第21話・愛は死生を越えて
「……はっ!?」
暗がりの中目覚めたアグルナムは周囲を見渡し、両隣にリュクとアストラが寝静まっていることを確認する。
(そうか……イザナの魔導で気絶しちまったんだな……)
布団から離れ見知らぬ家屋を脱出したアグルナムは、月の光以外に明かりの無い集落の中で深く息を吸って胸へと手を当てる。
マガルの流れを感じ取れるようになったか確かめたが、昼の状況とあいも変わらず掴めずにいた。
「駄目だ……リュクが特別なだけか」
へたり込んで下を向くと、照らしつける月の光が鎖のペンダントに反射し一層輝いて存在を主張する。
そんなペンダントを見て、母親がアストラ以上の魔術士だったという話を思い出したアグルナムは、自身の出来の悪さに呆れて溜息をついた。
「出来の悪い息子でごめんな母さん……親父よりは強く無いし、母さんのように魔術も使えそうに無いや……こんなんでやって行けるかな……」
嘆きながら俯いて泣き言を呟くアグルナムであったが、そんな醜態に喝を入れるかのようにペンダントは白い輝きを纏って強い光を放った。
「なっ……!? なんだ……?」
強い光は徐々にアグルナムの目の前に形を成していき、それは女性を模した人型で固定される。
怪奇な現象に警戒するアグルナムであったが、白く光り続ける表情もわからない人型に、どこか懐かしさを覚えたアグルナムはその存在を受け入れる腹を決める。
それを察したかのように人型の光はアグルナムへと近づいて行き、しゃがみこんで目線を合わせると手はアグルナムの胸へと優しく触れる。
するとアグルナムは身体中に暖かなマガルが満たされていくのを感じ取った。
(凄いマガルだ……! 暖かくて力が満ちていくような……!)
手が胸から離れ、溢れんばかりのマガルに包まれたアグルナムはそのマガルを離さないようにと必死になって両手で抑えようとする。
それでもなお身体から多くのマガルが出て行ったが、温もり深い心臓に蓄積されたマガルだけは身体に留めたアグルナムはその心地良さに目を閉じ、その温もりを身体中に伝えようと全身に力を込み上げた。
「…………ッ!!」
その甲斐もあって全身へとマガルを行き渡らせることに成功したアグルナムは、達成感や温もりからくる高揚を空を見上げていなしてゆく。
気づけば白色のエネルギーが巡っている感覚を掴み取ったアグルナムは、試すかのように両腕へとマガルを集中させると、それは天にも昇っていくかのような勢いで巨大な光として現れ、闇夜を明るく照らしていた。
「すげぇ……無限に力が溢れていくみたいで……ちょっとこえぇな……」
強すぎる光に飲み込まれてしまうような錯覚を覚えたアグルナムは、溢れすぎた両腕のマガルを徐々に心臓へと収束させて正しく循環する状態へと戻す。
これからの戦いを勝ち抜いていけるであろう力を制御するに至ったアグルナムは表情に自信を取り戻しており、その手助けをしてくれた光に優しい笑顔を向けた。
「……見守ってくれているんだよなずっと……本当にありがとう」
表情の無いはずの人型の光が確かに微笑んでくれたことをアグルナムは感じ取り、その光は徐々に形を崩してペンダントへと収束して行きその姿を消した。
温もりを残すペンダントを左手に握りしめて、その暖かさを身に刻んだアグルナムは自信を含んだ顔を上げて寝床へと戻っていった。
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「ふあぁぁ……」
「おはようマスター」
「あ……? 早起きだなアグ……というか身体は大丈夫なのか?」
「ああすっかりな、むしろ色々と吹っ切れた気分だ」
「ふっ……そうか……んじゃショック療法の成果が出ているか見せて貰おうか?」
「これでいいかい?」
右腕に溢れんばかりのマガルを纏わせて、マガルの扱いの基礎を身に着けたことを示したアグルナムにアストラは強く感心する。
「ほー、ここまでの成果が出るとはな……荒療治が功を成したんだなぁ……」
「いや……ビリビリは関係ないと思うぜ」
「じゃあ何であのざまだったお前さんが朝起きたらここまでのマガル操作を身に着けたってんだよ?」
「……愛の力、かな?」
「あ?」
「いや……何でもねぇ! それより俺とリュクがマガルを扱えるようになったからもうここに留まる理由はねぇだろ? 早いとこヒイズリの国へ行こうぜ!」
「ふっ……そうだな」
―――――――――――
コルティアの酒場で軽い朝食を取った四人は、身支度を整えて別れの挨拶をコルティアに告げる。
「ありがとうございましたコルティアさん、衣服もこんなに綺麗にしてくれて……」
「ええ似合っているわよ……ふふ」
「……服がダサいから笑いました?」
「いいえ……貴方、昨日とは見違えるくらい良い顔つきをしているから……思わず見とれちゃった」
「おいおいコルティア、こんなダンディなハンサムからわけぇ男に鞍替えか?」
「いつまでも靡いてくれない人なんか知りません。 ねぇ貴方……大事な人にでも夢で会えたのかしら?」
「……ええ、そんなところです」
「そう……今の貴方ならきっとやっていけるわ。 頑張ってね」
「はい……!!」
「んじゃ……行くか、元気でやれよコルティア」
「貴方達もね、長旅に幸あれ……」
「ばいばいお姉さん!」
「またパスタ食べさせてね」
希望を胸に抱いてアグルナム一行は旅の一歩を踏みしめる。
一行はヒイズリの国へと続く辺境領・パティフルを目指し、その歩みを進めるのであった。
次回から本格的な戦いの日々が訪れます。
果たしてアグルナム達の運命はどう動いていくのか、ご期待ください。




