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チェインブレイブ  作者: 南無三
平穏は突如終わりを告げて
13/31

第13話・追われし少女

「―――――ん……」

「起きたか……リュク……」

「アグ兄……」


 目覚めたリュクは辺りを見回して、自身が何処かの廃材置き場にいることを理解し、隣にいる汗だくで胸を抑える返り血が乾きかけたアグルナムを見てぽつりと涙を流す。


「……夢じゃないんだよね……」

「……ああ」

「いつものザム村で……父さんや母さんと一緒にご飯を食べる夢を見ていて……今日起きたことは全部夢だったんだって……安心してたのに……」


「……」

「でも……やっぱり今日起きたことが現実で……こんな……」

「リュクッ……!」

「なんで……なんでこんなことに……!!」


 現実に堪えきれず、大粒の涙を流し体育座りの体勢で顔を両膝に隠す。

 いたたまれないリュクの姿に、またしてもかける言葉が見つからなかったアグルナムは、ふと自身が抑えつける胸に目をやり、村長から授かったブローチを見出す。


 そのブローチを外して、泣きじゃくるリュクの肩を叩いて、平手に添えたブローチを目の前に見せた。


「これ……神木の……」

「このブローチは……お前が持つべきだ」

「でも……」


「ザム村で産まれて、ザム村で育ってきたリュクだからこそこれを持つべきなんだ。

 村の誇りの神木を背負って、それに相応しい男になれるように……これから生きていくんだ」

「…………」


「罪も痛みも全部一緒に背負ってやる……辛かったらいつでも俺に頼ってくれよ……俺にとってお前は大切な……弟みたいなものだからな」

「アグ兄……ありがとう……」


 渡されたブローチを衣服に装着し、そこから香る芳香とアグルナムの言葉に心を落ち着かせたリュクは、僅かに笑顔を取り戻して、涙を拭い天を見上げた。


「これからどうしようか……アグ兄」

「…………」


 勢いのままにその場から逃げ出したアグルナムは、これからの生き方を考える余裕もない状況であったがリュクのこともあり、ある一つのプランが頭をよぎりそれを言葉に出した。


「……俺が産まれ育った村に行こうと思っている……ユヴァージュ村って言ってな……もう二年帰っていないから驚かれるかもしれないけど……」

「邪魔にならないかな……僕」


「家には親父がいるけど三人で暮らしていけるだけの余裕はあるからさ、一緒に狩りや手伝いをして生きて行こうぜ」

「うん……僕、精一杯頑張るよ」


「良し……そうと決まったら早速行くか、とりあえず人が暮らしているような村や街を探して……」

「……ねぇアグ兄、何か聴こえない?」

「え?」


 リュクの指摘を受け耳を澄ませるアグルナム。

 すると、遠くから複数の足音と怒号のような声が響いてくることを感じ取る。


「聴こえる……これは……誰かが追われているのか?」

「どんどん近づいて来てない?これ……」


 着実に二人の元へと音の元凶が近づいてきており、耳を澄まさずとも音を感じ取れる距離に来ていることを理解した二人は身構える。


 パタパタとした小さな足音が廃材の裏側から響き、暫くしてその音の主が廃材置き場の入口から姿を現す。


 アグルナムやリュクとは明らかに違う様相の衣服に身を包み、背丈がリュクとそう変わらないであろう頭頂の側面部に短く2つ結びを施した黒髪の少女は二人の姿を認識し、二人の元へと駆け出した。


