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チェインブレイブ  作者: 南無三
平穏は突如終わりを告げて
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第9話・脅威襲来

 自身が村の便利屋に至るまでの、苦々しくも受け入れ無ければならない記憶を辿ったアグルナムはかつて自身を村に受け入れてくれた眼の前の村長と語らう。


「……正しくあろうとするのは難しいですね村長」

「なぜそう思うのかなアグ」


「二年も経つのに…俺はまだ公国にいるエルクとセラに謝れずにいます。

 謝りに行こうと何度決意してみても……その度に二人との旅の記憶が蘇って脚が震えてしまって……」

「まだ劣情が君の心に渦巻いているのかな」


「流石にもう失恋の傷は癒えていますし、二人の幸せを純粋に祝福する気持ちにはなりましたが……いざ謝りに行って許されなかったらどうしようとかくだらないことを考えてしまって……それを覚悟してでも謝罪するべきなのに」

「そうだね……ではそんな君に勇気を与えるプレゼントをあげよう」

「え……?」


 村長は胸のポケットから小さな木製のブローチを取り出しアグルナムへ手渡す。


「これは……とても良い香りがする……まさか……!?」

「あぁ……ザム村の【神木】だよ。

 このザム村の守り神であり、大きな収入源でもある香木を産む母なる木を装飾したものだ」


「そんな……!こんな良いもの受け取れませんよ……」

「日々の労いさ、それに商品価値の中では最低の香木を使ったものだ、気にすることは無いよ」


「それでも相当な値が張るでしょう……香木の香りは魔術の元になる生命に流れるエネルギー、【マガル】の流れを整える効能があるから魔術士や軍が重用するようなものなのに……。」

「君がこの村にもたらしてきた功労に村が出せる相応しい報酬のつもりだよ。

 畑仕事に伐採を中心とした力仕事、畑荒らしの獣への対応、困っている村人の悩みを積極的に解決してくれたりする一日中働き続ける君に対して村を代表して送る勲章のようなものさ、どうか受け取っておくれ」


