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ドラグスケイル:オーバーステラ  作者: 伊丹巧基
第三章 お別れと竜
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49/58

007

 部屋に戻ると、一斉にそこにいる面子がこちらに顔を向けた。


 カジカが何かを言いかけてやめ、こちらにまっすぐ視線を向けてきた。その刺すような目をしっかりと見つめ返す。


「セツカ? 本当にいいの?」


 灯音が気遣うように言ってくれた。灯音だってつらいはずなのに、こちらのことを心配してくれているのだろう。その気持ちが今は本当に嬉しかった。


「ああ、もう大丈夫だ、ありがとう。もうすっきりしたよ」

「無理しなくていいよ。その……今から話す内容は……」


 言いよどんだ灯音の言葉を遮るようにカジカが口を開く。


「悪いけど、あなたには嬉しくない話ね。今から3時間後に残存戦力をかき集めて犀竜の撃墜作戦を開始するわ。2時間以内に来れる特務蒐集員――要するに私と同じバロックNo持ちも3名確保したから、彼らと協力して犀竜の撃退プランを構築するところよ。それが駄目なら――最終手段に出ることになるでしょうね」


 最終手段が何かをカジカは言わなかった。おそらく、彼女と同等と思われる戦力を増やしてなお通じない相手用の切り札はあるのだろう。そしてそれは、取り得る手段の中でも最悪の方法だということは容易に想像できた。


「カジカ。一つ提案がある――俺の作戦に協力してくれ」

「悪いけど、うちのエバーグリーンの力を使おうって作戦なら無理よ。あの子の瞬間移動はせいぜい100m程度だし、何より当人が犀竜にビビって機体から出てこないもの」


「いや、俺が考えているのは別の案だ。それは――」


 そのまま自分の思いついたプランをこの場にいる全員に話した。内容はシンプルだったので、あまり時間はかからなかった。話し終えると、黙って考え込むカジカや灯音をよそにゼプトが高笑いする。


「ははは! よくもまあそんな希望的観測で組み立てた作戦を考え付くものだ! いや作戦と呼ぶのすらおこがましい。正気か貴様?」


 そう言ってこちらを見るゼプトは、笑ってはいるが馬鹿にしているわけではなさそうだった。


「だが貴様、いい顔をしているではないか。闇雲に死に場所を探すだけの負け犬の顔ではない。貴様なりの勝算があるのだろう。カジカよ、我は此奴の作戦をやってみるのは悪くないと思うが?」


「黙ってて、ゼプト。そもそも頭数に入ってないあなたに判断権はないの」


 カジカがゼプトを睨みつけたあと、再びこちらに向き直る。


「空木雪迦、自殺志願者ではないみたいだけれど、無謀なのは事実よ。それに彼女を巻き込んでいいの? 最悪、せっかく助けた彼女を死なせることになるわよ」


「巻き込みたくない。でもそれはただの俺の気持ちでしかない。灯音に自分から言わせるくらいなら、俺から頼むだけだ」


 そのまま灯音の方に目を向ける。


「灯音、俺に力を貸してくれ。これは灯音にしか頼めないんだ」


 そう言うと、灯音が困ったように笑みを浮かべた。


「そういう言い方ずるいなー、セツカ。断れないじゃんそれ」

「分かってる、ごめん。でも俺は……今なりふり構ってられない」


 そう、自分は今、灯音をもう一度戦いの場に連れ戻そうとしている。自分で助けた彼女を、自らの意志でもう一度危険な領域に引き戻そうとしているのだ。なんてわがままで、自己中な言葉だ。


「謝んないで。ま、今聞いた時点でそう言ってくるのも分かってたし。それにまっちーに悪いことして欲しくないから。あたしが協力してあげるっきゃないよね」


 やれやれ、とでも言いたそうに灯音が肩をすくめる。そのわざとらしい虚勢が今はありがたかった。灯音の目を見て頷くと、今度はカジカのほうを向く。


「言質は取った。これで後はあなた次第だ、カジカ」


 今度は全員の視線がカジカに注がれる。しばらく黙り込んでいたが、対に根負けしたようにカジカがため息をついた。


「全く急に真剣な顔になったと思ったら……とはいえ、他に打開策が無いのも事実。SHELFとしても断る義理はないわね。でも当然次善の策は用意させてもらうわよ。正直、あなたの作戦が成功する保証はどこにもないもの」


「うん、それでいい。俺が失敗したらあなたの好きにしてくれ」


 カジカが最後にもう一度、こちらを品定めするよう目を向けてくる。それから一瞬ふっ、と笑った――ような気がした。だがそう思った時にはいつもの鉄面皮に戻っていた。


「なら決まりね。その方針でまずは準備するわ。さっき言われたものは多分すぐに持ってこれる。二人はその間に竜術機のチェックでもしておきなさい。ゼプト、あなたは……」


 少しゼプトの顔に影が差したが、すぐに余裕たっぷりに肩をすくめた。


「ふ、先ほどお主が言った通り我は今戦う術を持たぬ身、頭数には入らぬ。この娘の部屋から見物させてもらうだけだ。おい、パルメジャーノ」


 呼びかけた時点で横にいた執事が湯気の立つ紅茶をティーカップに注いでゼプトに手渡ししていた。あの竜がこっちを攻撃してくるかもしれないのに随分な余裕だ。優雅に紅茶を口に運んだ後、ゼプトが言う。


「一つ助言をするならば、相手はまだ魂無き抜け殻とはいえ一匹の竜。本来人の身で勝てる相手ではないからこそ、神話に名を残している。その事実を無下にせぬことだ」


「言われなくても分かってる。それにあの竜を操っているのは行町なんだろ。なら気を抜く余地なんてどこにもないさ」


 そう、何一つ手加減する余地はない。自分は彼に一度負けたのだ。ただの不意打ちだ、卑怯者だとそしることは出来ても、ルーネを奪われてしまったという致命的な敗北の事実はもう覆らない。


 カジカが手短に部下たちに無線で指示を出したあと、この場にいる全員に宣言するように言う。


「では決行は一時間後。すぐに準備に取り掛かって」

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