14話。つまり、こういうことだってばよ
フェメラ視点
「連中の言い分はこんなところだ。細かいところはわからんが、少なくとも聖都ってところで戦闘が発生していることや、魔物どもが移動しているのは事実のようだな。それに鑑みれば大筋で嘘は吐いていないと判断してもいいだろう」
「なるほど」
なんでも例のエルフどもは、ニンゲンに味方する為に出て行った裏切り者のせいで魔物に襲われて縄張りから追い出された連中らしい。
その裏切り者を抑えられなかった大人どもはともかくとして、子供にしてみたら完全なとばっちりってわけだ。
つまりあの迷子のガキも被害者ってわけだね。
それに関しては同情する気持ちがないわけではないけど、所詮は別の群れの話。
アタシらとしては「へぇ大変だったね。それで?」で済む話さ。
間違ってもアタシらが魔物を駆逐して住みやすくなったこの地域に住まわせる筋合いは無い。
本来なら、ね。
「そんなわけで、連中にこの辺を開発させることにした。正直な話、いちいち交代要員を運ぶのも面倒だったからな。まぁコッチ方面を開発するにあたって都合のいい労働力を得たと思えば、今回連中と遭遇できたことは悪いことではない」
「さいですか」
だから取り込むことにした、と。本当は「甘すぎじゃないですか?」と言いたいところだが、ベシータ様がそう決めたのであれば是非もなし。
ベシータ様の負担もさることながら、実際問題今のアタシらには森の拠点と海の拠点を同時に開発するだけの余裕はないからね。
アタシらが森に集中して、新参者に海の方をやらせるってんなら反対意見も出ないだろうよ。
……いや、そんなのがあっても実力で潰されるだけだけど、納得した上で働いた方が効率が良いからね。納得させることができるならさせた方が良いのさ。
「税としては連中がこの辺で得たモノの3割を出させる。ついでにエルフに代々伝わる方法で造られた木工細工や薬を食糧と交換って感じだな。なんなら森の方で得た材料を持ち込んであいつらに加工させたものを令嬢の街で売るって感じにできれば尚良しってな」
「あ~。その辺はお嬢にお任せですね」
交易とか産業ってやつは正直アタシにはよくわからないけど、ベシータ様が必要だというならそうなんだろうね。
あと税が3割って相当安いと思うんだけど、まぁ、ベシータ様が良いってんならそれでいいか。
「連中のレベリングはしない。拠点の警備用に副班長が1人と戦闘員を5人くらい置く予定だ。もちろん交代制でな」
「了解です」
流石ベシータ様。そうやって彼我の力関係を明確にしておくってわけだね。
連中からすれば、自分で自分の集落を護れないことを見せつけられるうえに、自分たちより圧倒的に強い者が、こっちからすれば代替可能な警備員でしかないってことを知らされることになる。
これはかなりのプレッシャーになるはずだよ。
そうやって数の上限も力の上限も見せないことで連中を圧迫するつもりだね。
うん。同じ部下でも、アタシらが上でエルフどもが下。
最小の労力で、アタシらへの配慮をしつつ連中に力の差を刻み付けるってんなら、確かにこれ以上効果的な手はない。
いや、一番お手軽で効果的なのはベシータ様がそのお力の一端を見せてやることだと思うけどさ。
それをやったら森が消えるからね。
流石に示威行為で消さなくて良いモノを消すのは勿体ないってことだろう。
だからこの形が一番いいってことさね。
あとの懸念は、アタシらの上にいる――つまり連中にとっても上司となる――存在。つまりお嬢のことだけど……ま、アタシが関与することじゃないか。
ニンゲンであるお嬢に従うのが嫌なら縄張りから出ていけばいい。
それができないなら諦めなってね。
所詮この世は弱肉強食。強い奴が偉いのさ。
「あとは……そうだな。令嬢の街に何人か連絡員として配置させるつもりだが、それをあいつらの中から選ぶつもりだ」
「あぁ、それはいいかもしれませんね」
もともと、店を開くにせよ単なる拠点にするにせよ、連絡役として誰かをお嬢の街に駐在させる必要があるってのは聞いてはいたよ。
でもねぇ。誰かがしなければならない仕事なのはわかっているんだけど、アタシらはニンゲンが大っ嫌いだからね。
ニンゲンの街に住むなんて虫唾が走るってのが大半、いや、全員の意見だった。
もちろんそこにベシータ様が住んでいるってんなら話は違うが、どうもそういうわけじゃなさそうだし。
だから、その虫唾が走る役目を新参者にやらせるとなれば、みんな新参者を受け入れることに諸手を上げて賛成するはずさ。
ニンゲンどもだってオークとのハーフよりは純血のエルフの方がとっつきやすいだろうしね。
尤も、ニンゲンの街に住むことになるエルフからすれば納得できることじゃないかもしれないけど、それもこれもベシータ様の決定だ。潔く諦めなってな。
「これ以上の細かいことは令嬢に任せる。もしかしたら後で貴様らにも何らかの指示が出るかもしれんが、余程面倒なものでない限りは従ってやれ」
「了解です」
そうは言っても、お嬢ならアタシらが我慢できないような命令はそうそう出さないだろうけどね。
もしそんな命令が出ても、アタシはともかくゼフィやテトラがベシータ様に告げ口してくれるだろうから心配はしていないよ。
その上でベシータ様に「そのくらいならやってやれ」って言われたら? やるに決まっている。
アタシらの中にベシータ様に逆らう気があるやつなんていないんだから。
「エルフ共についてはこんなところだな。暫くはこの体制に連中が大人しく従うかどうかを見る。護衛として配備するのは、その辺を注意深く観察できるやつを選んでおけ」
とりあえず様子見、だね。
「了解です。もし不平不満を抱くなら?」
「潰す。と言いたいところだが……」
「だが?」
「思うのは自由だ。口に出すなら注意。サボるようなら折檻。逆らうなら消す。こんな感じだな」
「なるほど」
わかりやすい。そしてこの方針はアタシらも無関係じゃないね。
後で皆に伝えておこう。
「で、だ。そろそろ令嬢も王都ってところに到着する。それに合わせて俺も向こうに行くことになる」
「はい」
「暫く……といっても三日に一度は戻るつもりだが、留守がちになるのは間違いない」
「はい」
「留守を任せられるのは貴様しかいない。俺がいないあいだの拠点と部下どもの統率は任せたぞ」
「はい!」
三日に一度帰って来るにせよ、留守を託されたのは間違いない。
ここでキチンと務めて評価を上げて、アタシが留守を護れることを証明する。
そうやって段階を踏んで、いずれはベシータ様の子を産ませてもらうのさ。
さぁ気合の入れどきだ。お嬢やメイドには負けないよ!
―――
おまけ。
「むっ。この感じは……」
「どうしたの? 誰かに狙われている、とか?」
「いえ、何やら邪な気配を感じました。具体的にはあの淫獣ですね」
「淫獣? あぁ、フェメラか」
「あんなのは淫獣で十分です。いつもいつもリョウ様に色目を使って……」
「アンタも似たようなもんでしょ」
「なにか?」
「なんでもないわよ。うん。そろそろ王都だからベシータ様と合流できるわねって話よ」
「そうですね。まぁお嬢様といえどもリョウ様はわたしませんが?」
「別に貴女から貰うつもりなんて「は?」怖い。怖いのよ、目が。ていうか、そもそも私はベシータ様を狙ってないから!」
「……リョウ様にご不満がある、と?」
「私にどうしろっていうのよ!」
獣人は本能的に強者を求める傾向があるもよう。
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