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フラン王太子妃と、神父様のサイン本 シリーズ

サイン本は、駆け落ちした私に、小さな夫婦の幸せをもたらし、大きな未来へと導きます!

作者: 甘い秋空



「カトリーヌお嬢様、この本を読んで頂けませんか」

「これは?」

「神父様から、お嬢様へと預かった本です」



 私は、男爵家の令嬢で、金髪ストレート、栗色の瞳、高等部3年生、カトリーヌです。


 本の包みを差し出したのは、ゴリラのような見た目ですが、屋敷の調理人です。

 ごつい体、隣国に多い浅黒い肌、短い黒髪、黒い瞳という容姿です。


「あの家族のお嬢様への扱いが酷く、さらにこの男爵家を継ぐなんて許せなく、神父様に相談してきました」


「神父様は、自分がサインしたこの本を読めば、お嬢様は幸せになれると言っておられました」



 半年前、私の両親は他界しました。


 そして、叔父と叔母が義理の両親として、そして従兄弟が義弟となって、この男爵家に来てから、私は、いないものとして扱われています。


 食事もあの家族と一緒ではなく、厨房の隅で、まかない飯を、そっと食べさせてもらっています。



「わかりました、ありがとう。相談費用は高かったと思いますが、今の私には差し上げるものがありません」


「お嬢様が幸せを取り戻せれば、私は幸せです」


 調理人は、年上で、優しく、私は少し意識しています。けど、身分の差は、どうしようもありません。


 ◇


 寝室に戻り、包みを開きました。


 中からは、恋愛小説が出てきました。

「聖書か神話と思っていましたが、意外ですね」


 表紙を見ますと「著者は、神父さんですね」


 見開きに「サインまで入っています」


「どうしましょう?」

 少し迷いましたが、とりあえず、読んでみます。



 中は、令嬢と平民男性が駆け落ちして幸せを掴む恋物語でした。


「なんだか、スッキリしました」

 これは魔法の本なのかもしれません。



 ◇



 学園は、制服で通わせてもらっています。


 ホールの中央に、人だかりができています。


「あの男子、2年生の男爵令息よ」

「卒業パーティーの前なのに、もうやってる」


 どうしたのでしょうか? 視線の先を見ると、義弟です


「俺は、貴女との婚約を破棄し、不誠実な貴女を断罪する」

「そして、こちらの子爵令嬢に婚約を申し込む」


 婚約者の男爵令嬢に向かって、婚約破棄を宣言し、断罪しています。


「待って! こちらの男爵令嬢は、断罪されるような事をする女性ではありません」

 思わず飛び出て、義弟に反論しましたが、相手にされません。


 ◇


 婚約破棄された男爵令嬢のお父様が、娘を迎えに来ました。

 私は姉として男爵様へ謝罪しましたが、もう宣言した後なので、どうしようもありません。


 泣きじゃくる男爵令嬢は、修道院へ送られるようです。


 ◇


 家に戻ると、ダイニングから家族の声がします。


「よくやった、男爵家より子爵家の方が爵位が高い!」

「これで、我が男爵家の格が上がり、跡取りのいない伯爵家を受け継ぐのは、ほぼ確定だな」


 ひどい家族です。これからは元家族と呼びます。


 ◇


 その晩です。使用人の方々が、いそいそと厨房を出ていきます。

 厨房で、調理人と二人きりになりました。


「お嬢様、私は貴女を愛しています。この家にいたら貴女は幸せになれません。どうか私と駆け落ちして下さい。私が必ず幸せにします」


「うれしいです。どうか、カトリーヌと、名を呼んで下さい」

 抱きしめられました。人の温もりを感じます。


 私と調理人は、ついに、駆け落ちしました。何も持たず屋敷を後にします。後悔はしません。


 神父様のもとで、しばらく匿って頂きます。

 神父様は、黒い祭服を着た、長身で、銀髪、銀の瞳のイケメンでした。



 すぐに、二人だけの結婚式を挙げました。


 世話をしてくれる聖女見習いは、義弟と同級生で、先日、私と友達になってくれた銀髪のフラン嬢です。

 彼女から、ベールダウンして頂き、入場しました。


 神父様が、聖書を朗読します。


 そして、二人で愛を誓い合い。

 指輪は用意出来なかったので、口づけが、誓いの証です。


 二人で結婚証明書にサインしました。



 ◇



 神殿で、少しでも恩を返そうと、清掃ボランティアの女性の方々を手伝います。


 皆さんは、手を動かすよりも、口を動かす時間が長いようです。

 私は、手を動かしながら聞き耳を立てます。


「騎士団へ投書があったそうよ」

