ、と苛立たしさをこめたため息が、窓のガラスを曇らせた。ガラスに手を当てて、ルイーゼは外の闇に目を凝らす。ルイーゼの金の瞳は、何かを探しているような、もしくは何も見ていないような、不思議な動きをしていた。


「三度目の噴火の予兆があった時に、ブチ切れて国王陛下に直談判しに行ったのよ。そのまま王都の診療施設をぶんどって、傷病者をまとめて面倒見て…気づいたら年が明けていたわ」

「それはお疲れ様だったねぇ」


新聞では、我が国の誇る白き女神の獅子奮迅の働きで多くの無辜の民の生命が救われた、くらいにしか書いていなかった。

けれど、実際は相当に大変だったことだろう。

ロレンスには想像もできないが、それこそ、筆舌に尽くしがたいほどに。


「国の対応が後手後手に回ったからだって怒鳴りつけて、傷病者の治療にかかる負担は全て国が持つことを約束させて、そのまま国を出たのよ。だって北の公国でクーデターが起きた上に、医療は崩壊してるとか言うから」

「君は本当に忙しい人だなぁ」


感嘆と賞賛をこめて呟けば、じろりと睨まれた。


「褒めてるんだけどな」


苦笑するロレンスに、ルイーゼは鼻を鳴らして、また視線を逸らした。そしてきつい眼差しで、夜の闇を睨みつけた。まるでそうしないと耐えられないとでもいうように。


「ルイーゼ……大丈夫かい?」

「勿論、平気よ」


強がりな言葉とは裏腹に、やけに心細い後ろ姿だ。ひょっとしたらルイーゼが泣き出してしまうのではないかと、ロレンスがありえない妄想を抱いてしまうくらいに、儚げな背中だった。


「まぁ、彼がもし万が一生きていれば、国の病院で治療を受けていたんでしょうけれど、……あの傷じゃあ確実に死んでるでしょうね」


ぽつりと呟く声は、かすかに震えている。暗いガラスに映るルイーゼは、ぐっと目を固く瞑り、唇を噛み締めていた。


「彼は、……私の判断ミスによる死者のうちの一人よ」


悲痛な掠れ声の悔恨は、夜の闇に沈んで消えた。





書き直した時に、何かしらエピソードを書き忘れてる気がします……

思い出したら、また番外編にして書きますね。


あと2話でひとまず完結です。

いつも感想ありがとうございます!

お返事は完結後にさせて頂きます!m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルイーゼがロレンスにきゃんきゃんと絡んで人間臭くて可愛いところ。 照れ隠しでロレンスを怒鳴りつけるルイーゼに対して飄々として微笑んでいるロレンスが思い浮かんできて、メアリーが奥さんのはわか…
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