13話。エルフの事情
真実はいつも一つ。
おう、俺様だ。ベシータ様だ。
いきなり頭を下げてきたエルフの爺曰く、偏に魔物に追われて逃げてきただけとのこと。
これに関しては01たちがエルフのガキから聞いたのと同じだな。
まぁ、こいつらの恰好を見れば着の身着のまま逃げて来たのだということが分かる。
つまり、こいつらには俺たちを嵌めるような意図はなく、ただただ襲いくる魔物から逃げ回った結果、偶然この地に辿り着いたってことだ。
それに関しては理解した。
問題はその魔物どもが追手を放っている様子がないことだな。
中途半端だろう?
わざわざエルフを襲っておきながら止めを刺さずに放置していることが理解できん。
恨みを買うだけじゃねぇか。
疑問に思った俺は「何か心当たりは無いのか?」と聞いてみたんだが、質問された爺はいきなりメチャクチャ憎しみを込めた目をして「……あの裏切り者が」と呟きやがった。
それだけじゃ話がわからねぇってんで詳細を話すよう促したところ、よっぽど溜まっていたんだろうな。
俺が聞きたかったこと以上のことを勝手に話してくれたぜ。
―――
「……きっかけは半年ほど前のことです。ニンゲンどもが聖都と呼ぶ地にて、連中は勇者召喚と呼ばれる秘儀を用いて異世界から数人の子供を誘拐したのです」
「ほほう」
異世界召喚ってやつか。直接神っぽい奴に送り込まれた俺の状況とは色々と違うようだが、ある意味ではよくあるパターンだな。
「ニンゲンは一定周期で異世界から子供たちを攫ってきます。そして攫った子供を勇者だなんだと煽てて、魔族との戦いに利用しようとするのです」
「外道極まりねぇ奴らだな」
異世界召喚を客観的に見ればそうとしか言えんわな。
唯一の救いはニンゲン以外はこの行為を忌避しているってことくらいか?
「まさしく。といいますか、勢力の拡張を目論むにせよ何をするにせよ、この世界のことはこの世界の者がなんとかするべきことでしょう?」
「そうだな」
そうとしか言えん。
「彼らを呼び出した連中はこういうのです『自分たちのために魔物と戦って欲しい』と。無理やり親元から引き離された子供からすれば、自分たちを呼び出したニンゲンの言葉を信じざるを得ません。まぁ体のいい戦奴隷ですな」
「なるほど」
異世界から呼び出した戦奴隷に魔物を討伐させて自国の領土を拡張する、か。
ニンゲンが考えそうなことだぜ。
「常であれば、そうして呼び出された子供たちは聖都で一定期間訓練を受け、戦士としての技量を身につけてから外に出ます」
「む? 常であれば?」
わざわざそんな言い回しをするってことは、今回はいつもと違うナニカがあったってことか?
「はい。普段は自分たちから動きを見せることがない魔物たちが、今回に限って何故か聖都へと兵を向けたのです」
「ほう?」
「恐らく勇者の召喚に気付き、彼らが脅威となる前に葬り去ろうとしたのでしょう」
「ふむ」
わざわざ勇者がレベルアップするのを待つ必要はねぇからな。
ゲームとしてはシナリオも何もねぇクソゲー間違いなしな展開だが、実際に脅威となる存在が召喚されたと知れば狙われる方はそうするだろうよ。
言ってしまえばドラ〇エ4の勇者状態だな。
ヤツと違うのは、こっちの勇者にはモ〇ャスで身代わりになってくれる幼馴染がいないってことか?
つーかよぉ。あの場所に【はねぼうし】を仕込むのとかやめろよ。
それと、魔王の妹よりも幼馴染を復活させろよ。
もし復活させることができるならマスター〇ラゴンが魔王の妹を復活させればいいじゃねぇか。
無駄な戦乱を招くんじゃねぇよ、この糞トカゲがっ!
「……聖都での戦闘は数か月に及びました。いえ、今も続いているはずです」
おっと。話の途中だってのに、つい例のゲームを思い出してしまったぜ。
落ち着け俺。しんじるこころ。しんじるこころ。
「……なるほどな」
少し気になったんでスカウターをポチってみれば、確かに言われた方角で大規模な集団が争っているように見えなくもねぇ。これがコイツの言うニンゲンと魔物の戦闘だろう。知らんけど。
「これだけなら欲深いニンゲンと、それを打倒しようとする魔物の争いです。儂らには何の関係もありません。……敢えて言うのであれば、ニンゲンが勝てば勇者を旗頭にして森を切り開こうとしてくるでしょうから、儂らとしては積極的に縄張りから動こうとしない魔物の方に勝ってほしいとさえ思っておりました」
「だろうな」
エルフからすりゃそうだろうよ。
「……ですが、里にはそう考えない者もおったのです」
「ほう。それが貴様の言った裏切り者、か?」
「はい。そ奴は数代前の勇者と共に魔王と戦ったことで大賢者などと呼ばれておりました」
「大賢者、ねぇ」
見たところBP2500くらいのがいるが、コイツのことか?
