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チェインブレイブ  作者: 南無三
平穏は突如終わりを告げて
16/30

第16話・咎背負わされし者

「ふあ〜ぁ……疲れも痛みもあんま取れねぇな……」


 早起きの習慣が付いていたアグルナムはまだ少し暗がりを残す空模様な時間帯に目を覚まし、傷が痛む身体を少しでも誤魔化そうと荷造りを始める。


(……血で汚れたとはいえ親父に貰ったものを捨てるのは申し訳ないな……洗えば汚れも落ちるかもしれないし)


 荷袋に詰めていた服とマントの処理を一瞬考えたが、なんやかんやと気に入っているものを捨てるのは偲びないと感じたアグルナムは、少しでも嵩張らないように服とマントを折り畳んで荷袋に詰め直す。


(あの事件からすでに二日……濡れ衣を着せられて勢いで逃げてしまったけど……素直に捕まって弁解すれば誤解だってわかって貰えたんじゃないか……? 俺はあの場から逃げるべきじゃ無かったんじゃないか? 軍の人を思いっきり殴ってしまったからもう弁解はできないかも……もしかしたらもう指名手配されて……)


 自身の選択に強い後悔が生まれつつあるアグルナムは神妙な面持ちで、ベッドに腰をかけて自身の顔を両手で覆い思案する。


「……二人を村に届けたら自首しよう。

 誤解は解かなきゃだし、殴ってしまった罪は償わないとな……イザナの仲間はどうするか……」

 

 悲壮の覚悟を決めたアグルナムは、その覚悟を確固たるものにしようと気合いを入れるために、水場で顔を洗いに行こうと部屋のドアへと手をかける。

 するとリュクとイザナが宿泊する隣の部屋から声が響いた。


「うびゃあぁぁぁ!?」

「!? リュクッ……!! 何があった!?」


 声が響いた部屋へとアグルナムは駆けつける。

 扉には鍵がかかっておらず、アグルナムはドアノブへと手をかけ勢い良く扉を開いた。


「だいじょうぶかッ!?」

「あ……おはようアグアグ」

「…………」

「ど……どういう状況だ……?」


 部屋の中にはベッドの上で着物を羽織らない薄着の格好で座るイザナと、仰向けの体勢で痙攣しているリュクの姿があった。


「寝起きについうっかりビリビリしたら、リュクに被害が及んでしまったのであった」

「……とりあえずリュクに謝っておけよ」

「うん……リュク御免」

「アグ兄……次部屋を取る時はイザナとは別部屋にしてね……」

「ああ……」

「なぬぅ」

 

 早朝から慌ただしい目にあったリュクに同情するのと同時に、イザナの恐ろしさを認識したアグルナムはなるべくイザナの機嫌を損なわないようにしようと心に刻みつけた。


「……とりあえず朝には街を出るからしっかり準備しておけよ」

「ご飯は食べていくの?」

「……おかわりは控えめにな」

「うん」


――――――――――――――――


 衣服を整え、チェックアウトを終えたアグルナムは雲一つ無い青空の下で地図を広げて次に目指すべき地へと目処をつける。


「現在地がナビリアの街だから……ユヴァージュ村まではあと二日もあれば辿り着けそうだな、今日はハンナテオンを目標にしよう」

「うん」

「そうだ二人とも……ユヴァージュ村に着いて暫くしたら……俺は公国に自首しにいくよ」

「え!?」

「自首……何か悪いことしたのアグアグ?」


 どこか哀れみを含んだような見上げた視線をイザナはアグルナムへと向ける。


「村が襲われたって話をしただろ? その時別件で呼ばれた公国軍の人達に、俺が犯人だって疑われちまってな……弁解してくれたリュクが足蹴にされて、カッとなった勢いで軍の人を殴って逃げちまったんだ……」

「…………」

「きっと今頃指名手配されちまってる……村の件は誤解だとしても公務中の軍人を殴るのは間違いなく犯罪だしな……自分のためにもしっかり罪を償ってくるよ」

「……何でリュクは蹴られたの?」

「え?」


「どう見てもただの村の子供なリュクが、何で庇っただけで蹴られたのかなって……一緒にいたアグアグを犯人だって決めつけるのも不自然、普通は話を聞く」

「……きっと冷静じゃなかったんだよ、本当に村の様子は酷かったからな……返り血に濡れた俺が疑われるのもしょうがないさ、リュクも今みたいに背に猟銃背負っていたしな」


「……自首しない方が良いと思う、絶対碌な目に合わない」

「そうはいかないって……しっかり二人を村で保護してもらったらケジメをつけに行くさ。

 イザナの仲間の件は、親父や村の人に託すことになっちゃうけど……」

「…………」

「アグ兄……」

「辛気臭い雰囲気になるなって、とりあえずは腹ごしらえして英気を養おうぜ」


 悲しげな表情を浮かべる二人を励ますように、重苦しい心情に鞭を打ってアグルナムは笑顔を浮かべる。


 そんなどこかぎこちない三人に、五人の公国軍が剣を抜いて迫った。


「そこの赤髪……両手を上げろッ!!」

「ッ!? 公国軍……」

「やはりだ……本国から送られてきた映像の男だ!」

(やはり……指名手配されていたか……!)


