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ヤクザには秘密が多い

 一晩で色々なことがありすぎた。

 ほとんど、夜通し全力疾走をした後に、斜面から転落、更にアトレイア軍との対峙、レイラは限界だった。


「これからの話は明日するとして、そろそろ休みませんか?」


「嬢ちゃんも疲れたな。後始末は俺がしておく。レツ、嬢ちゃんに寝床作ってやってくれ。あと、流石にその格好はないだろう。とりあえず、俺の替えの服でも羽織っておくがいい」


 アラシは、荷物の中から白い布地を出して、レイラに差し出した。


 言われてみれば、レイラの格好は酷いものだった。もともと、馬車で移動して、知り合いの領主のお世話になるはずだったのだ。山中を駆け回る様な服装ではない。肩紐はちぎれ、背中は半ばまであらわになり、脚もぼろ布を巻きつけた様な状態で太腿が大きく露出している。はしたないどころではなかった。


 「ありがとう……ございます……」


 布を受け取って、礼を言うのが精一杯だった。

 顔が熱い。恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのがわかる。

 それどころじゃなかったんだから仕方ないじゃないとか、もっと早く言ってよとか、言いたいことは山ほどあったが初対面の恩人にいうことではないという事がわかる程度には、理性が残っていた。


「そら、擦り傷も多い、体も綺麗にしておけ」


 アラシはそういうと、手を前に出して一抱えほどもある水球を出現させた。


「しばらく浮いている。半刻もすれば自然に消えるから、体を洗って着替えたらレツの作ってる寝床で休め。俺は死体の処理をしている」


 レイラは手を伸ばして水球に触れた。やや弾力を感じた後に、指先が水球にはいる。不思議なことに割れたりはしない様だった。人肌程に暖かいその水で、顔を洗い。手足の泥を落とす。


「原始魔法……。凄い。水分の抽出、固定、水温の調整。割れないのに手足を入れることはできるのは、表層の固定ではなく座標で固定? どれだけ精緻にコントロールしているのかしら」


 不思議な二人だった。原始魔法は素質と修練が必要だ。デバイス10人分の魔法を打ち返したアラシの腕前であれば、どの国でも宮廷魔術師が務まるだろう。この若さでそれだけの腕であれば噂にくらいなってもよさそうなものだ。小国の王女とはいえ、レイラの耳にそんな話聞こえてこなかった。


「どういうことかしら、色々と確認しなきゃ……、とりあえず……、明日……」


 傷を洗って泥を落として、体があったまると、流石に溜まっていた疲労が押し寄せてきた。レイラは、アラシの服を纏うと、用意された寝床に横たわるなり眠り込んでしまったのだった。



 翌朝、3人でこれからのことを打ち合わせた。

 街に向かい、レイラの着替えを購入した後、アラシとレイラは反アトレイア色の強いデグズムンドの村に行って交渉の余地をさぐる。

 当座の資金を得る為に、レツはバルタザールにレイラのしたためた手紙を持って事情を説明に行く。表向きは、誘拐犯よりの身代金の請求だ。金を受け取ったらレツは、いるであろうアトレイアの尾行を巻きながらイクティージアで仲間を募る。


 アラシが話を纏める。よく喋るレツだが、肝心な時の仕切りはアラシに任せている様だ。


「てな訳で一旦近くの街に移動だな。アトレイアの兵が行方不明になっちまってるから長居ははできねえ。一泊したら移動する。で、後は何かあるか? 嬢ちゃん」


「聞きたいことは山ほどあります。まず、それだけの原始魔法の使い手で名が売れてないのが疑問です。偽名でしょうか? 次に、それだけの技術を身につけるなら良き師か、組織が必要です。バックには誰がいるのでしょう? それから、あなた達、バルタザール人の様だけどアラシのこの服は、バルタザールの民族衣装とは少し違います。どこからきた何者なのでしょうか? 国を作る目的は? 本当に二人だけなのですか?」