「……本当にありがとうございます、大事にしますよ」

「ああ……ではアグ、収穫祭に向けてもう一頑張り頼んだよ、この収穫祭は神木を祀るのが主目的だからしっかり盛り上げないとね」

「ええ、任せてください」


 村長は話を終えると軽い笑顔を浮かべてアグルナムの元を去り、持ち場へと戻っていった。

 十分に休憩を終えたアグルナムは立ち上がって身体を伸ばす。


「んー……よっし、俺も何か手伝いにいくか……」

「アグ(にぃ)ー!おーいアグ(にぃ)!」

「んっ……リュクか」


 ザム村において最年少である12歳の少年、リュク・アーガディは、遠巻きからアグルナムへと呼びかけながら接近する。


「アグ兄、いま暇?暇なら一緒に訓練に付き合ってよ」

「暇なわけあるか、収穫祭の準備中だぞ? リュクも親父さんとかを手伝ってやりな」

「え〜めんどくさい……収穫祭って言っても少ない野菜を神木に並べてワイワイ騒ぐだけじゃん。 つまんないよ」

「そう言うなって、村一番の猟師を目指すならこういうことでも身体を動かしておきな」

「猟師を目指すのに収穫祭の準備なんて関係ないよ絶対……むぅ……」


 構ってもらえずに口を尖らせながら拗ねる反応をするリュクに対し、アグルナムは苦笑いを浮かべた。

 どうにか構って貰おうとアグルナムを凝視するリュクは胸についたブローチに興味を示す。


「あれアグ兄、どうしたの胸についてるそれ?」

「あぁこれな……村長からのプレゼントなんだ」

「へぇ……わぁ何か凄く良い香りがする!これ神木でしょ!いいないいな~」

「リュクが立派な猟師になったら、村長から貰えるかもな」

「ほんと!?なら燻ってられないよ、一日でも早く一流の猟師になるために頑張らなきゃ!」

「収穫祭の準備をサボるやつは貰えないぞ」

「む、むぅ……」


「ふっ……元気だな二人共」

「あ、クーヴァンさんこんにちは」

「こんにちは〜ヴァンさん」


「今日は私も収穫祭を楽しませて貰うよ、最近公国の方が慌ただしくて気が休まらなくてね」

「大公が変わったんでしたっけ、政治には疎くて……」

「ああ、一年前に前大公が亡くなられて第1王子のレウォル・フォン・ギュルター公が跡を継いでからは城内で急激に変革が行われているようでね。

 まぁ私のような平民出の駐在軍人には、あまり関係ない話だろうけどね。」


(公国はそんな状況なのか……エルクとセラが面倒事に巻き込まれてなければ良いけど……)

「最近軍に弾を買い漁られて弾が手に入らないって父さん愚痴ってたなぁ、ただでさえ最近畑荒らしの動物が増えてきてるのにさ」

「ははは……すまないね、その分私達公国軍と獣退治のエキスパートなアグが頑張るから許しておくれ」


「アグ兄の獣狩りが見れるから僕は良いんだけどね、この前の猪をぶん投げて退治したのは凄かったなぁ。

 僕もいつかあんな狩りをしてみたい!」


「俺の狩りは参考にしちゃいけない特例だからなリュク……しっかり親父さんから猟師の技を覚えなさい」

「はーい」


「た、大変だぁぁぁッ!!」

 

 楽観的な雰囲気を切り裂くかのような不穏な大声を出す30代程の男に、村の者達が一斉に注目を浴びせる。


「どうしたんだ?」

「あ、あぁあクーヴァンさん……!で、ででで……!」

「落ち着けベント、いったい何があった?」

「はっ……はぁ……出たんだよ!!熊がッ!!」


「熊か……収穫祭があるというのに……」

「た、ただの熊じゃねぇ!!」

「どういうことだ?」


「村の外れの森へキノコを取りに行ったら……いつもの森と雰囲気が違うのを感じたんだ……入っていったら何かを貪るような変な音が聴こえて……音のする方を見てみたら……背中に青い……何かをくっつけたバカデケェ熊が(しし)を食ってて……その姿が恐ろしいのなんのって……」

「背中に青い何か……?」

「あ、ありゃあ間違いなくただの熊じゃなかった!!あれは……魔物化した熊だ!!」

「なんだと……!?」


 話を聴いていた周りの野次馬達は、魔物という言葉を聞いた瞬間に慌ただしく不安をあらわにする。

 アグルナムもまたその内の一人であった。


「魔物だって……!?」

「ねぇアグ兄……魔物って何?」

「……命あるものにはマガルっていうエネルギーが蓄積されてるっていうのはリュクも知っているよな?」

「うん……」

「魔物っていうのは……そのマガルが何らかの原因で蓄積できる限界を超えてマガルに生命を支配されてしまった者の成れの果てだ……」


「それって……ヤバいの?」

「ヤバいなんてものじゃない……魔物化するとマガルが、支配した生命に凄まじい力を与えて、他のマガルを持つ物を食らうだけの化け物になっちまうんだ……熊みたいな元から強い獣が魔物になっているなら、どれだけヤバいか想像つかねぇ……」

「アグ兄でも……勝てないの?」

「普通の熊だって一人じゃギリギリなのに、魔物化したらまず勝ち目はねぇな……」

「…………」


 青ざめた顔を浮かべるリュクにかける言葉もなく、アグルナムは冷や汗を浮かべていた。

 

