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チェインブレイブ  作者: 南無三
平穏は突如終わりを告げて
14/30

第14話・動き出す陰謀

 ザム村の惨劇を受けて慌ただしい様子を見せる公国城内。


 一際異彩を放つ紋様が描かれた大仰な扉の奥では、妖しい香りを漂わせる暗い部屋内の中央に座らされた目を閉じた男と、その隣で男の頭にマガルを纏わせた手を置き目を閉じて集中するセラと、部屋の端で水晶に両手をかざす中年の女性の姿があった。


「……マガルの同調完了、これより記憶想起を行います……強い頭痛が起きる可能性があるので、身体に異変を感じた場合はすぐに目を開けてください」

「了解」

「では魔術長……映像投写の準備を」


 中年の女性が水晶へとマガルを集中させると、青い水晶が白い光を放ち、密閉された暗い闇に染まった壁を広く輝かせる。


「ではいきます……"鏡幻視(ミカガミノマボロシ)"……!!」

「……ッ!」


 頭に置いた手から放たれるマガルの輝きが増して、水晶の光に照らされた壁に一人称の視点が映される。

 その視点は、男が見た崩壊したザム村の残酷な光景を映していた。


「映像投写は問題ありません、続けてくださいセラさん」

「はい……!」


 しかめた顔を浮かべながらセラは魔術を継続する。


(何て酷い……罪も無い村の人をこんな目に……!)


 どこを見ても映される凄惨な人々の死体に心を痛めるセラは、湧き上がる悲しみと怒りの感情を必死に押し殺して過去視に集中する。


(あ……生存者がいた!!男の子に……赤い髪の……えっ……?)


 村の奥へと入っていった視線に座ったまま身を寄せる少年と青年の姿が映る。

 赤い髪をした青年の姿に、強い既視感を覚えたセラは冷や汗をかきながら、二人へと近付く視線に釘付けとなる。

 視線の主に気付いた様子の青年が立ち上がり、顕になった顔立ちを見たセラは驚愕した。


「ッ!!ア…………グ…………!?」

「ウッ……!!」

「!!」


 二年前に消息を絶った親友の姿に驚愕したセラは、目をカッと開いて尻もちを着くように後ろに倒れてしまい、魔術を中断された男は片手で頭を抑えて痛む仕草を行う。

 中年の女性はセラへと駆け寄り、青白い顔色を浮かべる彼女の様子に不安を覚えつつも叱責する。


「セラさん!手順を踏まずに魔術を中断しては、被術者に強い負担がかかってしまうでしょう!!」

「も……申し訳ありません……」

「いえ……あんなにも血を浴びた恐ろしい男は目に毒というものです。

 驚いて中断してしまうのも無理はありませんよ」


「…………」

「大丈夫ですか……?続けられそうです?」

「は、はい……本当に申し訳ありません……」

「お気になさらず……」


 男はセラの手を取り、労るように身体を立たせて再び席へと座る。


「さぁやりましょう、罪深き賊が犯した蛮行をしっかりと映像に残さなければ」

「はい…………」


 不安に満ちた表情を浮かべつつも魔術を再開する。


 アグルナムの顔を映した視点からの映像が綴られ、拘束され足蹴にされるアグルナムの姿を見て胸が締めつけられるような感覚に陥り、瞳を紅く染め野蛮にも拘束を振りほどいて軍人を殴り飛ばし、少年を抱きかかえて走り去ってゆく映像を最後に、セラは両手のマガルを徐々に弱らせて過去視の魔術を終了する。


