彼女と最後に飲む缶コーヒー
自動販売機から缶コーヒー2本を手に取って、彼女のもとへ行く。
「はぁーーー。」
彼女はベンチで白い息で手を温めていた。
「買ってきたよ。缶コーヒー。」
「ありがとう。」
彼女は僕に気がついて、微笑んだ。僕は彼女に缶コーヒー1本を渡した。僕は彼女とちょっと間を開けてベンチに座った。彼女は受け取った缶コーヒーで頬を温めた。彼女が視線を送った。僕らは缶コーヒーを片手で持った。
「「カンパーイ。」
僕らはお酒が飲めない年だから、コーヒーで乾杯をする。缶コーヒーのステイオンタブを開けて飲む。僕はちょっとだけ飲み、彼女と僕の間に置いた。
「・・・。」
「・・・。」
僕らの間で沈黙が流れている。本来なら気まずいはずだが今の僕はこのまま時間が進まなければいいと思っている。
「「あのさ。」」
僕らの声が重なる。
「話を先にどうぞ。」
「あ、うん。」
彼女に譲ってしまった。話すべきことがあるのに。僕から話を切り出さなくちゃいけないのに、言葉が出てこない。冬の寒さで口が凍っているのだろうか。彼女は両手で缶コーヒーを覆って、視線を落としている。
「私達別れよっか。」
「あ。」
僕が切り出そうと思っていた別れ話を彼女が言った。彼女も潮時だと薄々気付いていたんだろう。
「私達、付き合った頃よりすれ違いが増えて笑顔が減ったと思うんだ。1ヶ月前はデート場所で喧嘩しちゃったし。2週間前はインスタントコーヒーで喧嘩しちゃったし。」
彼女の声は笑っていたが、顔は笑えていなかった。
「私達コーヒーがきっかけで付き合ったのにコーヒーで喧嘩したんだよ。もう終わりなんじゃないかな。」
「うん。」
僕は頷くしか出来なかった。
「もうこんな時間だね。帰ろっか。私、家あっちだから。」
彼女は立ち上がった。僕も立ち上がって言った。
「送って「いい。一人で帰る。」
僕は彼女が帰るところを見送ることしか出来なかった。彼女の後ろ姿だけをずっと見ていた。いつもそうだ。肝心なところは全部彼女にやらせてしまっている。情けない。僕はベンチに座った。ベンチに置いてあった自分の缶コーヒーを最後の1滴まで飲んだ。