 慌ただしかった昨日から一晩経てば疑問だらけだ。レイラは昨日から積もりに積もっていた質問を並べ立てた。支援の約束までしてしまったが、この二人はよく考えれば怪しいことはなはだしいのだ。というよりも怪しさの塊と言ってもいい。


「流石俺ちゃんが見込んだ嬢ちゃんだ。頭が回るなぁ。でもまあ、金主とはいえ全部教えてやるわけにゃあいかねえ。アンタが捕まった時に情報を全部はかれても困るんだ」


 レツの言うことはもっともだが、だからといってはいそうですかと引き下がるわけにもいかない。


「そうだな。嘘はつかずに答えられるところだけ答えよう。まず、俺とレツは二人だけだ。バックには誰もいない。変わり者の師匠が魔法やら生き方を教えてくれた。師匠がどこの人間かは知らないが、この服は、師匠の国の衣装だ。師匠については迷惑をかけたくないからいえない。国を作る目的は、俺たちが居場所をなくして他に行くところがないからだ。アトレイアなんかに頭を下げずに、気に食わないことは気に食わないとはっきり言って生きていきたい。そうしたら、国を作るしかないだろ」


「普通は、多少気に食わないことは飲み込んで生きるんじゃないのですか?」


「俺たちが普通だとでも?」


「まあ、それはそうですね」


 あまりに、馬鹿な質問をしてしまいレイラも苦笑するしかなかった。

 普通でないところは昨日から散々目にしている。


「じゃあ、レツが時々言ってるヤクザっていうのはなんなのですか?」


「おお、それ聴いちゃう? ヤクザってのは、男の中の男。己に芯を持っていて、国だろうが軍だろうが、英雄だろうが、お天道様に顔向けできない様なことをやるやつは許さないヒーローさ。悪いこともするけど、基本的には弱者の味方。俺ちゃんと兄貴の憧れだよ」


 嬉しそうに、レツが答えた。レイラが昨日から聞いていたニュアンスとはだいぶ違う様な気がする。そんな意味だったのだろうか。


「こいつの意見は少々偏ってるが、まあ、そうだ。悪事も働くが、仁義を胸に、強きを挫き、弱きを助ける渡世人ってとこだな」


 アラシが助け舟を出した。


「騎士道を胸に秘めた民間の騎士って感じなのかしら」


「間違っちゃいないな。師匠が好きだったんで、俺もレツも染まっちまったんだ。レツに至っちゃあ、ほとんど正義のヒーロー扱いだ。ニンジャみたいなもんだな」


「またわからない言葉が出てきました。とりあえず、英雄だからなって言ってる様なものだと思っておけばいいのね」


「その理解で概ね間違っていない」


「あとは、昨晩レツが使ってた黒い魔道具は何でしょう? 私はこれから身一つだし、特に魔法も使えない。私にも使えるなら使いたいです」


 レツが嬉しそうに答えた。


「チャカが気に入ったかい嬢ちゃん。いいところに目ぇつけたな。こいつは、チャカって言って魔力をこめることで硬質化した魔力を発射する魔道具だ。デバイスみたいに何種類も魔法は使えねえし、直線でしか飛ばねえ、射程も短い、だが、速射性は高いし、人は殺せる。一緒に行動するなら危険もあるだろう。俺ちゃんが教えてやるよ」


 胸元から黒い魔道具をだして、指先でくるくる回して胸元にしまう。レツの動作は流れる様に美しかった。


「そうだな、銃くらい使えてもバチは当たらんな。レツ、教えてやれ」


そうして、アラシは立ち上がった。


「そんなところか? まあ、俺たちもわからないことは沢山ある。ぼちぼち情報交換をしていこう。山奥で3人暮らしだったからな、世情に疎いんだ」


「おー、じゃあいくか! 兄弟。姫さん」


「街中で姫さんはやめてください。レイラも不味いですね。なにか呼びやすい偽名で呼んでもらえますか?」


「じゃあ、サソリ」


 間髪入れずにレツが答え、アラシが噴き出した。


「なんですか? 変な意味でもあるんですか?」 


「ない。しぶとそうだなって思っただけだよ」


「んじゃ行きますか! 兄貴。サソリ」


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