「……これにて過去視の魔術を終了します、お疲れ様でした……」

「映像記録も問題無く……ありがとうございますラグラム副長」

「これで正確な手配を行えますね、あんな凶行を犯した輩を野放しにはしておけません」


「ッ…………」

「顔に痛打を浴びた部下は鼻と上顎に重傷を負わされました……必ずや部下と民の仇を討たなければ」


 身体を翻し、大仰な扉を開いて部屋を出る男を中年の女性とセラは頭を下げて見送る。

 残った二人は部屋の中央で向き合うように椅子に座り話をしていた。


「セラさん……貴女らしくない醜態でしたね」

「……申し訳ありません魔術長」

「確かに酷い現場でしたが、あのような映像にも心を乱さぬよう訓練されているはずです。

 あの青年が映った瞬間に相当動揺したようですが……」


「血で染まった身体に驚いてしまって……申し訳ありません……」

「……私は映像を軍に共有します、セラさんは身体を休めてください……貴女は貴重な過去視を行える魔術士なのですから下手な失態で評価を落とすことは無いように……」

「はい……」


 二人は部屋を出て廊下の突き当たりの交差点で別れ、セラは軍の休憩所に設置された柔らかなソファーに座り顔を落とした。


「…………」

「お疲れ様セラ」

「エルク……」


 疲れた様子を見せるセラを気遣うようにエルクは声をかけて、手にもった温かな紅茶が入ったカップをセラへと手渡した。

 手渡した手の薬指にはかつて親友に選んで貰ったアパタイトの指輪が輝いていた。


「これで犯人の正確な情報を領内の軍に共有できるんだ、すぐにでも犯人を捕まえられるよ」

「…………」

「罪も無い人々を虐殺するなんてとんでもない悪辣な奴だよ、どんな姿をしていたんだいセラ?」

「…………ッ!!」

「セラ……?」


 セラは潤んだ瞳を浮かべてエルクへと向き直り重たそうに唇を開く。


「……アグだった」

「え?」

「映っていたの……アグだった……血まみれの姿の……アグだった……!!」


 エルクは悲壮的な真顔を浮かべてセラの瞳を凝視する。

 見たことがないような表情を浮かべるエルクに少し肩を竦めるセラを両手でガッチリと抑えたエルクは、気迫の籠もった低い声でセラへと詰め寄る。


「……何かの間違いだろうセラ……アグが犯人な訳無いじゃないか……」

「赤い髪でガッチリした身体で……二年前に旅行で着ていた服だった……!間違いなくアグだった……!!」

「ッ……!嘘だ……!アグが犯人な訳がないッ!!アグに限ってそんな……!」


 エルクは両手を肩から離し、セラに背を向けて眉間に皺を寄せた険しい表情を浮かべる。

 両手の拳を握りしめ酷く動揺する様子を見せるエルクの身体は打ち震えていた。


「そうだ……ラグラム副長が勘違いしているんだよ!アグは村を守るために戦っていて、その返り血を浴びた姿で犯人と勘違いしているんだ!そうに違いないッ!!」

「……なんでアグはザム村にいたんだろう、姿を消した後にユヴァージュ村にも帰らずに……」

「それは……わからないけど……」


「……二年前に姿を消した後に賊になっちゃった可能性は……」

「セラッ!!!」

「ごめん……そんなわけないよね……」

「アグが賊になんかなるものか……!何か……何かがあったんだ……!!アグの身に何かが……!!僕は……アグを信じる……!!」

「エルク……私も信じるよ……アグがあんな酷いことするわけないもんね……」


 セラ自身もかつての親友を信じたい気持ちがあり、過去視で見た血まみれで瞳を紅く染めたアグルナムが、軍人に拳を放つ姿が脳をよぎりつつも、それを振り払うように首を横に振り、エルクの背に手を置いた。


 そこへ二人の喧騒を聞き付けた黒い長髪が特徴的な美しい若い男性が部屋へと入ってくる。


「随分騒がしいな、エルク副長」

「レイン隊長……!?申し訳ありません……」

「仲の良い二人には似つかわしくない喧騒だったな、話の内容が内容だから仕方ないだろうがな」


「聞かれていたのですか……」

「先程魔術長が記録した映像が各隊に共有されてな……映像に映った赤髪の青年を指名手配することが決定された」

「……!! アグは……無闇に人を殺すような男じゃありません……!!」


「君がいつも聞かせてくれる憧れの親友だったな……間違いは無いのかな魔術隊員?」

「はい……間違いなく私達の友達のアグルナム・グロリアでした……」


「……君達の知り合いだということは他の人間には誰にも言わない方が良いな」

「え……?」

「人に聞かれたくない話をする……着いてきてくれ」


―――――――――


 防音性の高い自身の個室へと二人を案内したレインはカーテンを閉めて話始めた。


「二人は今回の事件をどう思う?」

「どうって……凄惨な事件だと思います」

「……私は今回の事件に濃い陰謀の香りがしてならないんだ」

「陰謀……ですか?」


「突飛な話に思えるかもしれないがあらゆる状況を踏まえて私が感じたことを話していこう」

「…………」


「今回のザム村襲撃において不可解な点がいくつかある……一つ目は襲撃者の目的についてだ」

「目的……」


「公国の駐在軍もいるなかで何故あれだけの規模の虐殺を行ったのか……それがわからないんだ」

「金品や食料の強奪とか……」


「いや……村の物は奪われた形跡も無く、ただただ破壊され尽くしていたそうだ……そして二つ目はそんな異常な破壊行為が行われたにも関わらず、村の名物であった神木には一切の被害が無かったことだ」

「それは妙ですね……」


「単なる破壊が目的なら村の中央で大きく存在感を示す神木に一切の被害が無い状況は不自然すぎる……略奪目的にしては村の物を奪わなかったり、価値の高い神木を削ったり、切り倒さないことも不自然だからな。

 そして三つ目は……ラグラム副長の証言を一方的に支持する大公だ」

「え……!?」


「勇の盾隊は現場に明らかに村人ではない黒衣を着た集団の死体があったと報告していた、その手には血に塗れた武器を所有していたとも……」

「そんなの……明らかにその集団が主犯じゃないですか!何でアグが疑われるんです!?」


「そうだな……過去視の映像にもその死体が映っていた。

 確かに血に塗れる怪我をした青年の姿は衝撃的だったが……青年は村人であろう少年とは親しい関係にある様子を見せていることから、普通は村人かその関係者と推測するだろう?

