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チェインブレイブ  作者: 南無三
勇者の決意
20/30

第20話・指導

ちょっとだけギャグ寄り

―――――――――――


「はぁー……美味しいパスタだったねイザナ」

「うん、また食べたい」


 食事を終えたアグルナム一行は店内にアストラを残し外で待機していた。


「それにしてもアグ兄……勘定と積もる話があるから外で待ってろってマスター言ってたけど、少し遅くない?」

「そうだな……」


 すでに外に出て10分以上は経過した状況に若干の疲労感を覚えた三人は、酒場の前で座り込んでアストラの戻りを待ち侘びた。


「持たせたなお前ら」

「おじおじ遅い……」

「おじおじ……まぁ良い……旅に必要なものを譲って貰ったから長旅の準備はバッチリだぜ」

「そんなものどこにもあるように見えないけど……」

「完全に無手なのにどこにそんなものあるんだ?」

「ふっ……良いもの見せてやるよ」


 アストラは見せつけるように黒のグローブを身に着けた左手を開手し、三人は意図を理解できず怪訝な顔で左手をマジマジと見つめることしかできずにいる。


 すると左手にマガルが集束しだし、それは徐々に紐で括られたサンドバッグのような形へと変化していき、ついには重量を伴った荷物袋へと実体化した。

 一部始終を見ていた三人はこれでもかと開眼して驚きを隠せない様子で、それを見たアストラはしたり顔で満悦した。


「え……なにこれ……? マガルが袋に変わった?」

「驚いたろ? タネはこいつさ……」


 アストラはグローブの手首部分に埋め込まれた青い鉱石のようなものを指差す。


「こいつはファード王国の技術の粋を詰め込んだ傑作でな……"次元牢(デジョン・ケージ)"っつうマガルで形成した異空間に物質を隔離する高位魔術を再現してくれる代物でよ。

 一握りの才能ある魔術士にしか扱えなかった高位魔術が、マガルを練り上げる基礎さえあれば誰でも扱えちまうんだ」

「す、すげぇ……大荷物を手ぶらで運べるなんて……」


「流石にこれ一つに隔離しておける質量には限度があるがな。 そこは数でカバーだ」

「両手分合わせて8つか……」

「随分大枚はたいたもんだぜ? まぁ流通の根本を揺るがしかねない代物だから惜しかねぇがな。

 まったく、いくらマガルへの研究意欲が高い文化があるとはいえこんな魔術士泣かせの発明を成功させるたぁ、大したもんだなファード王国は」


「そんな国と……大公は戦争しようとしている」

「マガルを用いた軍用兵器が大量配備された国とやり合おうものなら、まずただじゃすまねぇだろうな……」

「……」

「ま……それを食い止めるための旅だ、早ぇとこヤムを倒して大公の陰謀を阻止する。 それでハッピーエンドだ」

「あぁ……」


「スペアとして買っておいた余りをお前さんらにも分けてやる。 特にアグと少年の斧と銃は目立ちすぎるからこいつに閉まっておきな」


 アストラは左手から同形体のグローブを三足生成し、それを三人へと投げ渡す。

 受け取った三人は扱い方がわからずに、ただただグローブを凝視していた。


「なぁ……これどう使えば良いんだ?」

「閉まいたい物質に、マガルを薄皮一枚の厚さで纏わせてから鉱石に吸い込ませるイメージで纏わせたマガルを伝えるんだ」


 説明を行いつつ、先程取り出した荷物袋を白い光と化して異空間へと送り込み手本を見せたアストラであったが、説明を受けてもアグルナムとリュクは頭にハテナを浮かべたような何とも言えない表情を浮かべ立ち尽くしていた。


「……どうした、大して難しいことじゃねぇぞ」

「僕……マガルの使い方わからない……」

「あぁ……まぁ田舎暮らしの子供となると仕方ねぇか……」

「マスター……俺も……わかんねぇ……」


 その言葉を聞いたアストラは間の抜けたような真顔を浮かべてアグルナムを凝視する。

 感情を読み取れない表情に困惑したアグルナムは、黙って視線を返すことしかできず、リュクとイザナはそんな二人の様子をこれまた間の抜けた顔で見守っている。


 長い沈黙がその場に流れ変な空気が流れる状況を嘲笑うようにカラスが鳴き、それを皮切りにアストラはアグルナムへと近づいて行き、困惑するアグルナムの耳を摘み上げてかっぽじった耳元に怒気を含んだ叫びを浴びせた。


「いッ!?」

「てめぇアグッ!! わからねぇってなんだてめぇコラァッッ!!」

「だあぁだだだッ!? 何でそんな怒ってんだッ!?」

「ッたりまえだコラ、てめぇ小せぇ頃に俺が指導してやったってのにわからねぇわけねぇだろうがアァン!?」


「あぁぁだだだだッ!! そ……それはその……練習していたら親父に「そんなもの必要無いからお前は身体と技を鍛えまくれ」って怒られて、それ以来練習してないから忘れちまって……!」

