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15話。令嬢、王都に到着する

南條さんが悪いと思ったので初投稿です。

大胆な貴族たちが織り成す波乱万丈な学園生活の幕が明ける数日前のこと。


「なんやかんやで王都に着いたわけなんだけど……」


なんていうか、うん。


「特に何の感慨も湧きませんね」


「ほんとそれ」


昔は憧れとか学園生活に対する不安あった気もするけど、今はまったくない。


もっとも胸中を占めているのは、馬車での移動は億劫だったなぁという何とも言えない感想のみ。


「というか、あの野獣しかいなかったオークの森に比べれば安全地帯でしかない王都が醸し出す雰囲気なんて別段気にもならないわ」


気にするだけ損。温すぎて風邪をひくわよ。


「わかります。そのオークの森も今やお嬢様の庭のようなものですしね」


「いや、ベシータ様の庭でしょ」


名目上は私の管轄だけど、実質的な支配者は、ねぇ?

フェメラたちもそうだし、何より私自身がそう思っているもの。


「そうでしたね。うっかりしていました」


「サキだってそう思っているくせに何を……あぁ、もし私が調子に乗っていたら性根を叩きなおすつもりだったのね?」


油断慢心は駄目。ベシータ様への感謝を忘れるなんてもってのほか。

調子にのった私が万が一にもベシータ様に無礼を働かないよう、釘を刺しているのよね。


「ご明察です」


「あっさり認めるんじゃないわよ」


忠誠心に溢れているのは分かるんだけどさ。

最近のこの子はその忠誠心を発露する方向性が迷子になっているのよね。


別に悪いことではないけど。


「私の忠誠心をご理解いただきありがとうございます。ところで、来月からお嬢様のご学友となられる方の情報をお聞きになりませんか?」


「学友?」


そう言えば学園だものね。そんなのもいるでしょうよ。でもさぁ。


「必要ないんじゃない? 誰がいようと別に関わる必要はないんだし」


ブルマリア侯爵家を継ぐのは従兄弟のマルティンだからね。

分家の当主に過ぎない私は表に出ない方がいいでしょ。


そう思っていた時期が私にもあったわ。


「お嬢様がそのように考えていても向こうから関わってくる可能性も有りますし、何よりベシータ様にご下問頂いた際に答えられないのは危険かと愚考いたしますが?」


「何をしているの? 早く教えて」


前者はともかく、後者はマズい。マズ過ぎて嘔吐しちゃうわ。


「……まぁいいでしょう。まずはランディ王子殿下」


「パス」


説明不要のぼんくら王子。ブルマリア侯爵に混乱を持たらした元凶その1であるぼんくら王の息子。聞く前から知っているわ。


「では次。スコットレイ・リーフブライト」


「パス」


リーフブライト侯爵家の次男坊、つまり私の元婚約者にしてブルマリア侯爵家に混乱を齎した元凶その2の息子。こいつも聞く前から知っているわ。


「では次。トーマス・フィルダー」


「名前は知っているけど詳細は知らないわね」


宰相の子供ってことくらいしか知らないわ。


「お嬢様がお考えの通り、宰相フィルダー伯爵の嫡子です。特徴としては……特に無いですね」


「それで何を知れと?」


特徴が無いのが特徴? まぁ宰相の子供ってだけでも十分な特徴なんだけど。


「実際特筆するような点がないんですよね。武力も知力も並みの学生よりは上ですが、ベシータ様と比べれば天と地ほどの差がありますし」


「比べる相手が悪すぎるでしょう」


隔絶した力をお持ちだから勘違いしがちだけど、ベシータ様って普通に頭が良いからね。

何なら叔父上や御爺様より為政者に向いているから。


「ですが、学園を卒業したら一人の貴族です。比べる相手が悪いとか言っていられませんよ?」


「それもそうなんだけどさぁ」


学園で注意するべき相手とは一体……。ま、まぁ権力に気を付けなさいってことにしておきましょう。


「次。グレイグ・キーオ」


聞いた名ね。


「それは近衛騎士団長の子供だったはず」


「はい。武神と謳われた近衛騎士団長のご子息で、幼少期から鍛え上げてきたその武術の冴えは大人の騎士にも勝ると評判です」


「大人の騎士、ねぇ」


それってオークナイトに勝てるの? あと武神? それ、ベシータ様のお力を見ても言えるのかしら?


「お嬢様。先ほど『比べる相手が悪すぎる』と仰ったばかりでそれはどうかと」


「あぁそうね。ごめんなさい。でもその程度なら別に問題なさそうね」


近衛騎士団長の爵位は名誉子爵。武力はもとより権力にも警戒する必要はないわ。


「まぁ、そうですね。では次。トレイ・ブラゼル」


「ブラゼル……宮廷魔法師の筆頭だっけ?」


「そうです。幼少の頃より王国一の魔法の使い手として名高いブラゼル子爵から薫陶を受けたとかで、その魔法力・魔法技術は同年代の中では頭一つ抜けていると評判です」


「なんか近衛騎士団長の子供の時も似たような評判だったような気が……」


気のせいかしら?


