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ヤクザは初手で己の力を見せつける

前話、改稿いたしました

 女は、ニカリと笑って快諾した。


「あたしはフランドルって呼ばれてる。飯を食わしてくれるんなら手合わせくらい、いくらでも相手するよ。手応えのないやつが多いんだ。腕に自信があるならちったあ楽しませてくれよ」


「やめなよ。アトレイアじゃないかもしれないけど、怪しいよ」


 線の細い男が止めに入るが、フランドルは気にしない。


「アドルは心配しすぎなんだよ。たまにはあたしだって全力を出してみたいんだ」


 レイラに馬を預け、諸肌を脱いで構えるアラシ。正面に腰を落として準備するフランドル。体のサイズは一回りほどフランドルが大きい。アラシも弱くはないはずだが、軽々と馬ごと騎士を持ち上げて投げる程の力はないだろう。レイラはアラシの意図がわからずに困惑していた。勝負になるとは思えない。


「いくぜ」


 構えたアラシが、言うなり頭から突っ込んだ。巨躯にも関わらず速い。そして低く重い体当たりがフランドルに直撃する。硬いものがぶつかる音がして、フランドルは微動だにせずにアラシを受け止めた。やはり、根本的な力はフランドルの方が上だ。

 フランドルとアラシが組み合う。フランドルがニヤリと笑う。


「アンタ、大したもんだな。今まで組んだ奴の中で一番強えよ。でも、あたしにゃかなわねえな」


 そのまま、フランドルがアラシの肩と腿を掴んで持ち上げようとする。左手を肩に置き、腰を落として右手で足をかかえようとしたフランドルは、だが、そのまま一回転して地に転がった。横から見ていたレイラには何が起こったのかはさっぱりわからなかった。強いて言えば、フランドルが自分で回転したのかのようにみえた。


 今度は、アラシが笑う。


「力は大したもんだ。俺もかなわん。だが、技はそれはどないようだな。まあその力があれば、生半な技は必要ないか」


 おそらくは初めての経験なのだろう横たわりながら唖然とするフランドル。アドルというフランドルの知り合いの男も、目を丸くして硬直している。


「うそだろ……。力比べで負けるなんて……初めて見た」


 一瞬のち、フランドルはガバリと起き上がり、アラシに詰め寄った。


「なあ、もう一回! もう一回頼む!!」

「何度でもいいぞ」


 その言葉通り、フランドルは何度も組み合いに行き、その度に地面に転がされた。二十回を超えたあたりだろうか、寝転んだままうめく。


「どうなってやがんだ、全然わからねえ。アラシっつったな。お前何者だ? 魔法みたいだけど魔法じゃねえ。自慢じゃないけど、今までアタシを転がした人間なんぞいないんだよ」


 アラシは、手で汗を拭いながら呵呵と笑った。


「そいつは光栄だな。これは、修行すれば身につけられる技術だ。お前さんの力のポイントをずらして、重心を崩す事で転がしている。一対一で力で敵わない相手と戦う時のための技だな」


「すげえすげえ。こんなに転がされたのも、全力を振り絞ったのも初めてだよ。気持ちいいもんだな」


 フランドルは立ち上がり、誰に対してでもなく遠くを見るような顔をして呟いた。


「そんじゃ、飯にするか。腹が減っただろう。昨日の夜にソードボアを捕まえて燻製にしてある。水場に案内してくれ。こっちもこの辺りのことを聞きたい」


「ソードボア? ご馳走じゃねえか!」


 勢いよく振り向いたフランドルは、そのままアラシを水場に案内する。アドルもフランドルについていく。


「切り替えの速い人……」

 

 見学していたレイラもその後に続いた。


水場に着くと4人はアラシの出したソードボアの燻製と野草のスープに、街で買ってきたチーズで昼餉をとった。


 「おお。これ美味いな。おかわりくれ! チーズってのも初めて食べたぜ。いやー、幸せだよ」


 フランドルはニコニコしながら食べている。レイラも旅の途中に思ったのだがアラシは料理が美味い。野草に詳しくて道々野草を収穫しているし、料理を任せるといつ採取したのかわからないハーブが巧みにつかわれている。何より火の通し方とか肉切り方など、根本的なところがまるで貴族のお抱えシェフのように丁寧で繊細だった。

 今の燻製肉も、肉の風味を殺さず、食欲をそそるように薫香をつけ、さらに塩と肉の旨味をスープに移しつつ、トロリと柔らかい食感に仕上げてある。正直、村の道端で食べようなレベルの料理ではなかった。


「大袈裟ね。アラシの料理が美味いしいのはわかるけど、チーズくらいなら街まで行けば売ってるわよ」


「いいなあ、あたしはこの村から出たことがないからなあ」

 

 羨ましそうにフランドルが嘆息した。


「まあ、このご時世だ、中々旅に出るのは難しかろうがな。お前さんさえよければ案内するぞ。落ち着いたら俺と一緒に旅に出てみないか?」


「そりゃあ、いいな。飯も美味いし、アンタとなら楽しそうだ」


 はにかんだ笑顔で、しみじみと頷くフランドル。


「あの、アラシさんはこんな田舎に何の用があってきたんですか?」


 質問をしたのはアドルだった。聞いてみると代々村で薬師を務めている家の息子で、フランドルとは幼馴染らしい。


「おお、俺たちは、アトレイアと対抗するやんごとなき方に頼まれてな、この辺りにアトレイアに抵抗する村落があると聞いて様子を見にきたんだ。この辺りのことを教えてくれないか?」


 飯を食いながら、話を聞いたところ。2年ほど前にデグズムンドがアトレイアに降伏をしてから見回りに来ていたデグズムンドの兵隊たちがこなくなった。代わりにアトレイアの兵隊達が税を寄越せと近隣に押しかけてきたということだった。

 断ると村や畑を荒らすので大事になる前に言いなりに税を納めた村もあるが、ここ、サハタリ村ではフランドルを中心とした自警団が要求を拒んでおり、近隣の村もサハタリを中心に自治をしようという動きが出ていたそうだ。

 だが、デグズムンドの中央が落ち着いたためか、ここ最近は頻繁にアトレイア軍が訪れるようになり、兵も増えてきた。本格的な戦いになれば勝ち目はないため、この辺で折れておこうという恭順派と、多少犠牲を出しても戦うべきだという自治派で意見が割れ、何度も話し合いがもたれているらしい。

 自警団の若者には自治派が多く、年寄りは恭順派が多い。村全体としては恭順派が多いが、村長は自治派よりということだ。

 

 「成程、では、その話し合いに参加がしたい。お前をサシで倒せる武人が、アトレイアに勝つ方法を教えてやると言っていると村長につたえてくれないか」


 アラシは不敵に笑った。

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