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チェインブレイブ  作者: 南無三
村の便利屋の過去
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第3話・旅立ちの日

――エルクとセラがユヴァージュ村を訪れてからの3日間は光の速さで過ぎ去って行き、遂に思い出巡りの旅が始まる日がやってきた。

 幼少期に学び舎で行われたベルヴェム公国への研修旅行前の気分に戻ったようで、晩は全然眠れずに日課の斧素振りで汗を流していた。


「ふッ…はぁ〜〜………」

「眠れぬのかアグルナム」

「親父…」

「俺も旅立つ直前はお前のように眠れぬ夜を過ごしたものだ、そういうところまで似せてしまったな」

「ははは…正直楽しみと不安の板挟みだよ…」

「無理もない、ほらマオリグサを煎じた茶だ。高揚した気分を沈めてくれる効能がある、少し苦いがな」

「サンキュ…」


――親父は無骨ながらも何だかんだと俺のことを気にかけてくれる。この茶も苦いと言った割には甘党の俺のために蜂蜜をふんだんに溶かしてくれている気遣いが施されており、身体以上に心が温まっていくのを感じた。


「あ〜…うめぇ…」

「アグルナム、俺もしばらくは旅に出ることになった」

「えっ…唐突だな、いつ戻ってくるんだ?」

「見当はつかん…まず長い旅になる」

「あぁ…まぁ俺の方は気にするなよ、多分一人暮らしでもなんとかなるさ」

「お前も旅に出るのだから一人暮らしも何もないだろう、旅はサバイバルぞサバイバル」

「だから俺の旅は公国に着いてしばらくしたら終わりなのッ! 一月くらいで帰ってくるって!」

「いいや、お前の旅はそんなところでは終わらんぞ。俺にはわかる、勇者の勘だ!」

「か〜…話にならねぇホント…」

「あ、そうだ…もう一つ渡すものがあったことを忘れていた。少し待っていろ」

「母さんの形見とだせぇ服以外にまだ何かあるのか?」

「ださいって言うなッ!俺の故郷に伝わる衣装ぞ!まったく…」


――悪態を付きながらガニ股歩きで家へと入っていった親父は五分も経たない内に戻ってきた。


「ほら、受け取れ」

「これ…親父の斧じゃねぇか、部屋で大事に飾っている…」

「魔導士ヤムを両断した最高の戦闘斧だ、今のお前なら使いこなせるだろう」


――見事なまでに研ぎ澄まされた片刃の斧は膂力には自信がある俺の片腕にずっしりと重圧を与えてくる。

 普段訓練や薪割用に扱っている斧とは比べ物にならないような逸品だった。


「こいつなら魔物となって肉が硬質化した獣だって切断できる。そいつで仲間を守ってやるんだぞ」

「こんな良い斧…貰えねぇよ」

「勇者として旅立つお前への餞別だ、返品は不可だからな。それじゃあもう話す事はないからさっさと寝ろ、身体に響くぞ」

「あっ…おい……急に投げやりになりやがって…」


――のっそりと家に入っていく親父の背中は何故だがいつも以上に大きく感じられ、そこには父としての威厳や男としての強さ何かが表れているような気がした。

 月明かりに照らされた斧に魅入られた俺に喝を入れるかのように心地よく風が騒ぎ、それが眠気へと俺の脳を導いた。


―――――――――――――――――――――


「なぁ親父…マントだけは勘弁してくれねぇか?」

「勇者といえばマント、マントといえば勇者と古き言葉にある。着用は義務だ」

「ぜってぇねぇよそんな言葉…」

「えーいごちゃごちゃ言うな!お前も二十歳を超えた男ならマントの一つや二つ着こなす男になれッ」

「無茶苦茶だ…」


――旅立ちの日の朝方、親父の勇者式コーディネートを巡ってただでさえ服がダサいのにマントを付け加えてくる絶望的センスを受け入れたくない俺は抵抗を行っていたが、絶対に譲らない親父と迫りくる時間との板挟みにあった俺は折れざるを得なくなってしまった。


「村の皆に笑われたら一生恨んでやるからな…」

「お前を笑う奴には拳骨をくれてやるから安心しろ」

「それはそれで問題だろ!」

「なら圧をかけるだけですまそう」

「………ホント勘弁してくれ」


――親としては尊敬しているがこういう暴走しがちなところだけは切に改善することを願っている…ずっとこうだから変わることは無いんだろうが。


「では行くぞ!勇者アグルナムの旅を皆が祝福するために待っている!」

「俺じゃなくてエルクとセラを祝福するんだぞ…」


――年甲斐も無くはしゃぎながら先導する親父の背中を見ていると晩に見た頼もしい背中は幻だったんじゃないかと思わせる。

 ため息をつきながら重い足取りで親父の後を追った。


―――――――――


「お、来たなアグ…っぷ…何だその格好…」

「笑うんじゃねぇガッタ…」

「い、いや…だってよぉ…ぷっ…おまっ…マントて…くっくっく……似合わねぇ…」

「行っとくが俺の趣味じゃねぇからな!」

「ぷっくっくっ…わかったわかったそういうことにしてやるよ…くっくっ…へっ…!? 何か急に寒気が……?」


――ガッタのすぐ後ろで腕を組みながら圧をかける親父の姿がある。熊と相撲を取るような村でも一番の巨漢が真後ろで厳しい目を向けていたら寒気の一つや二つはするものだろう。


