第15話・ビリビリイザナ
「ファード王国の刺客……なるほどそういうことか……」
大公の言葉を聞いて自身の仮説に肉付けを施されたレインは、納得しつつも眉間に深い皺を寄せて話の続きに耳を傾ける。
『これは勇敢なるベルヴェムの兵士達が命をかけて刺客を倒してくれた成果で判明した真実である。
これが意味するところは何か!! 単純明快!! 我らのベルヴェム公国はファード王国の侵略の脅威に曝されているということだッ!!』
「大公は……何を言っているんだ……!?」
「…………」
言葉の意味は理解しつつも、それを受け入れたくないエルクとセラは引き攣った表情を浮かべていた。
『このサングワトア大陸の平和を蔑ろにするファード王国の蛮行を許せば、我々の幸福は一瞬にして失われるであろう!! 余は先代大公である父がもたらした、ベルヴェムの平穏を守る義務があるッ!!
民よッ!! おのが愛する者をッ!! 平穏をッ!! 明日を守るためにッ!! ファード王国の蛮行を誅す覚悟を持つのならばッ!! 武器を手に取り余の元へ参じよッ!! 余と共にファード王国へ正義の剣を突き立てるのだッ!!!』
「そこまでして戦がしたいか……レウォル大公ッ……!!」
「レイン隊長ッ……!」
「全て茶番だ……!! ザム村は……偽りの大義に利用されたんだッ……!!」
怒りの表情を浮かべるレインは左腕で机を殴打し、偽りの大義を掲げる大公への嫌悪をあらわにする。
「ど……どういうことなんですか!?」
「恐らく報告にあった黒衣の集団は大公が何らかの手段で用意した偽旗の部隊だ……黒衣の下にはファード王国の装備でも着せているのだろう。
本来は向かわせた勇の盾部隊にその偽旗部隊を生け捕りさせて偽の証言をさせることでファード王国への敵対理由をでっち上げる計画だったが、その部隊を赤髪の青年が倒してしまい止むなくその青年に罪を被せることにしたのだろう……」
「そんな……!」
「……アグが危ない! 捕まったら何をされるか……!」
「指名手配された以上は国内の軍や警察組織に追われる身になる……まず逃げられない……」
「何とか……ならないんですか!?」
「……すまないが私ではどうにもしてやることはできない。
彼が無実だという証拠も無いし、あったとしても国のトップが推し進める陰謀に口出ししようものならただではすまされない……さっきも言ったが君達も青年の知り合いだとは公言するなよ、大公にどんな目に合わされるかわかったものじゃないぞ……」
「ぐッ……!! アグッ……!!」
「……」
親友が陰謀の犠牲となり避けられぬ破滅の運目を課せられているのに、何もできない自分達の無力さに二人はただ歯噛みするしか無かった。
そんな二人の悲しみと自身に課せられた罪を知る由もなく、アグルナム一行はユヴァージュ村への道中で見つけた中規模な街の大衆食堂で食事を行っていた。
「ムグムグ……」
「……よく食うなイザナ」
「パスタをこんなに巻いて食べる人初めて見るよ……」
アグルナムとリュクが皿一枚のパスタを半分以上食した中、イザナは皿三枚目のパスタを自身の拳の1.5倍以上もの太さまで巻いて、小さな口を限界まで開き頬張るように噛み砕いている。
膨らんだ両頬が萎んでいくまでに10秒もかかることなく、イザナは異国の味を食道へと流し込んだ。
「美味なり、おかわりー」
「待てイザナ……! 流石に資金に余裕が無くなる……!」
「…………」
「刺すような目をしても駄目だ……!」
「…………」
「ッ!?だ、駄目だよこれは僕の!」
「…………」
イザナは小さな口を三角形に尖らせて美味の要求を行う。
道中の宿代も考慮するとこれ以上の出費は望ましくないと判断したアグルナムは苦渋の決断を下した。
「しょうがない……俺のパスタをやるよ」
「……いいの?」
「いいよ……昨日は色々あってあんま食欲が出ないしな……」
「ありがとうアグアグ……いただきます」
イザナはお礼を言うや否や、半分にまで減ったパスタを全てフォークで巻き取り、再びリスのように頬張って噛み砕いている。
人からの貰い物であることを感謝するように、先程よりも味わうように緩慢に咀嚼しているようだった。