「噂をするのも評価をするのも王国の貴族、つまりは身内ですので」


「似通ったものになるのは仕方ない、か」


「ですね」


おこぼれに与りたい奴らが頑張ってヨイショしているわけね。

けど残念。興味もわかないわ。


「次はセシリア・アッチムーア公爵令嬢」


「ぼんくら王子の婚約者ね」


「はい。彼女の父アッチムーア公は現王の従兄弟。生家は王国の中でも有数の力を持つ公爵家。もちろん王家派です。セシリア様が王子殿下と婚約を結ぶことで王家派の力を強める意図がございます」


なるほどねぇ。でもさ。


「それ、二人が婚約する必要なくない?」


元々公爵家は王家派なんだからさ。同じ派閥の二人を結ばせるのではなく、それぞれを貴族派や中立派の子供と結婚させれば、少なくとも2つの家を取り込める……いえ、完全に独立した家なんてないから、複数の家を王家派に鞍替えさせることができるわよね?


それこそ過去の私とぼんくら王子を組ませて。スコットレイをセシリア様と組ませてもいいわよね。


少なくとも侯爵家同士で繋がりを作らせるよりも王家にとっては効果的だったと思うんだけど。


「それがわからないから今の国王は『ぼんくら』と呼ばれているのでは?」


「それもそうか」


貴族の後継問題に口を挟もうとして失敗したぼんくらだもんね。


まぁ、そのぼんくらに良いように転がされたぼんくらが少し前の私とお父様なんだけどさ。


「ぼんくらでも油断をしていた過去の我々を殺す程度の策を巡らせることはできるのです。お嬢様も気を抜かぬように」


「えぇ。わかっているわ」


もしあのときベシータ様が来て下さらなかったら、私たちは凌辱の限りを尽くされた上で殺されていた。


あのときに感じた恐怖は忘れはしない。

あの後に感じた怒りも、ね。


「では次に行きます」


「え? まだいるの?」


今年の新入生、個性多すぎない?


「王子殿下の生まれに合わせるように生まれた子が多いですから」


「あぁ。そういうことか」


同学年なら王子と知己を得られるかもしれないもの。大貴族はもちろんのこと、下級貴族や裕福な商人からすれば側仕えや側室になることができたら万々歳。


そりゃ一縷の望みを懸けて頑張るし、母数も増えるわよね。


「と言っても、国内の貴族ではこれが最後です。マルティナ・ウォーレン男爵令嬢」


なんか微妙に聞き捨てならないことを言われた気がするけど、その前に。


「男爵令嬢? あぁ、その男爵がなにか特殊な役職に就いているのかしら?」


近衛騎士団とか宮廷魔術師みたいに。


「そういうのはないですね」


「はい?」


王や宰相、公爵や侯爵には権力がある。


近衛騎士団長や宮廷魔術師には特殊な技術に裏付けされた強さがある。


だから、彼らの子を警戒対象として私に知らせるのは理解できる。


でもそういう肩書を持たない、ただの男爵の娘のなにを警戒しろと?


「警戒すべきは生まれではありません。件の令嬢は、先日教会によって聖女と認定されたそうです」


「……なるほど」


教会関係者、それも聖女ときたか。それはサキが警戒を促すに足る理由だわ。


なにより、前に挙げた連中は全員が全員親の力あっての権威。


もちろんその男爵令嬢にも教会という後ろ盾はあるでしょう。

でも一番大事なのは本人に特殊な力があるってこと。


その力が権力を吹き飛ばせるほどの力であれば……。


「サキ」


「はっ」


「その男爵令嬢の情報を集めなさい。特にどんな力を以て聖女に認定されるに至ったかを重点的に」


「かしこまりました。……殺しますか?」


「そこまではしなくて良いわ」


「かしこまりました」


もちろん敵になるなら殺すけど、教会が認める程の力があるなら殺すよりも王国の盾として利用する形で使い潰した方がいい。王子の側室あたりに落ち着いてくれたら最高ね。


「で、他は? いるんでしょう? とっておきのが」


さっき言ってたものね『国内の貴族ではこれが最後です』って。


つまり国内の貴族以外にもいるってことでしょ?


「ご明察です。ただ最後の方はまだ噂でしかないのですが」


「構わないわ」


噂が噂ならそれでよし。何も知らずにいて、その噂が本当だったときに慌てるよりはマシよ。


「噂では、聖都が召喚した勇者が留学してくる、と」


「勇者って……」


それが本当なら大事件じゃない。

もう頬がひきつっているのが分かるわ。


留学先として選ばれるためにぼんくらな王が聖都にいくら支払ったかって意味でね。


それにしても濃い面子ね。


「私の人生の先行きが不透明なのは今更のことなんだけどさ。せめて学園生活くらいは平穏無事に済ませたいって思うのは傲慢な望みなのかしら?」


「例年であれば当たり前のことでしょう。ですが、これだけの面子が揃っている状況では……。端的に言って贅沢に分類される願いかと」


「そうよね。知ってた」


(運命を司る神様がいるなら殴りたい。いや、ベシータ様に消し飛ばしてもらいたいわ)


――そんな物騒なことを考える元侯爵令嬢だが。当の彼女こそ、周囲から見れば自分も、否、自分こそが地雷原に仕込まれた最大最強の不発弾そのものであるという自覚はなかったそうな。


これにて三章終了。


幕間を挟んで4章学園天国偏……かも。


閲覧ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者ねぇ… 普通ならワクテカの場面だけど規格外の戦闘民族と比較すると、町内リトルリーグとアメリカ大リーグくらいの格差があるよなあ。勿論、どちらがリトルリーグかは推して知るべし。 聖剣なんか振…
[一言] 投稿お疲れ様です。 いつのまにか投稿されててビックリ&大歓喜です。 エルフはそのうち圧倒的な庇護者の元にあることを涙して喜ぶか、顔を引きつらせながら安堵の息を漏らすでしょうね。 学園物にあ…
[一言]  学園『天国』・・・天国が有るという事は、当然『地獄』も・・・
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