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ヤクザは言葉巧みに他人を操る

 フランドルをサシで倒したというのが効いたようだ。アラシとレイラはほどなく村の集会所に案内された。サハタリの自治派と恭順派、それに近隣の村からも代表が集まっているらしい。この村規模にしては、集会所は立派だった。


 中に入ると、討論というよりは言い争いの声が聞こえてきた。


「だから、なんで戦わなきゃならん。フランドルがいくら強かろうと奴らが本腰入れてきたら敵うわけがない。大体同時に複数の部隊が攻めてきたらどうするんだ。アトレイアのデバイス兵にフランドル抜きで勝てるのか?」


「だからって言いなりになるのかよ。あいつらどんどんエスカレートしていく。金を出せ、食い物を出せ、しまいにゃ女を出せだ。税の比率で言えば6割。異常だぞ。デグズムンドの時の時は多い時で4割だったんだ」


「そのデグズムンドがもう降伏してるんだぞ。他に頼れるところがあるんだったらわしらだって頼るわい。今のうちにこちらから頭を下げて税率を下げてもらったほうがマシだろう」


「あいつらが信用できるか!」


「では戦って勝てるとでもいうのか!」


 アラシとレイラが部屋に入るとか一斉に値踏みするような視線が向けられ、一瞬部屋が静まり返った。


「アレがフランドルを倒したって男か……」


「ふん、いくら腕っこきだからって1人強いのがいたって何も変わらんよ」


「大体どこの誰かもわからんやつを信用していいのか?」


「バルタザールの服みたいだが、バルタザールの軍人かの」


 アラシが部屋の中心まで歩むと、自然に皆がアラシの言葉を待って静まり返った。こういう時のアラシは、自然と耳目を集め、自分がこの場の中心にいるという存在感を発揮する。不思議な男だった。


「まず、俺の立場を説明しておこう。名はアラシ。やんごとなき方から依頼をされてアトレイアと戦う気のあるものを集めている。ああ、やんごとなき方の詮索はやめてくれ。アトレイアに知られればその方が危うくなる」


 嘘ではない。バルタザールの姫であるレイラと協力関係にあるのは本当だ。知られればその身が危ないのも。ただ、この口の聞き方ではアラシが身分を隠したそれなりの立場のもののように聞こえる。


「アトレイアと闘おうというのは、この村だけではない。デグズムンドのみならずバルタザールにも仲間はいる。イクティージアでも同じように反アトレイアの活動を行なっている。準備ができればこの村に兵力を送ることも可能だ」


 バルタザールの仲間はレイラ、イクティージアで活動しているのはレツだ。だが、聞いてる方は3人とは思うまい。レツはイクティージアで仲間を集めるとは言っていたが、ホイホイすぐ人を送り込めるような体制ではない。


「その上で、この集落の者たちがアトレイアと戦う気があるならば手を貸す。俺は、この村の守護神と戦って勝てるくらいには強いし魔法も使える。見返りは反アトレイア組織の拠点の提供。税に関しては2割で構わん。それでどうだ?」


 しゃあしゃあとアラシは続ける。


「もちろん、言葉だけで信じろとは言わない。実力を見せよう。この村の戦力抜きで俺がアトレイアのデバイス兵を退けよう。それを見て決めてもらって構わない。状況が落ち着くまでは俺がここでアトレイアの相手をするし、自警団の訓練も引き受けよう」


 レイラは隣で聞いていて舌を巻いた。確かに、嘘は言ってないが、本当でもない。聞く方がこう思うだろうという方向に話を誘導している。

 今の話だけ聞けば、アトレイアと戦争をするほどの力はないが、ある程度の兵力と権力を持った三カ国のどこかの貴族が、地方の反乱勢力を後押しする為に腕利きの軍人を送り込んできたように解釈することもできる。というよりも、そう受け止められるように話している。

 サハタリの集落が力を貸す見返りは免税と武力の提供。反アトレイア組織が表に立って戦ってくれるなら悪い話ではない。話だけを聞くならばそう思える。


 おまけに、本来の論点である。「アトレイアと戦うか降伏するか」を「アラシがアトレイア兵に勝てるか勝てないか」にすり替えている。

 そして、アラシがアトレイア兵に勝った場合、アトレイアに対抗する為に本格的に砦や連絡網、自警団を拡張した組織を作ることになれば、一旦反アトレイアに傾いた流れを戻すことは困難だろう。利益がでている一度出来上がった仕組みを壊すことは困難だ。。そして、なにより()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 レイラも一国の王女だったのでわかる。これは、駄目でも損はない利益ある提案に見せかけた、甘い罠だ。一度のってしまえばおそらく後戻りはできない。そして、デモンストレーションの、アトレイア兵の撃退を、アラシはこれ以上なく見事にこなすだろう。


 なんということだろう。身一つで村を訪れたアラシが、その風格と、フランドルを倒したという実績だけを信用手形に、辺境の集落を抑え、拠点と税収、自警団という武力を手に入れようとしている。レイラは驚きで目が回りそうだった。


 只者ではないと思っていたが、まさか、レイラという神輿を見つけてから二ヶ月で、金と居場所と部下をつくるとは。


「あんた方の言いたいことはわかった。フランドルを一対一で倒したほどの御仁だ。ある程度は信用もしよう。だが、これは村のいく末に関わる問題だ。もう少しわしらだけで話し合いをしたいと思う。よいかな」


 ざわめく集会所を鎮めたのは少し身なりのいい老人の一言だった。サハタリの村長らしい。


 結局、村人だけで相談をするということになり、返事は後日と言われてアラシとレイラはしばらく村に滞在することになった。


 レイラにも今後の展開は想像がついた。次は実際にアトレイア兵を倒してみろ、と言われるのだろう。そして、次々に来るアトレイア兵を撃退しながら、この男は信用を得ていくのだ。


「この詐欺師!」


 集会場を離れ、2人きりになってから、レイラは思わずアラシに噛みついた。


「詐欺師とはひどいな。嘘は言っちゃいないだろう?」


「相手に勘違いさせるような話し方は詐術というのでは?」


「まあ、任せていろ。結果もついてきたら誰も文句は言わん。詐欺師は最後まで騙しきれないからそう呼ばれるんだ」


「では、最後まで騙し切ったら英雄とでもいうの?」


「いや、俺はヤクザさ。夢を売って漢を買う」


「あなたはまともな方だと思っていたけど、やっぱりちょっとおかしいわね」


 レイラはため息をつきながらこぼす。


「まともな奴はアトレイアと闘おうなどと言い出さんよ」


「で、細工は流々ってわけ?」


「いや、腕試しはあるだろうが、もう一山ありそうだ。拠点は作れそうだが、あいつがどうするかだな」


 アラシは珍しく物憂げに答える。


 もう一山が来たのはそれから10日後だった。

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