第25話・分断
「ふっ的中だぜい」
「凄いねイザナちゃん……特別な魔術なのかな?」
「アグ兄無事だった!?」
「あ……ああ……ってそうじゃなくて……!」
アグルナムは三人の元へと駆け出し、焦りと怒りに満ちた表情で対面する。
「どうしてついて来たんだ! 待っててくれってあれほど……」
「怒るより先に助けられたことへの感謝を示すべきだぞアグアグ」
「うっ……それに関しては……ありがとう……」
「救命に免じて私達の同行も許可するべき、戦える力は示した」
「それとこれとは……!」
「アグ兄っ! 戦わなきゃいけない相手から目を背けて生きていくのは嫌なんだ! 認めてよッ!」
「リュク……」
「ガキがいっちょ前に吠えてんじゃねぇぞ」
「マスター……」
ドスの効いた声色と共に距離を詰めるアストラに対し一瞬臆す様子を見せながらも、リュクはキリッとした目つきで自らアストラの側へ進んでゆく。
怒気の伝わる表情から目を逸らすことなく、勇気に満ちた顔を上げリュクはアストラに対峙する。
「足手まといにしかならねぇとわからねぇか……とっとと回り右して戻りやがれ」
「嫌だ……! 僕達も戦う! 足手まといにはならないよ!」
「ほぉ、威勢の割には戦うための得物が見当たらねぇが?」
「……!? だ……出し忘れだよ」
リュクは両手のデジョングローブから猟銃を召喚する。
実体化した猟銃の重さに思わず体勢を崩すが、すぐに立ち直りアストラへと見せびらかすように猟銃を突き出した。
「そのざまだ……咄嗟に銃を出して撃つ技量も膂力も無い実力でありながら、敵地のど真ん中で武器を構えることもしねぇ。そんな戦いへの意識に欠けたやつの『足手まといにはならない』という言葉には何も説得力を感じねぇ。ましてやガキの身分でだ」
「うっ……」
幼いリュクの心を抉るかのように容赦無い駄目だしを浴びせるアストラに、サジンを除いたその場の面子は引き気味な視線を浴びせる。
意気が消沈したリュクの様子を感じ取ったアストラは覇気を静め、目線を合わせ柔い声色で語りかける。
「憎くて邪険に扱っているわけじゃねぇ……ヤム一派は女子供も容赦なく傷つけ、誑かし、利用する。そんな輩との戦いにお前さんのような未来ある命を巻き込みたかねぇんだ」
「じゃあなんで……このグローブの使い方と戦い方を教えてくれたのさ」
「目立つ猟銃の収納手段を与えただけのことだ。それにあれはあくまで護身用……俺やアグがどうしてもお前さんを守れない時の保険に教えただけだ」
「……」
リュクは視線を下に逸らしてすっかりと黙り込んでしまった。
「悪いがサジンさんよ……こいつらの引率を頼まれちゃくれねぇか」
「そうしたいのは山々だが……少し難しいでござるな」
「?」
「あれを……」
サジンが指し示した戻り道の小脇には視認できるだけでも3体の魔物が潜んでおり、目に見えない伏兵を考慮せずに押し通すものならば、不利な混戦は避けられないことが確実であった。
「逃がす気はねぇってか……待ち伏せするたぁ気味が悪いほどに知性を感じやがるな」
「全員で行けば何とかならねぇか?」
「狭い路地で伏兵を考慮せずに戦えば事故が起こりかねねぇ……それになるべく街は破壊したくない。おびき寄せて先にある広場で応戦するぞ」
「……! なら一緒に戦って……」
「ちっ……俺の側を離れずに、リュクとイザナは援護射撃で支援しろ……いいな?」
「うん!」
「任せなさい」
安全な帰路の形成が難航な現状に、不本意ながらも戦闘の支援をアストラは許可する。
一行は速やかにかつ慎重に広場へと後退し、待ち伏せを狙っていた6体もの魔物達はそれを追いかけてゆく。
見晴らしの良く、戦闘による余波が街に広がりにくい絶好の場所を陣取った一行は後を追いかけてきた魔物達へと向き直り臨戦の構えを形成する。
「結構な数いやがったな、おびき寄せて正解だったか……」
「俺は子守と魔術での援護に徹する、アグとサジンさんは何とか前線で食い止めてくれ」
「背中は任せたまえ」
「御意……」
「蟻の子一匹通しゃしねぇぜ!!」
アグルナムの叫びを皮切りに二人は魔物の群れへと突撃する。
斧を振り回す派手な陽動にサジンの俊敏な動きが加わり、魔物の群れは数の有利がありながら攻めあぐねていた。
「援護するぞお前ら……光弾!」
「バチバチさせるぜい」
「私も……! 突貫の翅槍……!」
各々が魔術と魔導を展開し支援の意思を見せる中、リュクだけはどこか躊躇いを感じさせる佇まいであった。
(本当に人が魔物になっちゃったんだ……顔だけは変化していないから余計に……!)