「チィッ!!」

「あいっだァァッ!?」


 摘み上げた耳を乱暴に振り放され、アグルナムは痛む耳を手で抑えながらへたり込み、一部始終を見ていたリュクとイザナは恐怖でガタガタと身体を震わせて寄り添っている。


「あんの脳まで筋肉詰め込んだトンチキ野郎が……! 次会ったらいっぺんとっちめてやるッ……!!」

 

 こめかみに青筋を立て左手の拳を固めて、アストラは怒りを顕にする。

 足早に酒場へと歩を進め、再び戸を開けて入ってきたアストラに、コルティアは不思議そうな感情を含んだ顔で出迎えた。


「あら……忘れ物?」

「わりぃがコルティア……一晩だけ宿泊の場所をくれ、あの三人も泊まれるくらいのな」

「構わないけど……どうしたの?」

「特別講習が必要になっちまってな……今日一日はそれに当てる」

「そう、大変ね」


 交渉をスムーズに終えたアストラは足早に三人の元へと帰還する。

 重い怒気を纏ったアストラの様子に思わず気をつけの姿勢を取る三人に対し、アストラは迫力を含んだ低音の言葉をぶつける。


「これより魔術の師・マスターAによるマガルを自由自在に操る術を伝授する特別講習を行う……異論あるものは……?」

「ありませんッ!!」

「無いです……」

「何で私まで……?」


「いよぉぉっし……一生忘れられない素敵な一日にしてやるからありがたぁく受講したまえ諸君……この俺の授業をタダで受けられるのは運がいいぜぇ?

 まぁ……昔タダで受講させてやったのに……努力を怠りなおかつ忘れる不届き者がいるらしいけどなぁッ!?」


(((怖すぎる……)))


 余りの迫力に気圧された三人は流されるがまま、アストラによる特別講習を受ける羽目になる。

 罪悪感も重複するアグルナムは、リュクとイザナの身体よりも小さく見えるほど縮こまっていた。


「ではアグルナムくぅん……マガルとはどういったものか説明できるでしょーか?」

「えー……生命に蓄積される魔術の素になるエネルギーです……」

「60点〜正確には蓄積されるだけでなく、常に体内を血液のように循環し続ける、魔術の素になるだけでなく身体能力の向上にも役立つ白色の万能エネルギーだ。

 勉強も足りないようですね〜アグルナムくぅん?」


((大人げない……))


 ネチネチと言葉責めを受けて更に萎んでいくアグルナムに、リュクとイザナは同情の視線と感情を向けていた。


「この血液のように循環するマガルを自由自在に操ることができれば、特定の肉体部位に集中させて機能を爆発的に高めることもできる……。 こんなふうになッ!」

「ッ!? 速……」

「うわ……! 砂が目に入って痛い!」


 マガルを脚部に集中させてアグルナムの背後へと一瞬で回り込む速度をアストラは見せつける。

 巻き上げられた砂埃の規模が尋常ではない脚力を証明しており、マガルの可能性を痛感したアグルナムは冷や汗をかいて唾を飲み込んだ。


「魔術は才能がいる高等技術故に無理に扱おうとしなくても結構だが、マガル操作の基礎くらいは身に着けて貰わなくちゃ話にならねぇ。 今日一日で必ず修得して貰うぜ」

「一日で……!?」

「俺の指導なら可能だ……みっちり仕込んでやるぜ!」


 マガル操作の訓練を行うために集落の近くにある森林へと四人は場所を移した。


「まずは体内で循環するマガルの流れの感覚を掴み取ることが大事になる。 それには心臓の鼓動を聴くことが一番だ」

「心臓の鼓動?」

「血液が心臓の働きで全身に流れていくように、マガルもまた心臓を中心に全身を循環する習性がある。 目を瞑って胸に手を当てて、心臓の鼓動とそれに伴う肉体を流動する白色のマガルを感じ取れるようにするんだ」


 言われるや否やアグルナムとリュクは目を瞑って自身の胸に手を当てマガルの流れを感じ取ろうと試みる。

 そんな二人とは対象的に、イザナは立ち尽くす姿勢のまま青いマガルを両手から軽く放出した。


「ふっ……!」

「お……!? そいつぁ魔導か嬢ちゃん……」

「うん、"雷狐(らいこ)"って言うの」

「その年で魔導を扱えるたぁ……いや、ヒイズリ出身なら無くもねぇか……」


「ヒイズリと魔導って何か関係があるのか?」

「ヒイズリの国は古くからマガルを使役することに並々ならぬ熱意を注ぐ文化を持つ国でな……魔術を多く輩出しただけでなく、リスクの高い魔導を一族単位で安定した運用を可能にする術を長年かけて確立した国だ。 お前さんの母さんも俺以上に優秀な魔術士だったんだぜ」


