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ヤクザは女の子をスカウトする

 翌日、ユーリとダンを連れて酒場用に借りた場所に行くと、レツは2人に説明を始めた。


「ここで酒場を、上で娼館をやる予定だ。オマエらにはそれを手伝ってもらいたいのよ」


「はぁ、俺らのグループ全員男だぜ?」


 眉間に皺をよせるダン。


「んーっと、買い出し、料理、掃除とかそのあたりかい?」


 ユーリは少し考えて質問する。


「そうそう。オマエらのグループで18人。まず、料理ができる奴。2、3人いれば全員の食事と酒場で出す料理を担当してもらう。できる奴がいなけれゃ興味があるやつでかまわねえ、俺ちゃんが教える。あとは、喧嘩に自信がある奴と計算ができる奴。これが店の受付と会計だ、酒場と娼館で2人づつは欲しい」


「後10人は何するんだ? 掃除も雑用もそこまで必要ないだろう?」


「後は、スカウトだねえ。この酒場も娼館も、まだ女は1人も居ない」


 2人が驚きの声を上げる。


「あてもないのに店借りたのか? あんた大丈夫か?」


「おい、そんなんで給料払えんのかよ」


 レツは余裕の表情で応える。


「まあ、店がポシャっても人数分ニヶ月の給与は出すよ。オマエらはそれで働いてよければそのまま働くってことで構わねえ」


「あんたがそれでかまわないならいいけどよ。支払いは日払いで貰えるか? 後払いはなしだ」


 ユーリが少し警戒した表情訊くと、ダンも横で頷いている。


「もちろん構わねえよ。スカウトだが、知り合いでイクティーカで働きたいって娘がいたら紹介してもらいたいが、メインはこの街を訪れる地方から出てきた娘っ子だ」


「オマエらにも心当たりがあるだろう? 地元にいても働く場所がない、独り立ちして家族を支えないといけないけどどうしたらいいかわからない、都市に出ればお金が稼げるらしい。華やかな仕事ができるらしい。そんな夢を持ってイクティーカにくる娘達だ」


 思い当たる節があるのだろう。そろって頷くダンとユーリ。夢を持ってイクティーカを訪れるのは娘だけではない。


「イクティーカにきてもなんのツテもない。稀にいい店に拾われる娘もいないじゃないがほんの一握りだ。殆どはスラムに居つくことになるか、ひでぇ条件で最下級の娼館か酒場務めだ。同郷の互助会みたいなので面倒見てくれる先輩と出会うってのが一番現実的でマシな結末だな」


「その娘たちを見つけてこいってことか?」


「そう、同郷なら少しは安心するだろう? デグズムンドとバルタザールの同郷者を見つけて、うちの店を斡旋する。稼ぎたいなら娼館、そこまででないなら酒場。朝晩食事付きで住み込み可、衣装代こっちもちで、給与は日払い。水商売のイロハを教えてやるし、条件のいい店に移りたいなら止めやしない。普通に考えて、なかなか好条件だと思うぜ。街の入り口で途方に暮れたやつ、働かせてくれって頼んで断られていく宛てもなく落ち込んでるやつ、スラムにたどり着いて希望を無くしたやつ、そんな娘たちに働く場所があるよって教えてやってくれ。実際、それで救われる娘ってのは相当いるはずだ」


「言ってることはわかる。だけど限界があるだろう? 何人雇うつもりだい?」


「当座娼館で10人は、酒場で20人。あとは人が増えたら店を大きくしていくさ」


 レツは当たり前のように言った。


「10人で2人組を5組、店の雑用に2組でのこりはスラムと街の入り口と、歓楽街をうろつきながらそれっぽい娘に声をかける。歓楽街担当のやつは、暗い顔してる奴がいたら話を聞いてやれ。ひでぇ条件で働かされてたり、嫌な客がいて店を代わりたいんだったらウチを紹介しな。但し、あくまで向こうから持ちかけられた場合の、相談だ。他店の娘にうちで働くように声をかけるのは仁義に反するから止めるようにな」


「めんどくさいもんだな」


 ダンがため息をつく。


「こればっかりは大っぴらに声をかけるとこええ人達が出てくるからな。用心しとくに越したことはねえ。声かけた娘にもそのことは言っとくんだぜ」


「人集めにはいい方法だと思うけど、流石に素人だけ集めたところで店をやるのは無理じゃないか?」


 ユーリが怪訝な顔で尋ねた。

 

「その通り。後は店の軸になる経験者を何人か、これは俺が他の店から引き抜いてくる。まあ、さっきも言ったがあからさまな引き抜きはご法度だから、ここは俺ちゃんの仕事だね。何人かもう種は巻いてるよ」


 レツは既に目星もつけてあるようだった。


「女の子が揃うまでは、キャストのスカウトやってもらいながら店の仕事を教えていく。お前らの仲間も宿がなけりゃあ住み込みで構わねえ。部屋はこの上で何人かで一部屋使ってもらうけど飯と寝床は保証する。そん代わりその分給与から天引きだ。どうだ? やるかい?」


 ダンとユーリは顔を見合わせてから、声を合わせて答えた。


「条件は悪くない。日払いでもらえるならこっちからお願いするよ。明日からでいいのか?」


「そうだな、詳しい事はまた話すから、ここに住みたい奴、料理担当、腕っ節担当、会計担当を仲間内で決めてから明日集まってくれ」


「俺んところは肉体労働専門だから腕っ節担当は出せる。料理ってほどではないけど飯作ってる奴はいるからそいつかな」


 と、これはダン。


「俺んとこは体も小さいから腕っ節は難しいな。会計は俺と、商家の次男坊がいるからそいつでこなせると思う。料理はダンと一緒だな、器用なやつがなにかしら作ってるからそいつだけど、料理ってほどじゃない」


 こちらはユーリ。


「構わねえ、じゃあ、明日集まってもらって組をつくる。とりあえず迷ってる娘がいたら連れてきてくれ。スカウト組が出てる間に料理やら段取りを教えるよ」


 次の日から、レツの店の準備が始まった。

 雇った配下全員にこぎれいな揃いの服を配ると、住み込み組に同居のルールを伝え、仕事の方は細かくスカウトのコツを教えていく。店の掃除やルール、符牒、段取り覚える事は山ほどあった。

 

 しかし、店でも出すことになると言うレツの料理の美味さと、雰囲気を知っておくためとして、他の酒場に連れて行ってもらえること、きっちり、時間をわけて休みをあたえられ、週に一日は完全休養の日があることなど、待遇の良いことから文句を言うものはなかった。むしろ、全員が、店が軌道に乗ってこの生活が続くことを祈っていた。


 娘たちも、次第に集まってきた。レツのいうように、イクティーカに働き口を求めてやってきたが、いく場所がない娘は、同郷の男たちが信用できると伝えれば、おずおずとだが、ついてきた。ある程度娘が集まれば口コミで増えるのはすぐだった。


 レツが手下達を連れて行った店から、何人か引き抜いた女達が集まった娘に教育を行う。

 それから業者を呼んで娘達のサイズをはかり、衣装を発注する。一月ほどで、歓楽街の片隅に酒場「アンユージュアル」とその上の娼館「セブンスヘブン」が開店することになった。

 

 

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