「女の子……!?わッ!?」


 少女はリュクの身体に勢い良く倒れ込み、顔を胸へとうずめて力無くうなだれる。

 急に衝突されたリュクは尻もちを着きながらも、しっかりと両腕で少女を受け止める。

 同年代の女子と接する機会に乏しかった経験が災いして、リュクは熟した果実のように赤面した。


「あ……あの君……どうしたの……?」


 リュクはたじろぎながらも裏返った声で、何があったのかを少女に尋ねる。

 声に反応するように顔を上げた少女は、やつれ気味の憔悴した表情を浮かべながら言葉を紡いだ。


「たす……けて……」

「!?」

「いたぞ!!」


 入口から二人組の男が現れ、アグルナム達の元へと険しい表情を浮かべながら駆け寄ってくる。

 その姿を見た少女は怯えた表情を浮かべながらリュクの背中へと隠れた。


 その怯えた様子が尋常ではなく、やつれた状態もあってアグルナムは近づいてきた男達に対して強い警戒心を抱いた。


「ああ君達……すまないがそこにいる女の子を渡してくれないか?」

「……貴方達はこの子とどういう関係なんです?」


 探りに対してムッと眉間に皺を浮かべる男の機微を見逃さなかったアグルナムは、最悪の展開も視野に入れてより警戒心を強める。


「……服装を見ての通りその子は【ヒイズリの国】出身だ、私達は馬車乗りでね。

 家族旅行に来たその子と親御さんを故郷へと送る最中に、突然その子が馬車を降りて逃げてしまってねぇ。

 まったく困ったものだよ」

「……旅行に来る余裕のある家庭で、こんなやつれたりしますかね……状況も不自然ですし」


 アグルナムは少女と目を合わせると、少女は男の言葉を否定するかのように激しく首を横に振る。


「……いいから渡したまえ、親御さんを待たせているんだ」

「渡すのは良いですけど……俺達も着いて行きますよ」

「……は?」

「実際にこの子の親御さんが貴方達の馬車に乗っているならそのままお渡ししますよ、いるなら……ね」

「アグ兄……?」


 明らかに不穏な空気がその場に流れ、ピリついた雰囲気にリュクは一歩後ろに下がり、少女はリュクの服をより強く握りしめる。

 アグルナムはそんな二人を庇うように前に立ち、二人組の男に相対した。


「さっさと渡せよ……こっちも仕事なんだ、邪魔するなら只じゃ……」

「親御さんを確認したら渡しますよ、何か……不都合でもあるんですか?」

「チッ!!」


 二人組の男は懐からナイフを取り出しアグルナムを威圧するように切っ先を向ける。


「リュク……離れてろ」

「う……うん」

「さっさと渡してりゃ痛い目に合わずに済んだのによ……!後悔しやがれ!」


「嘘はもう少し丁寧につくんだな……」


 襲いかかる二人の男のナイフを握る拳を両手で止めるアグルナム。

 アグルナムの指の隙間で震えるナイフは、そこから間合いを詰めることも離れることも許されず、男達はアグルナムの馬鹿力に恐怖した。


「な……なんて握力だ……動かせねぇ……!」

「こんの……野郎!?」

「ふんッ!!」

「「ああぁぁぁぁッ!!?」」


 手首を捻り上げながら関節を極め、肘に激痛が走った男達はナイフを手放し落下したナイフが鋭い金属音を響かせる。

 掴んだ拳を引っ張りあげて、身体の体勢を崩した男達を押し投げて大きな隙を作った。


「逃げるぞリュクッ!」

「うん!……走れる?」


 リュクの言葉に首を縦に振って肯定した少女の手を取り、二人はできる限りの速度で走り出す。

 アグルナムもそれに追随し、二人の背中を守るようにしてその場を去った。


―――――――――――――――――――


「ふー…………追っ手は来てねぇな……散々な一日だぜ……」

「はぁ……はぁ……君……だいじょうぶ?」

「…………」


(この子……あれだけ走ったのに疲れた様子がねぇな)