「だいじょうぶなの?アグ兄……」
「だいじょうぶさ……リュクもしっかり食べて体力つけておけよ」
「うん……」
「ごちそう様でした」
「早っ!? ……ん?」
会釈するイザナの両手から蒼い稲光のようなものがバチバチと音を立てて発生していたことを目撃したアグルナムとリュクは、目を丸めてその現象を疑った。
「イザナ……何それ?」
「食後の儀式」
「いやそうじゃなくて……何だその……バチバチは?」
「…………」
アグルナムの指摘を受けて右手の人差し指をリュクへと向けたイザナは、その先端から細い稲光をリュクへと放った。
「うびゃびびびびッ!?」
「!?」
「ふふ……良い声」
稲光がリュクの全身を痺れさせ、堪らず声を上げたリュクに対し食堂の視線が一斉に集中する。
「このように……ナルカミ一族は魔導・"雷狐"でビリビリを出して感電させることができるのだ、まいったかリュク」
「なななな……なんで僕に……!?」
「わかりやすいかなって」
「そんな理由で無言でこんなの撃ってこないでよ!?」
「死なないように努力はした」
「そういう問題じゃなーい!」
「ま……待て、今魔導って言ったなイザナ?」
「うん、一族ならみんな使える」
「そんな自由自在に使えるものなのか魔導って?しかも一族みんな使えるって……」
「気がついたら使えたから、そういうもの」
「そんな軽く……というかその力で追手は撃退できたんじゃないのか?」
「使うとお腹空く……お腹空くと使えなくなる」
「それで捕まっている時に飯も食わされ無かったのか……そんな力を使える一族をみんな捕まえるなんて、黒衣のやつらは襲った時にかなり数がいたのか?」
「ううん……凄く強いやつが3人くらいいて、みんなで戦っても勝てなかった……」
「そんなヤバいのがいたのか……何なんだろうなあいつらは……」
昨日の激戦を振り返り、憂鬱な気持ちをぶり返したアグルナムは魔物や黒衣の集団に付けられた傷が痛み出す。
血に塗れた服を脱いで顕になった、逞しい身体に刻まれた傷跡をイザナとリュクは哀れみに満ちた目で見ていた。
「……ごちそう様でした」
「良し……それじゃあ宿を確保しに行くか……」
食堂を出て安宿へと来たアグルナム一行は部屋取りの段階で一悶着を起こしていた。
「え!?僕とイザナが同部屋!?」
「あぁ……流石に家族でもない成人した俺が年頃の女の子と同部屋はマズイと思ってな」
「で……でも……!! 普通にイザナが一人部屋で僕とアグ兄が同部屋の方が良いんじゃ……」
「女の子一人にするのも酷だろ? 子供同士だし倫理的にも問題無いはずだ」
「あるよ!! 絶対あるよ!!」
「まぁもう部屋取っちゃったからな、二人とも夜更かしはするなよー」
「そ、そんなぁ!?」
「リュクは……わたしが嫌いなのか?」
「そ、そうじゃなくて……!子供同士だからって男女二人はマズイって話で……!」
「お主……助平だな?」
「ち!?違うわいッ!!」
「ふふ……真っ赤……」
「ッ!!?」
「眠いからさっさと部屋に入る……じゃないとビリビリ」
「わ、わかったからビリビリはやめてッ……!」
明かりを消した狭い部屋に二つ敷かれたベッドへと二人は入っていき、リュクはなるべくイザナから離れるように端へと移動し、視線を合わさないように身体を横に倒す。
そんなリュクへと身体を向けて、イザナは語りかける。
「そんなに離れられると……傷付く」
「しょうがないでしょ……!」
「何がしょうがないの?」
「ッ……!!」
「ふふ……かわいい」
「からかわないでよ……!!早く寝てよね……」
「まさか……寝込みを襲うつもりかお主、悪よのぅ」
「むぅ……!!」
だる目な絡みをしてくるイザナにリュクは赤面しつつも、うんざりした気持ちを抱えていた。
「ぐぅ…………」
「……え!? 寝るのはや……」
本当に寝たのかを確認するためリュクは身体を翻すと、身体を横にしたまま眠っていたイザナの顔が目に入った。
(……寝顔可愛いな……)
「……ハッ!? ダメダメ……!!」
寝顔をマジマジ覗いては本当に助平じゃないかと自身を戒めたリュクは、再びイザナに背を向けて布団を顔まで覆い被せて目を閉じた。