これだけだと攻め手側にいるキングクラスにも届かねぇが……おそらく足りねぇ分は特殊な魔法かスキルでカバーしているんだろうな。
そうでなきゃいまだに聖都側が生き残っている理由がわからんし。
「……そもそもの話ですが、儂らは会議でニンゲン側に味方しないと決めていたのです」
「ん?」
「勿論異世界から誘拐されてきた子供に憐れと思う気持ちはあります。ですがそれもこれもニンゲンが行ったこと。そうである以上、その責任は連中が負うべきモノでしょう?」
「まぁ、そうだな」
現状勇者を召喚したことで得られる利益はニンゲンだけが独占しているんだ。そう考えれば『この世界の生き物が迷惑をかけたから』なんて理由でエルフがニンゲンに味方するなんてことはできねぇわな。
「それなのにアヤツは、勇者に手を貸すために単身で聖都へと向かったのですっ!」
ほーん。まぁそういうのもいるかもな。
「それだけなら個人の自由、と言いたいところだが……」
「儂とてそう言うかもしれませんな。……その報復で里に魔物が攻め寄せて来なければ、ですが」
「おぉう」
なるほどな。これで話が繋がったぜ。
こいつがその大賢者を裏切り者って呼ぶ理由もな。
「大賢者と呼ばれる者が数代前の勇者と共に戦ったエルフであることは広く知られております。当然魔王と呼ばれている魔物も知っているでしょう。その結果がこれです」
これ、つまり。
「見せしめ、か」
「……儂はそう考えております」
「ふむ」
つまるところ、魔物どもはエルフの大賢者が勇者に、いや、この場合はニンゲンに味方したからエルフの里を襲ったってわけだ。
追撃を徹底的に行わなかったのは、追い詰められ過ぎたエルフどもが全面的にニンゲンに味方しないためだろう。
多少の余裕を残しておけばエルフは報復よりも生きるために動こうとするだろうし、何より魔物よりも裏切り者やニンゲンに対して敵意を抱くだろうからな。
「あの痴れ者が勝手な真似さえしなければっ!」
それこそ今のコイツのように、な。
それに、この爺の言うことは決して間違っちゃいねぇ。
ガキじゃねぇんだからよぉ。自分が行動を起こす前に『大賢者がニンゲンに味方した際にエルフが魔物側から報復される可能性』ってのを考慮して然るべきだろうよ。
報連相は大事。古事記にもそう書いてある。
エルフどもだって、事前に言われてさえいれば抗戦するにせよ逃げるにせよ準備を整えられただろうからな。
そういった事前の連絡がなにもないところに、いきなり『大賢者がニンゲンに味方したから報復する』なんて言われて襲われた日にゃあ、連中がグダグダになるのは当然だ。
そんなグダグダな状態で自分たちより強く、数も多い魔物に勝てる道理もなし。
最終的にこいつらは戦いに負けた。で、里を追われ、這う這うの体でここまで逃げてきたってわけだ。
この状況を総括すれば……まぁ全部大賢者って呼ばれるエルフが悪い。
つまり、なんだ。
もしかしたら俺が豚の帝王とか孤島にいた帝王クラスを倒したのが原因かと思って話を聞いてみたが、なんのことはねぇ。現地人が自爆しただけじゃねぇか。
いやぁ。よかったよかった。
「それで、なんですが……」
「あぁ。わかっている」
不安が解消できたところで、残った問題を解決するとしようじゃねぇか。
「少なくとも俺様は貴様らがこの辺に住むことは認めてやろう」
「おぉ!」
「ただし、タダで住まわせてやるほど甘くはねぇぞ」
「……それは、そうでしょうな」
くくく、俺が原因なら少しは譲ってやるつもりだったが、そうじゃねぇなら話は別だ。
せいぜい俺のために働いてもらうとしようじゃねぇか。
エルフ爺:おのれ裏切り者め!
大賢者 :あぁ、私のせいで……
魔王 :エルフへの報復? なんのことだ?
元凶 :俺は関係なかった! ヨシッ!
閲覧ありがとうございました。