 栄養失調気味の身体でありながら、10分以上走り続けたのに息切れ一つしていない少女にアグルナムは少し不気味さを覚えながらも、事情を伺うために少女へ話かける。


「うーんと……何があったのかな?あんな怖いおじさん達に追われるなんて……」

「お腹空いた……」

「え?」

「…………」


 お腹を鳴らして黙り込んでしまった少女の訴えに、腹を満たさないと話を聞けないと判断したアグルナムは、懐をまさぐり食べるものがないかを探る。


「……財布しかねぇ、街を探して食い物を買うしか……」

「はい、これ……」


 リュクがポーチからリンゴを取り出して少女へと手渡し、少女はまじまじと赤いリンゴを手で転がしてから小さな口で齧り付いた。


「……美味しい」

「良かった……」


 夢中でリンゴを貪る少女を朗らかな笑顔で眺めるリュクを見て、アグルナムもまた穏やかな心を取り戻しつつあった。

 

 リンゴを芯ごと食べて、器用に種だけ吹き出して平らげる姿に若干戸惑いながらも、アグルナムは改めて少女に話を伺う。


「君の身に何があったのか聞かせてくれないか?解決の手伝いになるかもしれないし……」

「ナルカミ・イザナ」

「え?」

「名前……」


「あ……あぁ、俺はアグルナム・グロリア……覚えづらかったらアグで良い」

「僕はリュク・アーガディ、ナルカミちゃんは……」

「イザナが名前……性がナルカミ……」

「え、そうなの?」

「ヒイズリでは性が先、名が後」


「ヒイズリの国か……東の国だな」

「ここ……どこ?」

「ここは……ベルヴェム公国領のどこかだな」

「ベルヴェム公国……そんなところまで……」


「男達が言ってたような旅行って感じでは無いだろうけど……何があったんだ?」

「わたしの里……襲われた」

「え……」

「黒い服を着た奴らに襲われて……みんな捕まった」

「黒い服だって……!?」

「……なぁ、そいつらは真っ白な仮面をつけていなかったか?」

「してた……なんで知ってるの?」


「僕達の村も……黒い服を着た集団に襲われたんだ……」

「……!?」

「今日起きたことでな……村人は俺達以外みんなやられてしまった……仮面の特徴まで一致しているなら、同じ組織である可能性は高いな……」

「……みんな捕まって手錠をかけられて鉄格子の荷に乗せられたけど……一緒に乗っていた里長が助けてくれて逃げられた……

 途中で見つかっちゃったけど」


「追ってきたのは運び屋ってことか……ザム村の人は皆殺しにしたのに、そちらは生け捕り……目的がわからん連中だ……」

「わたし……里のみんなを助けたい……でもどこに連れられたのかわからない……」

「ねぇアグ兄……どうにか助けてあげられないかな?」


 アグルナムは腕を組んで考え込むが、見当もつかない仲間の居場所を三人で探し当てるのは不可能に近いという結論しか出てこずに、頭を抱えた。


「そういえば里長に助けられたって言ったな……捕まっていた場所にいけば里長は助けられるんじゃないか?」

「道覚えてない……夢中で逃げたから……」


「そうか……とりあえずは予定通りユヴァージュ村に行こう。 まずは衣食住を確保しなきゃだからな……」

「食……お腹空いた」

「リンゴ一個じゃ足りなかったか……」

「僕もお腹空いてきたかも……」

「じゃ……とりあえずはどこか泊まれる場所を探さないとな……」


「……着いていっていいの?」

「困った時はお互い様だ、同じ故郷を奪われたよしみだしな……」

「……ありがとうアグアグ」

「アグアグ……!?」


 少し変わった異国の少女を同行に加え、アグルナム達は明日も見えぬ未来に進む。


 その裏で彼らの生きる道にさらなる暗い影を落とされていることを知らずに……


――――――――――――――――――――――――


「……これより過去視の魔術による正確な犯人像の割り出しを行います、勇の盾隊副長・ラグラム・イーディはこちらの席へ」

「はい」


「それでは……私、セラ・サンテヤードが責任をもって過去視の魔術を執り行います……」


 ザム村崩壊から一日経ったベルヴェム公国城内では、アグルナムのかつての親友であるセラが主体となり、真実を導き出すための魔術が執り行われようとしていた。

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