「あの男爵家でしょ、聞いたわ」


「長女への罵倒や、使用人へ暴力を振るった傷害の罪ですって」

「令息が、婚約者の男爵令嬢に罪を着せた罪、子爵令嬢を騙した詐欺の罪もよ」


「ひどい一家よね」


「あの男爵家は取り潰しになるかもね」

「この神殿で、屋敷や領地を一時預かるらしいわよ」


「男爵家は全員、爵位を取り上げられたそうよ」


「その後、行方不明なんだって」

「それって天界に行ったの?」


「また、黒い影が出たのかしら」

「ものすごい悲鳴を聞いたって人がいるのよ」


 たぶん、尾ひれが付いた噂話なのでしょうが、聞いてて面白いです。


 ◇


 神殿で、あの男爵令嬢とばったり会いました。


「カトリーヌ様、お元気だったのですね」


 義弟に婚約破棄された男爵令嬢は、元気になられたようです。


「神父様に匿って頂いています。ここで会ったことは内密にお願いします」

「修道院へ行かれたのだと思っていましたが」


「神父様の紹介で、あのゴリラ子爵様と会う所です」


「あのゴリラ子爵様ですか! 何と言いましょうか、容姿の問題で好みが分かれ、結婚の話が全く無いと聞いています」

「でも、何度かお話しいたしましたが、内面は優しく素晴らしい方でしたよ」



「実は、私の夫も、見た目はゴリラなんです」

 私のおのろけを聞いた男爵令嬢の笑い顔は、キラキラしています。


「ありがとうございます、カトリーヌ様。私は、婚約破棄されましたけど、やり直す事ができるでしょうか」


「やり直しできると思います。私も元気が出ました」

 そう、私は元気が出ました。


 ◇


 夫と二人で、神父様の執務室を訪れました。


「神父様、これまで匿って頂き、ありがとうございました」

「私たち二人はここを出て、働いて、食堂を開きたいと考えます」


「わかりました、その前に」

 神父様が、布袋を取り出し、私に差し出しました。


「これは、貴女のお母様から預かった物です」

「何かあったら渡してくれと、頼まれていました」


「これは宝石、、、お母様の形見もあります!」


「お店を開く資金にすると良いでしょう」


「何から何まで、ありがとうございました」



 ◇



 開店した店は、まぁまぁ繁盛しましたので、従業員を雇い、店を任せています。



 私が育った屋敷は、神殿の管理の下、昔から働いていた使用人だけの少人数で維持されていると聞きました。

 皆さんは元気でしょうか?



 そんなある日、神父様がいらっしゃいました。


「お久しぶりです神父様」


「実は、男爵家の取り潰しを検討した際、実の長女には罪が無いと判明し、貴女の爵位はそのままになっています」


「「え?」」

 夫とハモリます。



 神父様は、話を続けます。


「お二人は駆け落ちしましたが、あの一家は、何も手続きを行っていません」

「さらに、自分たちが、あの男爵家を継ぐ手続きすら、行っていませんでした」


「そのため、書類上、カトリーヌ様が男爵家の跡取りになっています」



「また、貴女の旦那様は、秘密にしていますが、平民ではなく、隣国の男爵家の四男です」

「いや、俺は家を飛び出した身だ」


「あなたの実家は、今でも貴方の所在を探しています」


 私は初耳で、これは私自身の話よりも衝撃的です。



「もう一つ、あの男爵令嬢が今は子爵夫人となっており、貴女の後ろ盾になると言っておられます」

 情けが、自分に戻ってきました。


「屋敷で働く使用人の皆さんも、お二人を待っています」


「神殿による一時的な管理は、もうすぐ終わるので、今日、伺いました」

「お二人には、法に従って、屋敷の主人として戻ってもらいます」


 神父様は、まったく表情を変えず、淡々と話を進めます。

 でも、店に飾ってある、あの恋物語のサイン本は、微笑んでいます。



 ━━ FIN ━━



お読みいただきありがとうございました。


よろしければ、下にある☆☆☆☆☆から、作品を評価して頂ければ幸いです。


面白かったら星5つ、もう少し頑張れでしたら星1つなど、正直に感じた気持ちを聞かせて頂ければ、とても嬉しいです。


ありがとうございました、読者様のご多幸を祈願いたします。


この短編は独立していますが、フランが主人公の短編

「聖女は謙虚に成り上がる!婚約破棄の原因は、私が平民だから?あんたの浮気が原因でしょ?」

https://ncode.syosetu.com/n8552id/

と一緒に読まれますと、さらに面白いと思います。

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