「そうだったのか……」

「お前さんが真面目にマガルを扱う努力をしてりゃ、父親のフィジカルと母親の魔術の才をハイブリッドしたとんでもねぇ怪物になれたかも知れねぇのによお。 まったく惜しいことだぜ……」

「うっ……」


「ま……過ぎたことはしゃーねぇ、その身体でマガルを使役できるだけでも相当な戦力になる。 とりあえずマガルを扱える嬢ちゃんは少年を助けてやってくれ」

「ムフフ……リュク、私が手取り足取り教えてあげよう」

「ちょ……イザナ、くすぐったいから……!」


 イザナは背後から胸を抑える腕や首に腕を巻き付け、リュクは視界が塞がれている状況も相まって鋭敏にこそばゆさを感じてしまい逆に集中ができない状況に陥った。


「うーん……全然感じ取れねぇ……」

「集中するんだアグ、心臓を中心に巡る白いエネルギーを掴み取るんだ」

「つってもよぉ……」

「はぁ……仕方ねぇか」


 アストラはアグルナムの右肩へ左手を置き、その左手にマガルを纏わせてアグルナムの身体へと伝えて行く。


「わかるかアグ? 身体に白いエネルギーが巡っていくのが……」

「……あっ! わかるぜマスター……閉じた視界にも光が刺したような……」

「この感覚を自力で掴めるようになるまではアシストしてやる、あんまり褒められた行為じゃねぇが……時間はかけたく無いんでな」


「ほほぅ……」


 アグルナムをアシストするアストラの様子を見て、良いことを思いついたと言わんばかりの笑顔を作るイザナに、リュクは目を閉じながらも何か嫌な予感を抱えていた。


「あ、あのーイザナ? どうしたの……?」

「苦悩する凡夫に私が救いの手を差し伸べようと言うのだよリュク」

「えーと……具体的にどんな風に?」

「こうするのだ」


 イザナはおもむろに両腕から雷撃を放ち、それをリュクの身体へと流し込んだ。


「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃッ!?」

「んなッ……!?」

「え? どうしたんだリュク……おわーッ!?」


 身体からバチバチと音を鳴らし、白目を剥いてぐったりしたリュクを倒れないように優しくイザナが抱える。

 狂気の現場を目撃した二人はあんぐりと口を大きく開き、現行犯である少女に驚愕していた。


「な……なにやってんだイザナー!?」

「おじおじの真似」

「いやいやいや、魔導で変質したマガル流し込んでも意味ねぇっての! 下手したら死ぬぞッ!」

「死なないように努力はした」

「「そういう問題じゃねー!!」」


「ひ……酷いよイザナ……」

「リュク……マガル、感じ取れた?」

「感じ取れるわけ……あれ?」


 リュクは体勢を立て直して再びマガルを感じ取るために胸に手を置くと、目をつぶらずとも全身に流れる白色のマガルを感じ取ることができるようになっており、それだけではなくそのマガルを手繰り両手に纏わせる芸当まで披露した。


「や……やったやった! できたよイザナー!」

「やったやった、やればできる子」


 リュクとイザナは両手を繋いで踊ることで喜びを分かち合う。

 今までの常識では信じられない現象を目撃したアストラは地に顎がつく勢いで更に口を大きく開いていた。


「し……信じらんねぇ……どういった原理だ? ショック療法ってやつか……?」

「……」


 アグルナムはリュクが電撃を受けてマガルの感覚を掴んだ現象を自身にも適用できないかと考え、イザナへと懇願しに行く。


「イザナ……俺にもそれ、やってくれよ!」

「アグッ!? 危険すぎる、やめるんだッ!」

「時間かけらんねぇんだろマスター? ならやってみる価値はあるぜ!」


「そこまでの覚悟かアグアグ……よーし、とびっきりのビリビリを流し込んであげよう」

「頼むぜイザナ!! 思いっきりやってくれよな!」


 先程とは比較にならない質の電撃を両腕に纏わせて背後からゆっくりとあぐらをかくアグルナムへと近づいて行くイザナ。

 そのマガルの量にとてつもなく嫌な予感を感じたアストラは迫真の顔つきで制止を試みる叫びを上げる。


「待てイザナッ!! その量は死ぬ…………」

(しょっく)……!」


 叫びはギリギリで届かずに、両腕は背中へと押し付けらる。

 途端に電撃がアグルナムの全身を包み込み、周囲に拡散していくほどの電撃を浴びせられたアグルナムは目をかっ開いて遠くまでこだましていくほどの叫び声を上げた。


「ダアアァァァァァァァァァッッッッ!!?!?」

「アグゥゥゥッ!!?」

「アグ兄ー!?」


 真っ黒に焦げたアグルナムは口から煙を焚きながら、こてんとあぐらをかいた姿勢のまま真横に倒れてしまう。

 

「……やりすぎてしまった」

「アグ兄ー! だいじょうぶ!?」

「ぜ……前途多難だな……本当に……」


 ままならない勇者の息子の醜態に、アストラはこれからの旅の行く末が少し不安になったのであった。

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