 しかもその周りには明らかに村を襲ったであろう怪しげな集団の死体がある……私なら村を襲撃した集団に駐在軍と共に抵抗した青年が、怪我を負いながらも生き残った可能性を考慮する。

 だが……ラグラム副長は赤髪の青年と黒衣の集団は共に村を襲った仲間だと決めつけ大公に進言している……」

「そんな決めつけを大公は支持しているのですか!?」


「私の推測も10を超える人数の駐在軍と村人を全滅させた8人の精鋭を相手に、軍人でもない青年が戦って生き残ったことへの違和感を拭うには物足りないが、同じように確証の無いラグラム副長の証言を妄信するかのように、大公は青年が今回の事件の主犯だと決定づけた……。

 まるでそれが最初から定められた筋書きのようにな…」

「そもそも何故大公が今回の件にそのような決定事項を持つのですか……!普通は治安維持部隊の仕事でしょう!」

「何故だろうな……そこまでしてこの青年に罪を被せたい理由があるのか…」


 レインは遠い目をしながらエルクに背を向け、ぽつりと呟いた。


「……今から私の口から紡がれるのは誰かに聞かれたら首が飛ぶような邪推だ……エルク、魔術隊員」

「……!!」

「…………」


「今回の事件……大公が仕組んだことなんじゃないかと私は思っている」

「「え!?」」


「一年前にベルヴェム公国の大公を継いだレウォル大公だが本来、前大公は第二王子のミュゼ王子に大公を継がせる腹積もりだった。

 平和を愛する前大公は野心を胸に秘めたタカ派のレウォル公に大公を継がせたく無かったんだ。

 だが……前大公は人が変わったかのようにレウォル公を自身の跡継ぎにすることを病床で宣言した。」

「……それは怪しいですね」


「大公を継いだレウォル公は城内の穏健派貴族を排斥する改革を行って周りをタカ派の貴族で囲んでいる。

 しかもこの四大国友好の雰囲気に水を刺すかのように、異常な軍拡を行っているんだ。

 まるで……戦争でも始める予定があるかのようにな」

「戦争……!」

「しかし、それが今回の事件と何の関係が……?」


「ザム村の神木は……香りにマガルの安定作用があることから軍人や魔術士が御香にして重用する代物だ。

 寂しい土地であるザム村は本来なら作物も大して育たずに貧しい暮らしを余儀なくされるような環境だが、神木を公国や他国の商人に売ることで高い利益を出し、豊かな暮らしを実現している村だった。

 前大公もこの神木に目をつけて、毎年決まった量の神木を納付することを条件にザム村に免税を施すことで神木を確保していたそうだ」

「……!?まさか……」


「管理者を失った崩壊した村……この自治権は完全に公国のものとなることが決定した。

 つまり……公国は神木の利権を丸ごと得ることができたのさ」

「神木を軍内で自由に使えて、商人に売りつければ利益は全て公国のものにできる……他国との交渉材料にも扱える……!軍拡の助けになることは間違いない……」

「でも……!そんなことのために自分の国の民を虐殺するなんて……無理がある計画な気が……」


「あくまで仮説さ……だが今回の事件は大公にとってはあまりに都合が良い事件だからな…………ん?」


『ベルヴェム公国に生きる民達よ……聴こえるか?』


 暗い話題で雰囲気が重くなった薄暗い部屋に、突如男の声が響いた。


「これは……大公の声!?」

「音響の魔術だな……恐らく規模的に城下街にも届くものだろう」


『余はベルヴェム公国大公、レウォル・フォン・ギュルターである。 本日は諸君らに伝えなければならないことがある……』

「…………」


『昨日、ザム村で起きてしまった残酷なる事件……その主犯である者の詳細を掴むことに成功した……しかし!軍の調査により明らかになった真実は想像以上のものであった……主犯である者達は西の国・ファード王国の刺客であることが判明したのだ!!』


「……!!」

「なッ!?」

「えッ!!?」


 予想外の大公の言葉に三人は一様に驚愕した。

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