第18話・大公の懐刀
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「……以上がナビリアの駐在部隊による報告となります陛下」
アグルナム一行がアストラの助力により危機を切り抜けた報告をベルヴェム公国大公・レウォルは玉座に肘をかけた尊大な態度で、膝まで伸びた美しい長髪が特徴的な女性から受けていた。
「そうか……」
「……陛下、不躾ですが一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
「申せ」
「光栄の至り……何故陛下はあの赤髪の青年にそこまでの熱を注ぐのでありましょうか? 偽旗の人員ならば例の魔導士に要求すればいくらでも用意できるはずでありますのに……」
「支援者の意向だ……余の考えに非ず」
「……?」
「如何に余が大成の器足りうる存在と言えど、野望を成すには戦力が必要だ……その提供を約束したスポンサーの機嫌取りに過ぎん」
大公は玉座から立ち上がり長机に展開されたサングワトア大陸の地図を見下ろし、中央に位置する霊峰へとナイフを突き立てた。
「余は必ず成し遂げる……"サングワトア大陸統一"という後世にまで残る偉業をな……」
「陛下ならば必ずや成し遂げられます……英雄・アウルのように強く気高い貴方ならば……」
女性の発言を聞いたレウォルは無手であったはずの右手から、創造するかのように長剣を取り出し、その切っ先を女性の首へと突き立てた。
「……ッ!?」
「ベルヴェム物語の主人公アウル……大乱のベルヴェム公国を下級貴族の身で平定に導いた大英雄……だが余に言わせれば空想の世界の中心でありながら小さき国一つ平定することしかできなかった小物よ。
そのような小さき器の男を余と同一視するとは……容認できぬぞ」
「……申し訳ございません陛下、この大罪我が首で償えるのであれば……」
「罪の意識があるのならば良い、重々心に留めよ」
「ありがたき幸せ……」
切っ先を下げた剣は光のように消え去ってゆき、それに合わせて深々と頭を下げた女性は続けて意見を言い放つ。
「しかし陛下……戦力が必要とはいえ得体の知れぬ魔導士の力に頼っていてはいずれ足元を掬われるやもしれません……不必要な労を陛下に命ずる無礼者など……」
「何も全てを受け入れてやるつもりは無い、余も余とて秘密裏に動いておる」
「それはどういう……?」
「お前には紹介しておこう」
レウォルが右手の指を弾き甲高く鳴らすと、裏手の扉や天井裏からの着地、はたまた窓を突き破りながら玉座の間に集う三人の男女が推参した。
「なッ……!?」
「普通に入ってこられぬのか貴様らは」
「私は裏手から普通に入って来ましたが……」
「密偵の身ゆえ……許されよ大公」
「アタシからしたらまだまだ派手に参上できるんだけど? 窓からなんてありきたり〜って感じ」
左から体格に優れる大男、紺色の装束に身を包んだ怪しげな男、全体的に肌の露出とボディペイントが目立つ派手な若い女性が居並び、どの人物も強者の気を存分に放っていた。
「陛下……この者達は……」
「大陸に目を光らせ余の眼鏡に適った強者共……左からガルタン、ケッショウマル、リタだ」
「レウォルちゃんさ〜アタシのことはリタちゃんってちゃん付けで呼ぶようにって言ったじゃーん?」
「なッ……! 陛下に対し何と無礼な口を……」
「良い」
レウォルは絢爛なマントを右腕でたなびかせて、玉座へと再び腰をかける。
四人が居並んだ光景にレウォルは軽く笑みを浮かべた。
「余の眼鏡に適った三人……そして余の側近たるイヴシルを加えた貴様ら四人こそが、我が大陸統一の切り札となる」
「……!」
「へーあんた戦えるんだ? 書類仕事一筋ですみたいな堅物面しているのに」
リタの言葉に対し、長髪の女性イヴシルはムッとした表情を返し場の空気が重くなるのを感じたガルタンは冷や汗を浮かべていた。
「貴様ら四人はいずれ決別する魔導士への戦力としても期待している。
そうだな……余が直々に肩書でも用意してくれよう……貴様らはこれより【レウォル四傑衆】を名乗るが良い」
「御意……」
「うっはーだっせー」
「……無礼なッ」
「ははは……まぁ仲良くやりましょうや」
「共に登り詰めようぞ……大陸の頂へとな」
アグルナム一行が脚を止めている一方、大公の陰謀は徐々にサングワトア大陸を混沌へと蝕もうとしているのであった。
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