「あ…お父さん…どもっス………」

「ガッタ君…今日のアグルナムの服装は素晴らしいと思わないかね…?」

「え…えぇ…!いやぁ、まるでベルヴェム物語に出てくる戦士バスラのような出で立ちで…とってもカッチョいいッ…!」

「そぉうかそう思うかッ!君は良いセンスを有しているなぁ!!」

「あががががッ!?ぁぁありがとうごぜぇましゅ!!?」


――ぶっとい腕をガッタの頭に絡ませて脇に抱え、片方の手で頭をワシャワシャと豪快に撫でたせいでガッタの整った短髪はボサボサに荒れてしまった。


「はっはっはっ!皆さんも素晴らしいと思いませんか!我が息子の晴れ姿を!」


――集まった人達に向かって爽やかな声色で息子自慢を行う親父に対して、ガッタの被害を目前にした人達は冷や汗をかけながら一斉に首を縦に振る。

 俺は人生で初めて死にたいと思う体験をし、赤面しながら顔を落とした。


「あ!二人が来たわ!」


――若い娘が声を上げると並んで歩くエルクとセラへ村人達が一斉に集まり円が出来上がる。


「二人は村の誇りだ!」

「公国に行っても私はエルクを想い続けて生きていくわ!」

「セラ〜大好きだぁ!」


――大半が黄色い声援を送る中、老齢の村長が輪をくぐり抜けて二人へ言葉を送る。


「二人共…この村で培った思い出を忘れずに公国でも元気に頑張りなさい」

「「はいっ」」

「しかし、馬車も使わずに公国へ向かうと聞いたが大丈夫か? 距離もあるし、最近は族の活動報告が国から届いている。二人が強い子なのは理解しているが…」

「そのことなら大丈夫です、公国までの道中はアグに護衛を依頼していますから」

「ほぉ、アグが…」


――視線が俺に集中し、勇者コーディネートが大衆に認知されたことで穴があったら入りたい気分を味わった。 

 とても恥ずかしい。


「アグが護衛なら大丈夫だな」

「エルクとセラをしっかり守りなさいよ、まぁ逆にエルクに守られちゃうかもしれないけど」

「頑張れよ野獣!あと服だせぇな!」


――俺の周りにも人が集まり口々に労いの言葉をかけてくれる。 その中の一名は親父の圧の犠牲となり暖かくなりつつある季節なのに飛びっきりの悪寒を感じ身体を震わせていた。

 人の輪が瓦解したことでエルクとセラが俺の姿を認識することが可能となり、二人がこちらに近づいてきた。


「アグ!何だよその格好!」

(エルクッ…面倒なことになるから服には触れるなッ…)

「とってもカッコいいじゃないか!正に勇者って感じだな!」

「え?」

「わぁホント、ベルヴェムの騎士に出てくる王子様みたい!」

「そう思うかエルク君!セラ君!」

「えぇ親父さん!特にこの蒼いマントがたくましいアグの身体にカッチリとハマっていて…」

「マントが似合う男の人って良いよね〜」

「その通り!!やはり二人はアグルナムの友としても人としても素晴らしい者達だッ!」


――三人は目を輝かせながら勇者式コーディネートを熱く語っており、親父なんかは暑苦しい涙を流している。

 まさか二人がこんなダサい服装に熱いものを覚えるような感覚を持っているとは思わず、俺は目を丸くして少しだけ美的センスを疑った。

 セラの言葉を間に受けて周りの男衆はマントを着用することへの興味を持ったようで、中には上着をマントに見立てて首に下げるような輩まで現れた。


「こんな素晴らしい親友を持ててお前は幸せものだアグルナムッ…必ず勇者としてこの二人を守り抜くのだぞ!」

「あ…はい…」


――暑苦しく涙を流しながら俺の両肩に手を置く親父のノリについて行けず、何とも気の抜けた返事をしてしまった。


「では村の衆…これから大いなる旅へ向かう若き可能性を盛大に見送ろうではありませんかッ!!」


――村長を差し置いて場を仕切り始めた親父は煽動を行い、村人達は少し戸惑いながらも旅路を祝福するために一同並んで出口に立つ俺達を見送る。


「勇者達よ…可能性を疑うことなく、夢を失うことなく、己が大切に思う人々に勇気を与える存在となれるよう、誇り高く生きてゆけッ!!」

「「はいッ!!」」

「……………」


――聞くだけで恥ずかしくなる親父の激励を皮切りに村人達も拍手や腕を振ることで旅立ちを祝福する。

 顔から火が出そうになる俺と、爽やかな笑顔を皆に向ける二人で温度差を感じた。


「ありがとう皆ー!元気でねー!」

「忘れないからー!皆との思い出ー!」


 村を出て皆の姿が遠くなった距離で振り返り別れの言葉を叫ぶ二人、遠くから村人達の言葉もちらほらと聞こえてくるなか親父の野太い声が特段響いた。


「アグルナムーッ!!…元気でいろよーッ!!!」


――届いた声に応えるように背を見せながら腕を上げる。

 一月後には帰ってくる予定なのに、なぜだか今生の別れを告げた気分になり、胸に涙が貯まる感覚に陥りながら俺達はベルヴェム公国を終点とした思い出作りの旅へ赴くのであった。

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