 怒声を受けて素直に両手を上げたアグルナムの背にリュクが隠れ、イザナはどこ吹く風のようにアグルナムの前に立ち公国軍へ澄ました視線を向けていた。


「……ザム村の件ですよね、軍の人を殴って逃げてしまったことは本当に申し訳無いと思っています……でも村を襲ったのは俺では無いんです!」

「そ、そうだよ!僕達は被害者なんだ!」

「喋るな!! ファード王国の手先がッ!!」


「……は? 今なんて……」

「しらを切るなよ……調べはついているんだ、貴様とその子供がファード王国の手先であることはなッ!!」

「ええ!? 何の話!?」

「そうだったのリュク?」

「違うよッ!!」


 あまりにも想定外の言葉を受けたアグルナムとリュクは、反論の意思を示すように公国軍へと一歩近づく。


「待ってください!! 言っている意味がわからない……俺達がファード王国の刺客なんて何かの間違いです!!」

「そうだよ! 僕は生粋のザム村産まれザム村育ちなのに! ファード王国なんて行ったことも無いよ!」


「調べはついていると言っているッ!! 言い訳は牢でほざくんだな!! 捕らえろッ!!」

(マズイ……!!話が大きくなりすぎている……捕まったらリュクまで罪人にされてしまう!!)


 これ以上国に逆らうことは自分の首を締め付ける行為にしかならないと理解しつつも、あらぬ疑いをリュクにまでかけられてしまった現在の状況を打破しなければならないと、半ば自暴自棄気味に交戦の決意をアグルナムは固める。


 そんなアグルナムの前に立つイザナは、迫りくる公国軍の面々を制するかのように両手を前に突き出した。


「イザナ……?」

「"散雷手(さんらいず)"……」


「ぎぎゃああぁぁぁぁッ!!?」

「んなッ……!?」


 突き出した両手から広範囲の雷が放出され、公国軍は全員その雷を浴びて感電してしまう。

 蒼い稲光は3秒ほど放出された後、身体からバチバチという音を鳴らしながら、五人の公国軍は地に伏した。

 そんな光景を見た通りすがりの婦人が声を荒げた。


「き……きゃあぁぁぁぁ!?誰かぁ!!!」


「逃げよ……早く」

「えっ……ま、待てよイザナ!!」

「……死んでないよね? この人達……」


 小さな身体に似合わずかなりの俊足で先導するイザナをアグルナムとリュクは何とか追いかけていく。


「ぐッ……!くそぉ……身体が痺れるッ……援軍を……援軍を門に……!!」


 身体を痺れさせながらも、左手にマガルを集束させて天高く撃ち放つ。

 放たれたマガルは宙で破裂し、街に壮大な音を響かせた。

 その音を察知した街の駐在部隊は一斉に街の出口にある門へと脚を急がせた。


「イザナ!! 何てことを!! もう弁解できないよこれ!!」

「捕まったら多分生きて牢を出れないよリュク、むしろ感謝したまえ」

「するかー!!」

「口より脚を動かす、もうすぐ出口」


(捕まったら生きて牢を出れない、か……何となくそんな気がしてきたぜ……)


 完全に国に逆らった逃亡者となってしまったアグルナム一行。

 そんな彼らの暗い明日を紡ぐ希望の門へと近づいて来たが、その道を断つかのように前からぞろぞろと公国軍が集結する。


「ぐッ……!門側は駄目か……数が多すぎる!」

「う、後ろからもいっぱい来ているよ!!」


 背後からは20を超えるであろう駐在部隊が迫りくる。

 完全に逃げ場を無くして立ち尽くしてしまった三人は前門の虎、後門の狼を前に背中を合わせて身構えた。


「イ、イザナぁ……さっきのビリビリで門側の兵隊さんだけでも何とかならない?」

「……さっきのでお腹空いちゃった」

「年貢の……納め時か……!!」


 立ち往生する三人に向かって公国軍は武器を構えてジリジリとにじり寄る。


 そんな絶体絶命の状況に陥った三人を、サングラスをかけた男が遠目から見定めていた。


「やれやれ……前途多難だな、勇者の息子さんよぉ」


 男は呆れつつもニヒルな笑いを浮かべながら三人の元へと駆け出し、高く空を駆った。

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