 騒ぎを聞きつけた村の駐在軍人がクーヴァンの元に集まり対応を相談し合う。


「まずいな……10人程しかいない、更に腕の立つ魔術士も不在な状態の駐在軍の戦力では心許無さすぎる……

 とはいえ外れの森となるとまだ距離はある……村人を避難させる時間はあるか……」


「老人が多い村人を避難させるとなると距離はあまり稼げません。 公国への援軍要請用救難信号も予め打ち上げておくべきでは……」


「救難信号を感知した魔物が一直線に村へ駆けつけてくる可能性があるが……魔物はマガルの感知力が高い。

 どうせ距離を稼いで何処かに隠れていても割り出される可能性が高い以上、早目に要請するに越したことは無いか……。

 良し!これより我々は迅速に避難誘導を行う!ブラッドは救難信号の魔術を打ち上げてくれ!!」

「ハッ!!」


 方針を固めた駐在軍はクーヴァン指揮の元、装備を整えて避難誘導を行い、その内の一人が上空に向けて信号用の光を片腕から放出する。


 アグルナムは自宅へと戻り避難の準備を進めていたがその胸中は不安で渦巻いていた。


(親父が言うからには……魔物は特に人間のマガルを好んで食しに来る傾向がある……しかもマガルを感知する力に優れていて集団で行動しようものなら、常に位置を割り出されて逃げようもない……。

 公国の援軍だってどれだけ早くても1時間はかかる……このままじゃ確実に大きな犠牲が出るぞ……

 誰かが……時間を稼がない限りは……)


「……これは……」


 身支度の最中、クローゼットの中から父・デアンに託された服とマントを発見したアグルナムはかつてデアンにかけられた言葉を思い出す。


――『必ずや誰かのために生命をかける生き様を辿れる男になれる』――


「……勇者……か……」


 服を広げて凝視するアグルナムは、旅立ちの日に見た父親の大きな背中を感じ取り、そこに憧れのような感情を抱きつつも、自身の現状を鑑みて自嘲するように目を背ける。


(親父……きっと今こそが勇者として闘うべき時なんだろうけど……やっぱり命をかけるのは怖いよ……)


『アグルナムよ……』

「!!」


 煮えきらないアグルナムに呼応するかのように、デアンの声がアグルナムの脳内にこだまする。

 更にアグルナムは衣服からデアンの幻影を感じ取り、その幻影がアグルナムの胸に拳をくっつける仕草を行った。


『お前は……勇者デアンの子ぞ……』

「親父……」


 幾度も勇気づけられた仕草に心臓の高鳴りを感じたアグルナムの顔からは迷いが消え失せ、その瞳からは守るべき者のために闘う決意を滲ませていた。


「闘うしか無いんだよな……俺は……勇者の子だもんなッ……!!」


 白い半袖の薄着の上に勇者の衣服を着こなし、蒼いマントをたなびかせる。

 鏡で自分の姿を確認したアグルナムは自嘲するように笑った。


「……やっぱダセェよこの格好……でも……勇気が湧いてくるぜ親父……!」


 託された斧を武器棚から引っ張り出し腰の留め具に止め、アグルナムは家屋から立ち去った。


――――――――――――――――


「急げよ皆ッ!!」

「クーヴァンさん……」

「アグか……!?どうしたんだその格好……」

「俺は……闘いに行きます」

「ッ!?馬鹿を言うなッ!!勝てるわけが無いだろう!!」

「避難の時間を稼ぐために戦うんです。

今から避難をしても魔物相手では逃げ切れずに大きな犠牲が出る可能性が高い……だから……誰かが時間を稼ぐ必要があるでしょう。」

「そう……かもしれんが!普通の熊とは訳が違うんだ!!いくらお前でも、どうにかできる相手じゃないッ!!」

「どうにかしてみますよ、俺は……勇者の子ですから」

「待てアグッ!!アグーー!!!」


 クーヴァンの制止を振り切って村の出口へと駆け抜けたアグルナムは、魔物が待つ村外れの森へと向かう。


「アグ兄……戦いに行くんだね……!」


 その様子を自宅の窓から見ていたリュクは、両親の目を盗んで猟銃へと手をかけた。

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