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ヤクザの店は大繁盛する

「今オススメなのは、外周にできたばかりの『アンユージュアル』って酒場だな。ツマミが美味いのもあるんだが、女の子の衣装が凝っててなあ。あのあたりのレベルの店だと先輩のお古のドレスを田舎から出てきたばかりの娘が頑張って着てる事も多いんだけど、サイズも合ってるし、なんつうか雰囲気出てるんだよ。俺が行った時は、貴族のお嬢様風ドレスと二回目は神官風の衣装だったけど、どっちもそれっぽいけど、露出を多くして色気は出しててなあ」


 髭面の年嵩の男が力説する。


 外周のさらに外側に位置する食事処は、歓楽街に行く前の腹拵え、作戦会議、歓楽街を訪れた後の締めの食事などに利用されている。集まった男達が酒場と娼館の品定めを行っているのは、イクティーカでは定番の光景だ。


「そうそう、あそこ上の娼館は、下の酒場の格好した女の子が出てくるんだよな。俺アトレイアの軍服きた女の子に命令されるのが癖になって連チャンでお世話になってるよ。シアちゃんがエロいんだわ」


 一緒に飲んでいた線の細い美男子があいづちをうつ。


「なかなかレベルが高いな」


「そうなんだ、あの店、女の子のレベルは高いよ。可愛い子は他の店にもいるけど、あそこは教育が行き届いてる」


「お前の変態レベルが高いんだよ」


 ガッハッハと笑い声が響く。


「俺は、やっぱりセブンスヘブンでしかできない。あのぬるぬるしたやつ。あれがサイコーに気持ちよかったなあ」


 赤髪の体格のいい男がにへらと顔を緩めながら思い出すように語る。


「あー、ろーしょんとかいうやつな。あれで女の子に絡み付かれるのは癖になるなあ。アンナちゃんが上手いんだ」


 一見真面目そうな黒髪を束ねた男が同調する。


 レツの店が開店して二ヶ月がたった。


 レツは、言葉通り店の娘たちに指導ができる経験者の娘を他の高級娼館や酒場から連れてきた。着の身着のままで田舎から出てきたところを拾われたはいいが、売れっ子になっても安く使われていたエイミィ、店長に口説かれて店にいづらくなったセレン、それなりに長く働いて蓄えもできたので自分たちと同じ苦労を同郷の娘たちにさせたくなくて働く場所を探していたココ、中堅店のNo.1になって、条件の良い店に移ろうと探していたアキナ。飽きっぽく、刺激を求めて面白い店を探していたリリア、技術はあるが気分にムラがあり働ける日を融通して欲しいというネル。




「俺ちゃん、面白い事やろうと思ってるんだけど興味ない?」




 レツはお店に通ってその店ごとで女の子と話し、新しい店のコンセプトに賛同してくれた女の子の中でも技術の高く頭の回転の速い6人を説得して新店舗の主軸として据えた。

 その手腕は魔法のようだった。ふらりと店を出たと思ったら夕方には一人連れてくる。と言った様子で、特に表だったトラブルもなく6人集めると、女の子の教育を開始した。




「オーナー、これ着てお店出るのは大丈夫なんですか?」


「大丈夫、大丈夫。どこの神殿とか宗教のマークも入れてないから。あくまでそれっぽいだけね。軍服もおんなじよ」




 レツの店が流行ったのは、一つは男たちが噂していたように衣装だった。期間ごとに神官風、貴族風、軍人風、冒険者風、水着、民族衣装などを用意して期間ごとに全員がその格好で客を出迎える。「アンユージュアル」で衣装が気に入れば「セブンスヘブン」で女の子にその衣装を着てもらうことができるのも人気の一つだった。




「オーナー、これ、ぬるぬるですよぉ。何に使うんですか?」


「これはローションっていって、俺ちゃん特製の触ったとおり滑りを良くするやつだ。身体中に塗って密着してもいいし、手とか太ももに垂らして使ってもいい。詳しくは講習で教えるよ」




 もう一つ、「セブンスヘブン」はレツの発案で潤滑油となるローションを使用していた。ローションを使ったプレイは目玉の一つであり、また、濡れにくく苦労していた女の子やサイズの大きいの客の相手をしなければならない女の子に喜ばれた。

 芋をすりおろして濾した汁を乾燥して作った粉から作ったこのローションは、イクティーカでも「セブンスヘブン」でしか味わえない唯一無二の商品だ。

 それに伴い、客ごとにキャストが身体を綺麗にできるように、レツは魔法で温水球と石鹸と香水を準備した。




「なにこれ、客一人ごとにこれつかっていいの? 最高じゃん?」


「いや、わたし、これがあるだけでこの店でよかったわよ。もう他の店で働けないわ」


 ローションを落とすための温水球だったが、今までの店ではせいぜい汲み置きの水にひたした布で身体を拭くだけだった女の子からは好評で、さらに副次的にいい匂いがすると客からの評判も上々になった。




「これ、美味しい! カリカリしてジュワッとお汁が出て」


「油をこんなに贅沢に使うなんて……」


「俺ちゃん特製メニューの鳥の揚げ物よ、芋揚げたやつもいけるだろ?」


「このスープは、お酒飲んだ締めにはよさそうね。胃がおちつくわ」




 アンユージュアルは、衣装の人気とともに、その料理の美味さが評判となっていた。レツは料理が美味く、ツマミとして出されるには惜しいレベルの料理が供されたた。界隈の酒場のツマミは、パンとチーズ、焼いた腸詰め、ナッツ、酸味のある果物あたりが定番だったが、アンユージュアルでは贅沢に油を使い、下味をつけた鳥を揚げた物や、細く切った芋を揚げた物、野菜や魚介類やキノコを串に刺してあげた物がツマミとして出され、大人気となった。仕入れによって品は変わるが、野菜を干した海藻と塩で漬けた箸休めや、野菜を煮込んだスープは飲んだ後の締めの一品として定番の人気商品となった。


  店の評判が上がるとともに、働くのを希望する女の子たちは多くなり、すぐに店の上階の住み込み部屋は男女ともにうまってしまった。店はイクティーカの街の中でも中堅規模になり、このランクの店としてはトップクラスの人気店となった。


 衣装やプレイは真似をするところがすぐに出てきたが、レツが一人で作るローションと脂を使った料理の味付けはだれにも真似ができなかった。また、温水球は、そもそも宮廷か高位貴族にしか使えない原始魔法使いを風俗に使うために準備できる店があるわけもなく、花から抽出した香水の匂いとともに「アンユージュアル」と「セブンスヘブン」だけの設備としてお客さんにもキャスト人気を博したのだった。


 店がある程度軌道に乗ると、スカウトを担当していた男たちを今度は食材の確保にまわしていった。レツは狩りのやり方から、取ってきた獲物から脂を取り出す方法、さらに料理人となったスタッフに作り方を教えていった。もともと肉体労働がメインだったデグズムンドの男達はすぐにやり方を覚えていった。バルタザール組の男たちは、戦う代わりに香辛料や香料となる野草や花の見分け方と採取を行い、素養のあるものは魔法の鍛錬も行うこととなった、


 こうして、店員という名目で、戦える人材と、魔法の使える人材、そして情報網が出来上がっていった。

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