第17話・魔術の師・マスターA
「よっとぉ……」
「ッ!?」
「何だ? あの男は!?」
大仰な衣服をたなびかせながら、公国軍の輪を飛び越えて三人の元へと男は降り立つ。
リュクとイザナはわけもわからず目を見開いていたが、アグルナムはその男の姿に確かな見覚えがあった。
「誰……?」
「あなたは……アストラさん……!?」
「マスターA……と呼ぶようにと教えたはずだぜアグ」
細身な顔立ちに、きっちりと整いつつも前髪を一本跳ねさせた青色のオールバックが映える二枚目風の男が、自身の父・デアンの親友であるアストラ・アドワルドであることをアグルナムは瞬時に理解する。
「なんで……」
「話は後だ……今は颯爽と現れたヒーローが危機を乗り越える場面だぜ」
アストラの右手から白色の球体が出現し、周囲の公国軍は攻撃の意思ありと見てその球体への警戒を怠らぬよう身構える。
「お前ら……目、瞑ってろ」
「……?」
指示を受けて目を閉じた三人を確認したアストラは、口角を上げて球体へと更にマガルを集中させて肥大させてゆく。
遂には拳4つ分はある球体へと肥大し、とてつもない威力が秘められた魔術だと察知した公国軍は目を逸らさぬよう防御姿勢を取った。
「"虚陽"!!」
アストラが言葉を放った直後、マガルで形成された球体が激しく輝き出し、その閃光が辺り一帯を駆け抜けていく。
球体を凝視していた公国軍の面々は視界を光で焼かれてしまい、背を丸めて目を開けられない苦しみの叫びを上げた。
「くあぁぁぁッ!? 目がぁッ!!」
「な……何が起きているんだ!?」
「もう眼ぇ開けていいぞ」
「これは……」
眼を開けた三人は公国軍がうずくまって苦しむ理由を理解できず、呆けた表情でその様子を眺める。
それに対し喝を入れるかのように、アストラは人差し指と中指をくっつけた指先を門へと向けて言葉をかける。
「もたもたしているな、出口まで突っ走るぞ」
「あ、あぁ……でもいくらあの状態とはいえ、密集しすぎて通れそうにないぜ……!」
「道は俺が作る、いいから走んな」
「……わかった、行くぜ二人とも!」
「うん!」
「うむ」
四人は一斉に門へと走り出し、アストラは走りながら両手へとマガルを集中させてその両手を平手で合わせた。
「"風女神の追放宣告"!!」
合わせた両手を地へと下ろし、蓄積された多大なマガルは一直線に門に集う兵士達の足元へと向かって行き、白い円を描く。
「う、うわあぁぁぁッッ!?」
「うわ!?なにあれ、兵隊さん達が吹き飛ばされた!!」
白い円の中心から凄まじい突風が吹き荒れ、兵士達は大きく吹き飛ばされ、門は四人を祝福するかのような誰も邪魔することがない希望への道に変化した。
「流石だな……!」
「当然だ……俺は魔術の師・マスターAだぜ」
「くそッ……!絶対に逃さんぞ刺客共ッ!!」
全員門を抜け後は振り切るだけとなったが、視界を取り戻した兵士達が逃がすまいと血走った眼を浮かべながら全力で追走する。
「熱心なエキストラ達には悪いが……幕引きだぜ!」
向き直りながら右手にマガルを集束させたアストラは、勢いよくそのマガルを地面へと投げつける。
「恋路を分かつ絶壁!」
虎爪を象った左手を突き出し素早く肘を90度曲げると、投げつけたマガルが隆起し、真横に広く展開された白色の壁となる。
視界と道を完全に防がれた兵士達は何とかその壁を壊そうと躍起になるが、壁は傷一つ付く気配も無くそびえ立っていた。
「ハッピーエンドだ……あばよ」
左手の人差し指と中指をくっつけた指先を自身のこめかみへと置き、その指先を振り切るように壁の先にいる兵士達へと飛ばし、向き直ったアストラは三人の後を追った。
それから街を脱出して10分以上走り続けた一行は、リュクが披露で立ち止まったのをきっかけに他の三人も脚を止めて周りを確認する。
壁による足止めが功を成したおかげか、追撃の気配が無いことを三人は確信した。
「はぁ……はぁ……心臓が痛い……」
「リュク、体力よわよわ」
「イザナが……体力……つきすぎな……ハァ……だけだよ……」
「ハァ……追撃は……来てねぇな……」
「あんな連中に壊される強度で作った魔術じゃ無いんでな、まず見失っただろう」
イザナと同じく息を切らさずに冷静さを保つアストラに対し、アグルナムは温まった身体が焚きつけた心の緊張が解けない内に質問を投げつけた。
「マスター……何であんなところに……」
「そうだな……強いていえばお前さんを探していた旅の途中ってところだった」
「お……俺を……?」
「アグ兄の知り合い?」
「このインチキ臭いおじさん知り合いなのアグアグ?」
アストラは眉間に若干皺を寄せ、リュクとイザナへ一瞬視線を向けた後、アグルナムへと視線を戻す。
「随分波乱な人生を歩んでいるなアグよ、村を離れて保育士になっているなんてよ」
「は?」
「だが躾がなっちゃいねぇな……初対面のハンサムに対してインチキ臭いおじさんとのたまう子供に育っちまってるぜ」
「いや……保育士にはなってねぇけど……」
「そうか、見知らぬ子供を二人も連れてるもんだから勘違いしちまったぜ」
「意味がわからないことを話す……やっぱりインチキおじさんだ」
「おぉい嬢ちゃん? こんなハンサム掴まえてインチキおじさんはねぇだろう? 無知なお嬢さんのために自己紹介してやらねぇとな」
アストラはサングラスを外してシャープな眼を顕にさせ、イザナとリュクに目線を合わせるように屈んだ。
「何を隠そう……大陸中の魔術を知り尽くし、使いこなすだけでなく数多もの魔術士の卵を育て上げた……魔術の師・マスターAとは俺のことよ」
「ふぅん……」
「ふーん」
心底興味がありませんと言いたげな表情と反応を返した二人にアストラは苛立ちがこみ上げ、こめかみに青筋を立てていた。
「……ふっ、まぁガキにゃ俺の偉大さはわからねぇか……」
「ホラ吹きインチキおじさんということはわかった」
「誰がホラ吹きだコラッ!? さっき高位の魔術を披露してやったばっかりだろうが!!」
「マスター……大人げないからやめなって」
怒るアストラの両脇を抑えつけてアグルナムはなだめつける。
「……いけねぇな……レディに怒るなんざ紳士の風上にもおけねぇぜ」
「イザナもあまり煽るような発言は控えような……」
「うむ」
「そんなことよりさ……何で俺を探していたんだ?」
「話をすると長くなるな……こんなところで立ち話もなんだ、落ち着く場所で話し合おうじゃねぇか、付いてきな」
「あぁ……」
舗装されていない道を先導するアストラへ三人は続いてゆく。
アグルナムの運命は大きく動き出そうとしていた。




