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ヤクザは親子の盃を交わす

 アドルとレイラは先に村に帰った。


 アラシは、何も言わない彼女を小屋で休ませ、魔法で穴を掘ってアトレイア兵を埋め、村長の死体を村に連れ帰れるように整えた。


「さっきも思ったけど、アンタ、器用なことするよね。アトレイアが使うのは火の玉ばっかりだったけど、アラシのはほんとに魔法だね」


 俯いたまま、真っ赤な燃える様な髪に顔を隠して、彼女は話し始めた。


「ねえ、アンタとサソリはどっかの国の偉いさんだっていうのは本当かい?」


 茫と、森を見ながら、彼女は尋ねる。


「いや、俺は身一つだよ。変わり者の師匠に拾われて魔法を教わっただけで、ただの孤児だ。まあ、アトレイアが憎いのは本当だし、仲間を集めてるのも本当だ」


「ふうん。あたしも、アトレイアは嫌いだな。どいつもこいつも偉そうなやつばかりだった」


「これから、どうするつもりなんだ?」


 アラシは作業をやめて、彼女の前まで歩いてくる。


「それがね。自分でもわからないんだ。知りたかった名前はもうわからない。アトレイアは嫌いだけど、村を守る為に戦うかって言われたら、アドル以外に守りたいやつなんかいない。でも、村を見捨ててやりたいことも何もない。空っぽさ」


 俯いて、ポツリとこぼす。


「でも、もう、フランドルと呼ばれるのは嫌だな」


 アラシはしゃがみ込んで、彼女の顔を見る。


「俺達と、来るか?」


「え?」


「初めて前に飯を食った時に誘っただろう。一緒に旅をしないかと。しがらみはある。サハタリは守らねばならんし、一緒に来るなら危険もある。俺はアトレイアと戦うつもりだからな。小競り合いだけではすまなくなるだろう。それでもよければ、俺たちとこないか? お前の面倒は俺が見る。いわば、親代わりだな。ちょっと変わった弟分と、サソリがとりあえずの仲間だ。どうだ?」


 彼女は目をパチパチと瞬かせ、それから、嬉しそうに笑って言った。


「親代わりか。そんなに歳も変わらねえだろうに。でも、そうだな。それもいい。アンタのことは好きだ。あたしに居場所をくれるなら、命懸けでアンタの為に働いてやるよ」


 アラシは土魔法で盃を作り、水魔法で盃を満たす。


「もう一度だけ聞く。これを受け取ったら、もう戻れない。俺たちと戦いの日々だ。それでも構わないなら受け取れ。そのかわり、受け取ったら、俺はお前を全力で守る。お前の敵は俺の敵。お前の家族は俺の家族、お前の道は俺の道だ」


「難しいことはわかんねえんだけど。二つだけ頼みがある」


「なんでも言え」


「アタシに名前をくれ。親のアンタにつけてほしい」


「わかった。もう一つは?」


「うまい飯を食わせてくれ」


 彼女はニカリと笑った。


 アラシは頷いて、立ち上がり、盃を差し出した。


「このアラシ・ダッカス。我が娘となるミヤビ・ダッカスに、己のすべてをかけて、守り、鍛え、教え、道を示す。自由に生きる術を身につけ、自ら輝く玉となるまで我が誓いは変わらず。我が娘に困難にあえば共に苦しみ、道に迷えば道を示し、危機に陥ればこれを救うことを誓う。汝、ミヤビ・ダッカス、幾多の苦難あれど父、アラシ・ダッカスと歩む決意あらば、その盃を一気に飲み干し、誓いをあげよ」


 彼女は、迷いなく盃を受け取り一気にあおる。


「ミヤビ・ダッカス。今日よりアラシ・ダッカスを父として共に歩む。アンタのために。どんな困難も斬り払う剣となる事を誓う」


 そうして、彼女は晴れ晴れとした顔で言った。


「ミヤビか。気に入った。どんな意味なんだい?」


「気高く、美しいというような意味だな。その名の通り生きよ」


「う、ヘヘへ。照れるなあ」


 彼女ははにかんで笑う。その顔にはようやく、今まであった陰が晴れたようだった。


 その後は事後処理だった。

 ミヤビにレイラの身分を明かし、レツの事を伝える。どのみちレツが来るまでは時間がある。これからは自警団を掌握しながらサハタリ周辺の村落を取り込んでいくことになる。

 アラシは、自警団の規模を大きくしながら魔法の素質のあるものに魔法を教え、村落間の伝令を密にすること、サハタリに拠点となる建物を作り、他の地域に偵察に行く部隊をつくる事、ミヤビには当座サハタリの守護をお願いする事を伝えた。


 それから、村長の死体を村に運び、拾われ子の自分が遺産相続に関わらないよう家を出ること、アラシの身内になること、この機会に名前をミヤビと変えることを伝える。

 村の人たちは概ね好意的に受け入れてくれた。アラシのデモンストレーションも効いたのだろう。村長の後継も先代ほどの権力欲も実力もない。


 村長の葬儀を行い、近隣の村々と協定を結び、各村の有志による自警団を組織して、その指導をアラシが受け持つ。そんな体制が落ち着いたのは、三ヶ月ほど経ってからだった。


 サハタリを含め7つの村が同盟を結び、自警団の人数も300人ほどになった。馬と狼煙による連絡網を作り、アラシが各村を巡りながら武術と魔法の指導を行う。ミヤビも自警団のNo.2として、鍛錬を行いながら時節訪れるアトレイアの兵隊を追い払っていた。


 レイラは、自警団の事務仕事を請け負っていた。すっかり「美人自警団員サソリ」として有名になった彼女は、各村落から集めた税の振り分け、アラシとミヤビの巡回コースに訓練の日程、訓練場の確保、自警団の施設の建造計画など忙しく働いている。計算に強い村人が少ないので、アドルに補佐してもらいながら仕事を教える毎日だ。


「しかし、出会って半年で、拠点と部下と収入源をほんとになんとかしちゃったわね。信じられない」


 ざっぱくな喋り方もすっかり板についている。

 自警団の事務所に現れたアラシは笑みを浮かべて応えた。


「まあ、まだ辺境の一区画だ。これからだな。それより話ってのはなんだ?」


「それね。自警団の名称を考えて。各村の自警団と紛らわしいの。それなりの規模になったし、所属をはっきりさせたいのよ」


「ああ、道理だな。名前か、それなら嵐山会にしておくか」


「ランザンカイ? また、妙な名前ねえ」


「構わん。それが俺たちだ。嵐山会、初代会長アラシ・ダッカス。本部長レツ・ダッカス。若衆ミヤビ・ダッカス。お嬢も入るなら事務局長でスカウトするぞ」


「私は遠慮しとくわ。国に帰れば私の仕事があるからね」


「それは残念。お嬢には向いていると思うがな」


「それ、褒め言葉なのかしら?」


 レイラが本気で嫌そうな顔で首を傾げる。


「ハハッ。褒め言葉だ。いつでも就職は受け付けるぞ」


「アラシー! 訓練行こうぜー!」


外から、ミヤビの呼ぶ声が聞こえる。


 こうして、辺境にヤクザ組織・嵐山会が立ち上がった。



 

これにて第一章完結。


次からはレツのパートとなります。

第二章「娼館の皇帝」

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