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ヤクザは金主をみつける

 全てが終わった後、レイラは安堵のため息をついた。

 思わぬ僥倖で生き延びた。レイラの国外への脱出や、そのルートを漏らした裏切り者の名前もわかった。


 吐いた当人は黒眼鏡の男によって、デバイスを奪われ首だけを出した状態で地面に埋められている。


 そして今、レイラは黒眼鏡の男から、交渉を持ちかけられていた。


「よお、俺ちゃんはレツ・ダッカス、刀の兄弟が、アラシ・ダッカスだ。約束通り嬢ちゃんを守ったし、俺ちゃんたちの腕はわかってくれたと思う。だから、代わりにアンタの力を貸してほしい。一緒に、アトレイアに喧嘩売らねえか?」


 黒眼鏡の男、レツはとんでもないことを言い出した。


「つまりだ、アンタにゃ、俺ちゃんたちの神輿になってほしいわけだ、俺ちゃんたちゃ、アトレイアから独立した国を作りたい。その大義名分と、立ち上げのちょっとした金主になって欲しい。俺ちゃんたちゃ今オケラだからな」


「2人で国をつくる? 正気ですか?」


「絵は俺ちゃんが描く、アトレイアの目の届かねえ、辺境からちょっとづつ締めていく。正式にアトレイア勢力圏に入ってないが、手を出されてるところは結構ある。そこにアヤつけて、こっちのシマに取り込んでいく。アトレイアに搾取されるよりはマシなくらいのミカジメ料はもらう。なんたって、俺ちゃんたちゃヤクザだからな。その代わりにケツはこっちでもつ」


 レツは、眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら、レイラに鋭い視線を送る。


「あちらさんが本気でやりあう気なら、ドス持ってカチコミだ。っても、本国の指令を無視して辺境のクソ安全で偉そうにできる環境から戦争を起こそうなんて無茶するヤツはそー居ねえ」


「もし、万が一、アミがかかって俺ちゃんたちがパクられたらうたってもらって構わねえ。金だってアンタを人質に脅された事にでもすりゃ、たいして追求されることもねえさ」


 飄々と話し続けるレツだったが、一息つくと、人が違った様に冷たい声で告げた。


「ただし、裏切りは許さねえ。アンタらがチンコロしたら、どんな目に合おうと、たとえくさい飯食う事になったとしても必ずケジメはとる。ヤクザだからな」


 レイラの背筋は氷を突っ込まれたかの様にゾクりとしたが、一瞬の後にはレツは穏やかな声と軽い雰囲気に戻っていた。


「どうだ? アトレイアに喧嘩を売るのはもっと先だ。少なくても辺境を纏めて、三カ国に足場を作ってからになる。その頃にゃ兄貴の貫目もわかってるはずだ。実際戦争するかは、それから決めてくれて構わねえ。それまでは金と情報を回してくれりゃあ十分だ。立ち上げに力を貸してくれたってなりゃ、こっちもアンタに義理ができる。後々疎かにはしねえぜ」

 

 黙って話を聞いていた刀の男、アラシが口を挟む。


「こいつは面倒臭い言い方をしているが、要はアトレイアを共に討つ為に信用できる味方が欲しいから手を貸してほしいという事だ。俺は、でかい顔押してるアトレイアを殴り倒したいだけだが、レツはそれだけじゃない」


「あ、兄弟は黙っててくれよ。デグズムンドにイクティージアにもいずれ話は持っていく、今ならアンタが俺ちゃんたち兄弟の最初のスポンサーだ。こいつはでかいと思うぜ」


 少し焦った様に、レツが続ける。案外、悪ぶっているだけなのかもしれない。レイラは少し面白くなった。


「このままじゃ三カ国ともアトレイアに好き放題しゃぶられておわりだぜ? それくらいはアンタにもわかるだろ?」


 これだけは、本当に心からそう思う。オークションなどと胸糞悪い事を聞かされれば尚更だ。


「金だって、人集めてミカジメ料が入るようになりゃあ、こっちでなんとかする。シノギは、用心棒に、賭場に花屋、違法薬物に武器の横流し、情報商材にネズミ講、やれる事はいくらでもある。ヤクザだからな」


 言ってる事は所々よくわからないところがあるが、助けてもらった恩がある上に、アトレイアが見過ごせない事情もある。非合法の手段を選んでも、アトレイアを止めようとしている事はなんとなくわかった。レイラはおずおずと答えた。


「出来るだけ無辜の民を傷つけない事、アトレイアに膝を屈しない事を約束してくれれば貴方と手を組み、支援もしましょう」


「努力はするが、戦争になったら、それは仕方ないと思ってくれよ」


 レツが右手を差し出してくる。

 レイラは迷いながらもその手を握り返した。


「姫さん、アンタ、賢い選択をしたぜ。2年待ちな。バルタザールでのアンタの地位を盤石なものにしてやる。バルタザールの姫さんには怖いケツモチがついてるってな」


 レツは無邪気に笑う。


「じゃあ、当座の金をもらったら、姫さんをバルタザールに送る。そしたら、俺ちゃん達は、デグズムンドとイクティージアでシマの拡張とテカの整備だ」


「まあ、足元は固めないとな。人手とヤサは必要だ」


「バルタザールには送らなくてかまいません。帰ればアトレイアから痛くもない腹をさぐられます。デグズムンド領主を頼っても同じことです。アトレイア軍20名を倒す様な戦力があるのか? アトレイアと戦うのか? 必ずこの機に乗じて圧力をかけてくるでしょう。私はあなたたちと行きます」


「危ないぞ。覚悟はあるか?」


 アラシがこちらを確かめる様に見る。

 どうも、レツと違い、アラシは話していて安心感がある。なんとなく、この人になら頼っても大丈夫というような大物感。


(だからって、頼りきりになるわけにはいかないんですけれど)


「ええ、祖国帰って見つからない様にコソコソ暮らすよりは余程いいです。資金は私の身代金ということにすればいいし、手紙には私が一筆書きましょう。それでこの件はバルタザールともデグズムンドとも関係ない。山賊がたまたまアトレイアとかち合って戦った後に王女を誘拐して逃亡。そういうことになります」


「俺ちゃんたちの罪状が増えるなぁ」


 ニヤニヤと、レツが笑みを浮かべる。


「今更そんな事を気にするあなた方ではないでしょう。それに、この後、あんた達が何をするかも興味があります。さっきの言葉だけで信用するほど子供ではないので、本当にアトレイアと戦うのか、戦うにしても悪さをしないのか、絵空事をどう実現するのか、見張って、眼鏡に敵わなければ協力関係は解消させてもらいます」


「いいね、いい女だ」


 レツは満面の笑みで両手を挙げた。


「俺ちゃんたちも試させてもらう。アンタの肝と度胸と覚悟。後悔すんなよ」


 こうして、金主を得た2人のヤクザと姫は、仲間を探しに辺境に向かう。レイラがとんでもない奴らと組んだ事を知るのはそう遠い日のことではなかった。


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