「リュク……」
「!?」
「怖いならお姉さんの後ろに隠れている?」
「だ……誰が……!!」
イザナに発破をかけられたリュクは銃口を乱れ舞う戦場へと向けるが、その標準は誰の目にも見えるほど震えていた。
「そら!」
「雷途……!」
アストラの右手から放たれた球状の魔術が魔物の頭部へと命中して弾け飛び、イザナの電撃とルピナスが放った礫状の魔術により二体の魔物が動きを封じられる。
「上等ッ!」
その隙を逃さずアグルナムは手早く斧の一薙により動きを封じた魔物へととどめを刺す。
一連の流れでサジンも一体の魔物の急所へと刃を通し消滅させており、残る魔物は二体だけとなる。
「……っ」
対峙する魔物に残る人の面影に躊躇してしまったリュクは、向けた銃口から弾を放つことなく立呆けてしまっている。
口先だけで微塵も闘志を示すことができない不甲斐なさに思わず戦いから目を背けて頭上を見上げるが、その視界に捉えた対象に驚愕した。
「!? 上ッ!!」
「!!」
リュクの叫びに反応したアストラが頭上を見上げると、上空より2体の魔物がアストラとイザナに狙いを定めて、凶腕を振り降ろしながら奇襲を仕掛ける姿があった。
「ちっ!!」
「危ないッ!」
「!?」
「ひえっ!?」
アストラは生成した光弾を咄嗟に片側の魔物へと直撃させ撃退し、リュクはイザナへと飛びついて振り下ろされる凶腕から身を挺して救い出すことに成功する。
叩きつけられた凶腕により石床の破片が飛び散り、破片はリュクのふくらはぎを掠めて出血を催した。
「しっ!!」
『ッ!?』
着地した魔物へとアストラが右腕を振り抜き、振り抜いた右腕の軌跡をなぞるように魔物の首は肉体から分かたれ、残された半身は地に伏しマガルと化して霧散した。
「どらぁ!」
「破ッ!」
『ギャッ!!』
一方の前衛組は数の不利が無くなったことで正攻法を取れるようになり、個の実力で有利を取る二人は危なげなく魔物を倒し一行は魔物の群れによる戦いを乗り越えることに成功した。
「いっつぅ……大丈夫だったイザナ?」
「……うん」
「よいしょっと……痛っ」
大きく開いた瞳で自身を見つめるイザナを丁寧に起こすリュクであったが、飛びついた際に脚を痛めてしまったがために、体勢を崩してしまったところを駆け寄ったルピナスに支えられる。
「ありがとうお姉さん……」
「脚怪我しているよリュク君、治療してあげるね」
「うん……」
広場のベンチへとリュクを座らせてルピナスは愛女神の抱擁による止血と鎮痛を行う。
「偉いよリュク君、誰かを命がけで庇うなんて簡単にできることじゃないからね」
「へへ……」
「……はぁ」
褒められて赤面するリュクの様子を見たイザナは、見開いた瞳をジットりとした目つきへと変化させ、呆れたようにため息をついた。
「あれ? 何でリュクが治療を受けてんだ?」
「新手に奇襲されてな、イザナを庇ってあのざまだ」
「そうか……労ってやるか」
アグルナムは治療を受けるリュクへと寄っていき、リュクを褒める際の最大限の表現である頭頂部への平手置きを行ったことで、凄惨な現場に似つかわしくない一際眩しい笑顔をリュクは浮かべた。
「戦いに向いちゃいねぇな、技量も精神性も……子供だから当然か……」
その様子を見たアストラは髪の生え際をかき上げる仕草を行いながら、つぶやくようにリュクへの評価を吐露した。
―――――――――――
「はい、もう大丈夫だよ」
「わぁ全然痛くないや、治療魔術って凄いんだなぁ」
「……」
「……? どうしたんだルピナスさん……?」
治療を終えて神妙な面持ちを浮かべるルピナスにどこか嫌な予感を覚えたアグルナムは、気遣うような声色で心境を尋ねる。
「生存者……全く見当たらないですね……」
「これから見つかるって、辺境伯と夫人だってきっと生きているさ」
「…………」
「ルピナスさん……?」
不安を隠せない表情が不穏を更に増長させる。
ルピナスは強く目を閉じて深呼吸を行った後、カッと見開いた目をアグルナムへと向けて覚悟の言葉を告げる。
「勝手になりますが……私は屋敷へと参じます」
「え?」
「旦那様と奥様の安否を確認せずにはいられないのです……皆様方は街を狂わせた元凶に集中してくださいませ……私のことはお気になさらず! 失礼致します!」
「な……! おいッ!!」
言うや否やルピナスは全速力で魔物が潜む街を駆け出していった。
「こんな状況で一人で行動したら死んじゃうよ……!」
「意外と大胆……」
「ちっ……! 手間かけさせやがる……」
「俺が追いかけるッ! マスターは元凶を倒しに行ってくれ」
「待てアグ……!」
アストラの制止の言葉を耳に入れることなく、アグルナムはルピナスの後を追っていった。
「勝手ばかりしやがって……! リュクとイザナも離脱させなきゃいけねぇのに……!」
「まだそのつもりなの?」
「当たり前だッ! わりぃがサジンさん、この二人を連れて何とか脱出を……」
「マスター殿……新手にござる」
「なんだと……!?」
四方よりぞろぞろと魔物が広場に集い、目視できるだけでも10以上の数を確認できる群れを前に百戦錬磨のアストラも冷や汗を隠せずにいた。
「どれだけいやがるんだこいつら……!」
「これじゃあ帰るに帰れんのう」
「あわわ……」
「これだけの数は流石に厳しいでござるな……」
アグルナムを欠き、子供が大半の面々では確実に苦戦を強いられることが必至の戦いをどう切り抜けるかアストラとサジンは苦慮する。
「子供を守りながらどう戦うか考えている……大人は辛いのう」
「イザナ……?」
「しかしリュクはともかく……私を庇護の対象とする考えは改めさせねばなるまい」
苦慮する大人達を嘲笑うかのようにイザナは先頭に立ち、羽織の裏側に仕込んだ脇差しを二本、宙へと放って再び掴み、両腕を伸ばし切りながら交差させる構えを見せた。
「……!? 何してやがるイザナ!」
「ナルカミ一族の真髄、とくと見るが良い」
あからさまに雰囲気を違わせたイザナは、魔導により電気状に変質させたマガルを全身から放出し始めた。




