第26話・雷狐躍動
「ふうぅぅぅ……!」
(なんて凄まじいマガルだ……! 十代の小娘が放っていい質じゃねぇぞ……!)
「魔導の力……これほどとは……」
「うう……空気が痺れる……!」
『ギ……ギ……!?』
放出するマガルが空間そのものを感電させたかの如く、その場にいる者達は魔物も含め肌にピリピリとした重圧を受けまともに動けずにいる。
イザナは広範囲に拡散するマガルを徐々に自身へと還元していき、収束しきった電撃状のマガルを自身の頭頂部と背中と臀部の境目へと集中させる。
蒼いマガルにより形作られたそれは、まるで狐の耳と尾を描くようであった。
「"決戦雷狐"……"鋼伝雷"!」
『ギャァァァァァ!!?』
動きを止めるのが関の山であった今までの稲光とは比較にならないほどの強大な雷撃を脇差しの刃先へと集中させる。
その電撃を最も距離の近い魔物へと放つと全身に雷が走った魔物の肉体は黒く焦げていき、煙を巻き上げながら生命活動を停止して地に這い伏し、瞬く間にマガルと化して宙に溶けていった。
「なんつう力だ……!」
「すご……」
「焼き尽くしてくれる……」
「待てイザナ!」
アストラの制止を無視し、イザナは二刀を構えながら低い姿勢で魔物の群れへと突撃していく。
『ジャアァァッ!!』
「"雷我"……!」
『ギィアァァァッッ!?』
迎撃を試みる複数の魔物に対し、全身から膨大な蒼雷を放出し大感電を引き起こす。
壮大に散り続ける火花とすれ違いざまの魔物を切りつけながら足蹴にし、美しく宙を舞ったイザナに幻想的な風情を覚えたリュクは、息を飲んで目を輝かせた。
「綺麗……」
「"翔天墜"……」
『ッッッ?!』
「うわぁっ!?」
「凄まじすぎる……! まるであの童そのものが雷雲と化して魔物へと天罰を与えるが如くにござる……!」
空中できりもみ回転を加えたイザナの肉体からは味方にも圧が伝わる程の広範囲な放電が行われ、生き残った魔物へと一人残らず直撃させたことにより群れは全滅へと至った。
数の不利を年端もいかない少女がたった一人で覆した事実がそこに残り、底しれないイザナの強さに男衆は息を飲んで戦慄した。
「終わり…………うっ」
「……!? イザナ!」
高所から着地したのと同時にイザナは身体を庇いながら勢い良く地へと倒れ伏してしまい、リュクがいち早く身を案じて駆け寄って行き大人達もリュクへと続いて行く。
「大丈夫イザナ?」
「危ねえ倒れ方だったぞ……張り切り過ぎだ」
「お腹……空いた……」
「あ?」
「そういえば魔導を使ったらお腹が空くって言っていたね……ちょっと待ってて」
デジョングローブから小さく膨らんだ袋を召喚し、リュクはその袋から燻製肉を取り出す。
「食べられる?」
「うむ……あーん」
「自分で食べなよ……」
「お腹が空きすぎて無理……このままリュクの手であーんしたまえ……」
「しょうがないんだからもー……」
リュクは自身の膝にイザナの後頭部を置き、その体勢のまま一口大に千切った燻製肉を口元へと運んでいき、イザナは小さな口で咀嚼する流れを繰り返す。
先程まで鬼神の如き働きで魔物を滅した小さな女傑の威厳はそこには無く、自身よりも弱く年が下の男子に介抱される姿にアストラはため息をついた。
「パワーはあるがやはり燃費は最悪か……」
「童だと侮った自身を恥じるばかりにござる……マスター殿、彼女の魔導は此度の異変の解決に役立つものだと思うが」
「短時間戦っただけであのざまになるような不安定な力に頼るわけにはいかねぇ。 それに何があっても子供を戦わせるつもりもねぇ」
「幼子とはいえ自身の意思で戦いへと出向き力を証明した……拙者はその結果を尊重したい所望にござる」
「…………」
サジンの言葉にふと迷いが生じたアストラであったが、邪念を振り払うかのように首を素早く横に振る。
「駄目だ、俺が認められねぇ……」
「頑固者……」
空腹をある程度克服したイザナは、リュクに支えられながらアストラへと向き合う。
「重ねた年月は短くとも、私にもリュクにも戦う理由がある。おじおじの考えにも一理あるがどうか理解して欲しい」
「お願いマスター……絶対に邪魔はしないから」
「危険に晒されても曲げぬ強い意思を無下にはしたくないでござる。拙者が命にかけても守り抜くゆえ、童らと共に元凶を討つことを一考しては貰えぬかマスター殿」
「…………」
真っ直ぐと自身に眼差しを向ける子供達から、どこか危なげながらも強い期待と希望を感じ取ったアストラは、自嘲するように鼻息を鳴らし背を向けて口を開いた。
「絶対に俺とサジンさんから離れるな……それが条件だ」
「……! うん!」
「うむ」
戦いへの同行を認められた二人は勝ち気な笑顔を浮かべる。
「ありがとうサジンさん……」
「礼には及ばぬ。啖呵を切った以上はしかと役に立つよう励むでござるよ」
「うん……次はしっかりと撃つよ」
「それでおじおじ、このまま黒幕とやらを倒しに行くのか?」
「ああ、アグのことは気になるがあいつも無茶しないだけの判断はできるだろうからな。使用人の件は任せて俺達は成すべきことを成しに行くぞ」
「わかった」
悶着を乗り越えたアストラ達は黒幕が潜む旧劇場へと出向いて行った。




